第5話 閉ざされた扉を開く言葉

「じゃあコレット、私達も行きましょうか」

 クローネ達の姿を見届けた後、ボーッとしていたコレットの手を引っ張り、大きな門の方へとスタスタと歩くイロハ。不安そうなコレットをよそにご機嫌なイロハは鼻歌交じりで門を開けようと取っ手に手を伸ばす。その時、数名の男性が慌てて駆け寄ってきた

「イロハさん、お待ちください!」

 名前を呼ばれ手を止めると、息を切らして二人の前に立ち止まる男性達に、イロハが不機嫌そうに話しかけた

「何か不備がありますか?」

「いえ、イロハ様には問題ありません。ですが……」

 ちらりとコレットを見ると、イロハがニコッと微笑みコレットをぎゅっと体を引き寄せた

「ああ、この子?コレットだって。これからよろしくね」

「よろしくと言われましても通すわけにはいきません」

「えー、なんで?」

 ムッとした顔をして言い返すイロハのその後ろでコレットが不安そうに様子を見ている

「許可がありませんし、見ず知らずの人を勝手に入れるわけにもいけません。お帰りください」

「コレットだって!名前も二回も言ったでしょ?見ず知らずはこれで終わり。もう大丈夫でしょ?」

「いえ、大丈夫なわけがありません。いくらイロハさんでも無理です」

 だんだんと大声で言い合うイロハ達。騒ぎを聞きつけた周辺にいた人達が何事かとコレット達を見ている

「あの……無理なら私、帰ります……」

 と、見知らぬ人達の視線に耐えかねコレットがイロハの服を掴み、小声で言うとイロハがくるりと振り向いてコレットの体を抱きしめた

「ううん、無理じゃないよ。この人達はね、頭が固いのよ。通してくれてもいいのに」

 そう言いながら男性達を睨むイロハ。その視線に男性達が困ったように顔を見合わせる

「イロハさん、そうは言われても……」

 と、慌てて言うと、イロハがふぅ。と一つため息をついてまたキッとさっきよりも目線を強く睨んだ

「この子はクローネが良いと言ったの。これでいい?」

「それを早く言ってくれたら……」

「ありがと。コレット行くよ」

「は、はいっ!」

 イロハにグイッと手を引っ張られながら門の中へと歩き出したコレット。鼻唄混じりに歩くイロハと不安そうなコレットの後ろ姿を見て男性達が、疲れたようなため息をついた

「しかし、本当に大丈夫なのか?」

「さあな。一応、イロハさんが言うなら大丈夫じゃないか」

「ダメですよ、入れませんよ。後ろの二人は誰ですか?許可なく入れませんよ」

 コレットとイロハの姿が人混みに紛れ見えなくなってきた頃、また門の入り口から騒がしい声が聞こえてきた。はぁ。とため息をつきながら振り向くと、コレットが持っていた薪を家に置いてきた男性達が門に入れずイラついた顔で叫んでいた

「お前ら来たのか!」

 と、近くにあった木に隠れ、気づかれないようについてきていたノニアとクリスタを見つけ叫ぶ。気づかれた二人がエヘヘと苦笑いをしながら出てくると叫ぶ声が更に大きくなった

「なんだか今日は騒がしいな」

 コレット達の相手をしていた男性達が、はぁ。とため息をついてノニア達のところに行こうとした時、すっと誰かが横を通り過ぎていった。その後ろ姿に気づいて周辺にいた人達があわてふためく


「……なんの騒ぎだ?」

 機嫌の悪そうな顔でクローネがノニア達に声をかけた。予想外の人物が現れ、周辺が更にざわざわとしはじめるが、ノニアとクリスタは誰か分からず二人して首をかしげた

「君達はどこから来たんだい?」

「コレット見なかったか?ここに来たと思うんだけど」

 話しかけたクローネにクリスタがグイッと顔を近づけ問いかける。その様子に、周辺の人々の表情が一瞬強張った

「コレット?ああ、あの娘か」

「そう、迎えに来たっていうか見に来たっていうか。とりあえず知らない?」

「さあ。今いる場所は知らないな」

 人々の表情とは対照的にニコニコと微笑みクリスタと話すクローネ。ふと、辺りを見渡し始めるとフフッと楽しそうに笑った

「ああ、二人とも中に入れずにいたのか。なら、私が許可を出そう」

「良いんですか!」

「ああ、ついでに世話も見ておくようにな」

「やった!ありがと」

 クローネの言葉を聞くなりクリスタがノニアの手をつかんで門の中に入っていった

「クローネ様、良いのですか?見知らぬ三人の子供をモノグロフ城に招き入れても……」

 二人を連れてきた男性達が恐る恐る声をかける。クローネは楽しそうに走る二人を見つめ、フフッと笑い問いかけに答えるように少し頷いた

「ああ、この世界の未来を変えるのは騒がしい方が面白いからな」

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