第21話 魔物の胃液はくさい

あるいつもの魔物との戦闘後、私が魔物から素材を採取するために川の近くで死骸を解体しようとしていた時、後ろから私の袖が引っ張られました。

何かと思い振り向くとアミスターがなぜかわなわなとしてやる気に満ちた顔して立っています。


「どうしました?」 


「私にも、それ教えて欲しい」


そう言ってアミスターは魔物の死骸を指さしました。

まさかこの子が自分からこんなことを言うとは思っていなかったので、私は喜んで教えることにしました。


「いいですけど、血がいっぱい付きますよ?大丈夫ですか?」


アミスターの頭を撫でながらそう忠告すると、彼女は尻尾をブンブン振り始めました。


「うん!大丈夫!」


「そうですか、じゃあまずこのナイフを持ってください」


ナイフをアミスターに差し出すと、彼女はまるで宝物をやっと見つけた冒険家のようにナイフを受け取り、しばらくまじまじと見ていた次の瞬間、彼女は急にナイフを空に向けて掲げました。


「おお!ナイフだー!」


「こら!」


私は興奮するアミスターの頭を軽く叩きました。


「ナイフをそうやって扱っちゃダメですよ」


「ごめんなさい…」


「次からは気をつけて下さいね」


怒られたアミスターはしゅんとして尻尾を丸め耳もたたんでしまい、可哀想で思わず撫でてしまいそうになりましたが、彼女の成長のため心を鬼にして撫でるのを我慢し、解体の手順を教えました。


「じゃあまず、お腹を開くためにナイフをお腹に刺してください」


そう指示をするとアミスターは勢いよく魔物のお腹にナイフを突き立てました。

正直、あまりに躊躇がなくて驚きました。


「こう?」


「ちょっと刺しすぎですね、内臓を傷つけちゃいますのでもう少し浅くです」


「これくらい?」


「それくらいですね、じゃあ次はお尻までその刺し具合で引いてください」


「わかった!」


彼女は相も変わらず様子で魔物のお腹を開きました。


「わぁ中身だぁ………くっさ!」


アミスターはそう言いながら魔物の死骸から少し離れました。


「そうですか?そこまで気になるほどでは…」


「マチィ…くさいよぉ…」


彼女はそう言いながら私にしがみつき涙を浮かべ始めました。

せっかく自分からやりたいと言ったのにここで挫折させるわけにはいかない、何かいい策はないかと考えた結果、私は布の切れ端を丸めて彼女の鼻に詰めました。


「これでどうですか」


「この前泊まったボロボロの宿屋さんのベッドみたいな匂い…」


アミスターはフガフガとしながらそう言って渋い顔をしながら私を見ました。


「いや、魔物の匂いの話です」


「あ、それは大丈夫」


「そうですか、じゃあ続きをやりますよ」


「わかった!」


アミスターがナイフを握ったのを確認して、私は魔物のお腹を開きました。


「あれが胃で、その裏にある肝を取り出したいのでまずは胃を取りましょう」


「わかった!」


「胃液が服に付かないように気をつけてください、すごい臭くてなかなか落ちないので」


「うん!」


私の言葉を聞いた後すぐにアミスターは意気揚々と魔物のお腹の中に手を入れました。


「上のこれ切ればいい?」


「そことあと下の方を結構切り忘れて胃液をこぼしちゃうので気をつけてください」


アミスターは意外にも慎重に作業を始めました。

そして、胃袋を取り出すことはできたのですが、こぼれた胃液でしっかり服を汚しています。


あとで洗わなきゃなと思いながら、胃袋を取り出せて嬉しそうにしている彼女を微笑ましく見ていました。


「マチ!取れたよ!」


「よくできましたね、じゃあそれは一旦川に流されないように水につけておいてください」


「わかった!」


アミスターは胃袋を抱えながらフラフラと歩き、胃液をぼたぼたと垂らしながら川に着くと、辺りを見回したあと振り向いて私の方を向きました。


「マチー、どうすればいいのー」


「大きな石とか乗せとけば大丈夫ですよー」


「わかったー」


その後アミスターは、しばらく使えそうな石を探した後、やっと手頃な石を見つけ戻ってきました。


「乗せてきた!次は?」


「次は肝を取りますよ」


「うん!」


私がそう言った後、二人でお腹の中を覗きました。


「その管がいっぱいついてるやつが肝です、根本から少し話して切り取ってみてください」


「これ?」


「そうです、傷つけないように気をつけてください」


私がそう忠告するとアミスターはゴクリと唾を飲み込んだ後、胃袋を取り出した時より慎重に作業をしています。


サクリ、サクリと一本づつゆっくり丁寧に管を切り、無事綺麗に肝を取り出すことができました


「おお…これが肝…」


「そうですよ、アミスターが取ったんですよ」


「中に入ってた時は見えなかったけど、結構ぶつぶつしてるね」


そう言ってアミスターは肝の表面を触りながら尻尾はブンブンと大きく振っていました。


そして私は鞄から瓶を取り出し、中に魔術で出した氷を入れました。


「じゃあそれをこの中に入れてください」


「うん」


潰さないようにゆっくり中に収め、蓋をした後アミスターにその瓶を渡しました。


「残りの処理をするのでちょっと持っててください」


「あ、うん、わかった…」


「続きはまた今度です」


私は少し残念そうなアミスターの頭を撫でた後、袖を捲っていつも通り解体を始めました。


「ちょっと待っててくださいね」


「マチ、すごい早い…」


その後、アミスターに驚かれながら手早く魔物の解体を済ませました。


「もう鼻のそれとってもいいですよ」


「やった」


アミスターは鼻に詰めていた布を取り、一瞬喜んだ後、額に皺を寄せて自分の鼻を手で塞ぎ叫びながら悶え始めました。


「うあっ、くさいいっ!」


「ああ、ごめんなさい、服に胃液が付いてたの忘れてました!」


「うわああっ!」


悶えるアミスターの鼻にもう一度布を詰め、魔物を解体した場所から少し離れた川の上流で服を綺麗に洗いました。


その後、綺麗な服に喜びながら私の周りを走り回るアミスターは、盛大に転んで泥だらけになり、もう一度洗う羽目になりました。

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