異世界屋台経営-料理一本で異世界へ

芽狐

第1話 プロローグ!鯖の味噌煮定食!

これは、異世界に転生した料理人が屋台1つで世界中を回り料理で人々を笑顔にするお話である。


俺が、異世界に来て10年が経とうとしている。しかし、あいも変わらず今日も屋台を引いて新しい場所に向かう。今回はどんなお客さんが足を運んでくれるのだろう。さぁ、仕込みをしないとな。

だがその前に、俺が異世界にやってきた10年を思い返してみようと思う。あれは、10年前の閉店時の出来事だった。






「ご馳走さま。今日もうまかったよ。ちょうど置いていくから」


「はい。いつもありがとうございます。ってもう1時か...そろそろ店を閉めるか」


いつも閉店ギリギリまでいる常連さんが帰って店を閉めに入口に向かう。しかし、ガラガラと引き戸が開いてお客さんが入ってきた。


「いらっしゃいませ。閉店の札にしたら戻りますので席でお待ち下さい」


個人経営のお店である為、閉店の時間を自由に決められるのだ。


「閉店時間だったのかい?そりゃ悪いことをしたねぇ〜。もし、あれだったら出ていくよ?」


「構いませんよ。ごゆっくりしていってください」


「そうかい悪いねぇ〜」


引き戸にぶら下がった営業中の札を閉店中に変えて店に戻る。そして、温かいお茶を淹れてお出しする。


「何か食べたい物はございますか?」


お客さんは、店内の料理名が書かれた札をぐるっと見渡す。


「鯖の味噌煮とご飯と漬け物と味噌汁をくれるかい?」


平安時代から飛び出してきたような身なりからして不思議な人だとは思っていたが、注文もザ・日本人の原点のような物を頼んできたのだ。


「畏まりました。少々お待ち下さい」


そして、注文された料理を作り始める。しばらく経つといい匂いが店内に立ちこめる。すると、お客さんは待ちきれないのか?ソワソワし始める。


「お待たせ致しました。ご注文の料理でございます」


綺麗な鯖の切り身にトロッとした味噌がかかっていて上には白髪葱が乗っている。米も粒が一つ一つ立っていて高級な米だと窺える。味噌汁もわかめとネギと豆腐もシンプルな物だ。漬け物も白菜ときゅうりと米に合いそうである。


「いただきます」


鯖の味噌煮を箸で切って一口サイズを口に運ぶ。その旨さと優しい味噌の風味に自然と笑顔になる。


「おいしいねぇ〜一口でご飯何杯でもいけそうだよ」


見た目の上品さとは裏腹に茶碗を持ってご飯を掻き込みながら食べるお客さん。


「ご飯のおかわりを頂けないかい?」


「は〜い。お待ち下さいね」


ご飯を待っている間も、味噌汁を飲んできゅうりの漬け物をバリバリと言わせながら食べている。「これもおいしいねぇ」と食べる毎に言う。


「お待たせしました」


ご飯の入った茶碗を受け取ると、また先程と同じ様に掻き込みながらご飯を食べる。そして、全て綺麗に食べ終わると、最後にお茶を飲み「ご馳走さま」と言って一息つく。


「大変美味しかったねぇ〜。蔵之介もここまでの料理は作れなかったよ。ここに来てよかった。でも、勿体ないねぇ〜君は今日死んじゃうからねぇ〜」


褒めて貰えたのは嬉しかったのだが、急に不吉なことを口走るお客さん。


「えっ...死ぬってまたまたそんな不吉なこと言わないで下さいよ」


「私もこんなことは言いたくないんだけどねぇ〜運命なんだよ。まぁこれ以上言って気分を害したくないから最後に聞かせてくれないかい?もし、死んでも料理人でいたいかい?」


偶に、このような変わったお客さんはいるので、いつもの感じで返答をする。


「そりゃ、料理人ですからね。店が無かろうが料理を作り続けますよ」


そう答えた瞬間、ガシャンバコーンと凄い音がなり、体に今まで感じたことのない衝撃が加わった。その衝撃とは、店に大型トラックが突っ込んできてトラックに跳ね飛ばされたのだ。


「ほら...運命は変えられないからねぇ〜でも次の人生では幸せになるんだよ」


最後に、お客さんの声を聞いて薄れ行く意識の中、もっと生きたかったなと思うのであった。

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