第22話 〝竜人ドラクーヌ〟
「神聖な迷宮を穢す者たちよ……我が名は〝ドラクーヌ・ジオ・ロンドニキア〟だ。我が一族に託された長刀を持つ悪しき存在よ。消し去ってくれる」
〝ドラゴニュート〟――――竜人は、ロンドニキア竜王国建国前の大陸開拓期の存在だと分かった。シスは、魔王のことに関しては疎かったが、歴史地理文化に造詣が深い。恐らくは、大死霊術師〝ノア・フランマ〟を封印したのは、竜人ドラクーヌだろう。シスがそんなことに頭を使っていると、レナスが前に立つ。
「氷よ――――――我が意を示して」
「ふん、憧憬を魔法で具現化したか……無駄なことをしおって」
バサッと音がして、竜人ドラクーヌは翼で空を飛び、レナスの攻撃を躱した。だが、空を飛べるのは竜人だけではない。傘の切っ先から魔導砲による極太の砲撃をブリジットが放つ。
「やった‼」
瞬間、地面にブリジットが叩きつけられた。シスは、何が起こったのか分からない。魔導砲の照準は完璧だった。だからこそ、竜人は裏をかけたのだ。気を読み、放たれた砲撃を最小限の移動で躱して、ブリジットに接近。腹に掌打を放ち撃墜。血の吐瀉物をまき散らすブリジット。
「次元が違う……――レナス来るぞ‼」
氷の小剣と仕込んでいたナイフがジリジリト焼けるような音を出してせめぎ合う。互角のようだが、レナスの方がやや押され気味だ。打開するには方法シスには一つしかない。
レナスのいる場所からズレて、〝ドラググレイヴ〟を構える。右腕がどうにかなりそうな抵抗を感じるが、シスはそれを怒りで忘れた。
「照準よし、エネルギーが一割しかないか……でもこれなら……〝ドラググレイヴ〟第一形態解放、竜魔法発動‼ 〝ドラグバスター〟‼」
「な……?!」
黒い光の光線は、竜人〝ドラクーヌ・ジオ・ロンドニキア〟を包んだ。右手は手の平が火傷を負ったかのような痛みを感じて、暫くものを持つのは不可能だとシスは思う。
「ふふふははははははは……我が長刀、〝ドラググレイヴ〟を邪なる者が使うとはな‼」
「む、無傷だと……――一体どんな身体をしているんだ」
「竜人には竜魔法ではなく……破竜魔法だろう……しかし何故俺の武器を持っている?」
一瞬で竜人はシスとの距離を詰めた。この距離を、と驚く暇もなく腹を掌打の一撃を喰らい、〝ドラググレイヴ〟ごと部屋の壁に叩きつけられる。右手は焼けるように痛いが〝ドラググレイヴ〟は離さなかった。理由は簡単。この竜人 〝ドラクーヌ・ジオ・ロンドニキア〟に渡せば、オーガに棍棒だからだ。
「ふむ……死ぬような痛みに耐えてなお立ち向かってくるか」
「あなたは、亡霊なんですね。きっとやり残したことが多かったのでしょう」
「亡霊……私が……しかし何故そんなことを言う」
シスはふらつきながらも、立ち上がり、残された右腕で〝ドラググレイヴ〟を構える。それを見た竜人は、ほほと感慨深げな声を出す。どうやらえらく感心したようだ。シスは、真っすぐな目で竜人〝ドラクーヌ・ジオ・ロンドニキア〟を捉える。その目には邪念の一つもない。
「ふむ……魔族の血が一滴でも入っていれば、死ぬような痛みに苛まれるはずだが……小僧のくせに中々の胆力。う……ん? その樹木のような紋章はなんだ?」
「〝紋章樹〟と言っている。歴代魔王の紋章が刻み込まれている」
「我が子孫アルメリオス・ジオ・ロンドニキアからここへ召喚されて長く経つが、アルメリオスは、勇者の〝紋章樹〟を持っていたな。久しく忘れていた。被召喚者になると時など長いか短いかすらどうでもよくなるからな」
「殺すなら殺せ……だが、僕は生まれ変わってでも、妹のフィオを〝神骸宮殿〟に迎えに行くぞ」
「…………」
突然竜人〝ドラクーヌ・ジオ・ロンドニキア〟は黙り込んだ。時間が少し経つ。いい加減長いなと思ったところで顔を上げる。
「名を訊こう……お主は殺すにしては惜しい?」
「シス・バレッタだ。召喚士の一族だ」
「バレッタ……バレッタ……おお‼ あの涎を垂らしていたアルテア・バレッタの子孫か‼」
「誰……――ですか?」
「祖先の名も忘れたのか?」
「僕らは……――バレッタ家の真祖は〝ローバレル・バレッタ〟と習うんです。アルテアなんて知りませんよ」
「まあ、さもありなん。なにせヤツは才能はあったが、人でなしになりそうな雰囲気があったからな」
そして竜人〝ドラクーヌ・ジオ・ロンドニキア〟は伸びているブリジットもそろえて詠唱を開始した。
「理を紐解く我が命ずる――――光の大精霊ルシフルよ――――我が力となり友を癒したまえ――――ヒール‼」
「身体が治っていく……折れたはずの骨まで……」
「治癒魔法は得意ではないから……ケガをさせたところしか回復できなかったがな」
「本来の力ならば、その切れた腕も治してやれるのだが……霊体として〝神骸宮殿〟の守りをしていたからな。段々と力が衰えている。まだ話がしたいが急ぐ旅なのだろう。武運を祈っている」
レナスが竜馬の引く馬車の御者台に乗り地上を目指す。今度は堂々巡りにはならない。順調に地上を目指せているのが分かる。そこで飛翔魔法で浮いているブリジットがシスに声をかけた。
「ロンドニキア竜王国の王が竜の血を引いているとは聞いていたけど、まさかドラゴニュートだったとはね。昔ならともかく今知れたら、大騒ぎよ」
「言わないし、言っても無駄だから、解放してくれたんだよ」
「我が主様……子供の声がします。もうすぐで〝神骸宮殿〟の第一層の貧民街です」
地上波明るいが……明るいには明るいが晴天は見られなかった。大地にうずくまるようにして、倒れている白い巨神が貧民街から陽光を遮断している。巨神は遠くから見ると顔と腕がない翼が生えた姿で見えるという。
「やっと出られた。確かにこっちの方が早かったけど、労力はかかったな」
「何言ってるのよ。神代の武器を持っているじゃない。安い苦労よ」
「我が主様……腕を治してくれる治癒士を探しましょう?」
心配そうな顔をしているレナスには悪いと思ったが言い切った。
「〝神骸宮殿〟はまだまだ〝有翼の巨神〟の上だ。〝竜贄の儀〟が始まってしまう」
「では腕は――――」
少し後悔を感じながら、後ろ髪を引かれながら、シスは諦めた。
「――――態勢をを整えたら……――〝神骸宮殿〟を襲う。そして、フィオを助け出して……――東へ逃げる」
「我が主様が……決めたことなら、全力でお手伝いするだけです」
「アタシも狂王グレンを排除できればそれでいいから……まだあと少しの間は同盟のままよ」
「ブリジット……――他にも目的がありそうだけど、気のせいかな?」
「ああ……アンタにはもうバレてそうだから言わないわ」
――――貧民街の宿で身も心も休めるシスたち三人だった。
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