エルフ旅行記
海埜水雲
第1話 胞子の森
少し埃っぽくて薄暗い巨大なキノコだらけの森で、私は頭にキノコを生やしていました。
好奇心を抑えられずキノコの森に入り、手頃な大きさのキノコを見つけ、つい出来心で食べてしまいました。それで、気が付けば頭の上に立派な笠を広げた大きなキノコが生えていました。
どうすることもできず、ため息をついて頭から生えているキノコをいじりながら煙たい森の中を進むと小さな池を見つけました。ちょうど喉が渇いていたので運がいいなと思いながら小走りで近づくと、池の水は青白く光っていて、触れてはいけないようなオーラを漂わせていました。
これは飲めないなと本能的に思い、歩き疲れていた私はそのまま池のそばのキノコに背中を預けて休むことにしました。
まあ、ただ休んでいても今の問題は解決しないので、悶々と悩みながら頭のキノコを両手で揉み解しつつ「師匠よ、なぜキノコに寄生された時の対処法を教えてくれなかったのですか」などと涙を流しながら考えていました。
しばらく揉んでいると、ハッと昔師匠に言われた「キノコに寄生される奴はよっぽどのバカだよ」という言葉を思い出し、悔し涙を流しながら背中を預けていたキノコを何度も殴りつけました。
キノコが抉れるほど殴り続けていると、だんだん冷静になり師匠が昔、私に「何かあった時に開けろ」と言って渡した箱のことを思い出し、鞄からそれを取り出しました。中には三度ほど折り畳まれた小さな紙が入っており、微かな希望を胸にその紙を開きましたが、中には「自分でどうにかしよう」と師匠の似顔絵付きで書かれていました。
紙を破り捨て、またキノコを殴りながら「本当に、師匠、あなたって人は。あの箱まあまあ邪魔な大きさだったのに!」と叫び、血の涙を流しました。
そのままの勢いで大きなキノコを二本切り倒し、落ち着いた私は倒れたキノコの柄の部分に息を切らしながら寝ころびました。そのまま寝てしまおうかと思いましたがキノコに栄養を吸われて干からびたくなかったので体を起こし、とりあえず引っ張ってみました。
グイっと真上にキノコを引っ張ると頭皮に刺されたような激痛が走り、すぐに手を放しましたが、しばらくの間、張り付く痛みに悶えながら「引っ張らなければよかった」と後悔していました。
痛みが落ち着き、こんなものはさっさと切り取ってしまおうとナイフを取り出しました。池を鏡のようにして、頭を切らないよう慎重にキノコにナイフを刺し込みました。普段食べるようなキノコより弾力はありましたが、驚くほどあっさりと切り取ることができ、私の顔くらいの大きさのキノコが姿を現しました。
これだけの大きさなのに意外と軽いキノコに「貴方との生活は終わりです。寂しくなりますね、キノコさん」なんてセリフを吐きながら、手に持ちくるくると回りながら小躍りをしていると何か忘れているような気がしました。踊るのをやめ、頭を撫でるとそこには今抱えているキノコと同じ感触の物がありました。そう、石突の部分です。無理に抉ったとしても出血が多すぎて回復が間に合うとは思えず、その日は諦めて私産のキノコを食べて眠りました。ちなみに私産のキノコは美味しくなかったです、ひどい味でした。
それで、何となく想像はついていたのですが目が覚めるとまたあのキノコは私の上に生えていました。振り出しに戻り、解決策を考えながらまたキノコを揉んでいると「周りの物を使って工夫をしろ」と、師匠がよく私の修行の時に言っていたことを思い出しました。
それじゃあ、周り物を使ってどうにかしましょうかと思いましたが、ここはキノコと黒っぽい土、あとは謎の青白く光る池くらいで、本当にどうにもならない状況に頭を抱えて池の周りを歩き始めました。悩みながらうろうろしているとやけに歩きやすいことに気が付き、頭を抱えながら地面を見ると、キノコが生えておらず、まさかと思い自分が歩いてきた道を見ると、小さなキノコが生えていました。この池の水は使えるかもしれない、そう思い、すぐに地面に膝を付いて池を覗き込みました。
ぼやぼやと光る水をいきなり触るのはさすがに気が引けて、服の切れ端を水につけてみましたが特に反応はありませんでした。その次に、昨日の夕食の残りである私産のキノコを投げ入れてみると、しゅわしゅわと音を立て、ものすごい勢いで溶けていきました。これで本当にキノコと離れられる、そう思いましたが、目の前であんな溶け方をされると、肌に触れさせるのは少し勇気がいります。そこで、さっき布に着けた池の水を少しだけ指先に付けてみました。池の水は思ったより生暖かく、ぬるぬるしていましたが指先は溶けていませんでした。体に害がないとわかり、私はそのまま大きく息を吸い込んで頭を池に突っ込みました。
頭の先で、しゅわしゅわと溶けている感覚があり、息継ぎをしながら何度も頭を池の中に入れ続けました。そして、キノコが溶けている感覚がなくなり、顔を上げて頭のてっぺんを撫でるとキノコはありませんでした。ついにキノコと別れることができ、うれしかったのですが、頭のてっぺんが石突の分、窪んでいました。まあ、回復魔術を使えば簡単に治るので、すぐに魔術を頭に使いました。パキパキと音を立てながら頭の形が戻っていきましたが、当然、骨の形を無理やり戻しているので激痛でのたうち回りました。
痛みが治まり、池の水で頭を見てみると頭のくぼみはしっかりと戻っていました。自分の勝利を確信した私はキノコを蹴り飛ばし、そのまま森から出るまで走り続けました。
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