願いを聞かせて

赤猫

死にたいから飛び降りた

私は死にたいと望んでいる。

私は生きたいと願っている。

この二つの矛盾している感情が私の中にある。

毎日何も夢も希望もなく興味のない分野の学校に親と揉めて行って三年後少しで卒業というところで私の心は壊れてしまった。

放課後に長い時間課題に追われて先生に怒鳴られて気が付けば笑うことができなくなった。

気が付けば片耳が聞き取りずらくなった。

頑張ろうという気になれない。

理由があって休めば文句を言わる体調を崩して休めば嫌のような文句を言われる。

出来ない事を求めてきて勝手に相手が落胆するそんな生活が嫌になる。

出来ないものは出来ない私に一体何を願うのか?


「ここから飛び降りれば…ぐちゃぐちゃかぁ…」

夜の学校の屋上に侵入して少女は光の無い瞳でここから落ちるとぶつかる地面を見つめる。

月明かりが彼女の彼女の黒い髪を照らしている。

彼女は東野明とうのめいこれから死のうと考えている少女だ。

歳は十八とまだ若いこれから未来ある若者なのに命を絶つことを決意した少女だ。

「これで楽になれるのかな…」

いつでも一歩踏み出せば彼女の人生は終わりを迎える。

「私が死んでも周りは何とも思わないだろうから」

遺書なんてもの準備していない。なぜなら自身がいなくても明日を迎えるから、誰も気にしない誰も私のことで涙を流すことは無いから。

彼女は目を閉じて足を地面から離した。


彼女の葬儀は雨の中行われた。

突然のことに彼女の友人や家族がどうしてどうしてと涙を流していた。

「ちゃんと君のために泣いてくれる人がいるじゃないか」

「くだらない」

黒い傘を差している白髪の少女は遺影の彼女に瓜二つである。

あえて違うところをあげるとするのなら、髪の色くらいしか思いつかないほどに似ている。

その隣には透き通るような銀の髪に赤い目をしている男が立っている。

「たはーそうは言われても自分は明ちゃんの願いを叶えただけですし」

「本当に最悪」

「そう思うなら死にたいってもっと純粋に思ってくれると助かるんですけどねぇ」

「だから願ってたよ」

男は彼女の心臓の部分を指を指した。

「明ちゃんは死に際に思ったんだよ?もしかしたら…生きていたら何か変わるかもって」

「…」

「明ちゃんは願ったんだよ。本当に欠片ほど小さな願いだけどね」

「…そう」

どうでも良くなったのか少女は自身の葬儀の様子を遠目から見ている。

「見に行く?」

「どうでもいい」

「家族や友達にお別れしなくてもいいの?」

「私の死体とお別れしてるからいいんじゃない?それに私見えてないし」

「冷たいなぁ…ちょっとくらい行ってきなよ」

そこから一歩も動く気配のない彼女にどうしたものかと困ったような顔をして男は見つめる。


「ねぇ、私の死体が燃えたらどうなるの?」

「君は完全に死者として扱われる」

男は彼女が目覚めた時に言ったのだ。

「病室にいた時に生きたいと思ったら医者に死にました…なんて言わせないわよ」

彼女は肉体と魂が切り離された状態で一度目覚めた。

そして隣に立つ男に選択を迫られた。

生きることを願って心臓の鼓動を鳴らすか死んで止めるかを。

結論として明は死を選択した。

どうせここで生きても地獄のような生活に戻るだけならそこまでして生に執着する理由は無い。

「これから私どうしようかな」

「生まれ変わって一応新しい人生を掴むって選択肢もあるよ…それか自分みたいに死神になるか」

「死神ってそうやってなるんだ」

「ちゃんと死神の学校に通うことになるけどね」

「面倒な…」

「君の世界でもそうだったでしょ?学校行って教養を得て外に出る…死者もそんな感じなのさ」

彼女は考えるような仕草をする。

「結論を出すのに時間が欲しいから私が火葬されて納骨されるまで待ってくれる?」

「嗚呼良いともしっかり考えてね」


明はゆっくりと自分のこれからについて考える。

火葬場に向かうと本当の最後のお別れをしている人たちがいる。

そこには幼なじみや友人の姿もあった。

「何で死んじまうんだよ…!」

返事がないのにひつぎの中で眠る明に向かって問う少年。

「明ちゃん君は本当にそれでいいの?君に対して酷い仕打ちをした人たちもいるけどそれと同じように君を思ってくれる人もいるんだよ」

少女は背を向けた。

「私は望んで…願って死んだそれは変わらないし変えるつもりはないよ」

「分かったよ」

「あ、そうだ私は死神や転生したくないので」

「じゃあどうするの…?」

どちらの選択も取らない明に男は困惑の声を出す。

「私を貴方の助手にしてください」

「そんなこと出来るわけ…」

「私はまだ私でいたい…でも死神になりたくないだから私が生まれ変わりたくなるまで付き合ってもらう」

その時に男は見た。

明の顔が一瞬だけ微笑んでいたところを。





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