銃と魔法のダンジョン世界でクリアするまで出られないデスゲームが始まりました
木山碧人
ガンバレルシークエンス エリーゼのために
陽の光が辺りを照らす、中央広場。
「三分。これは、私が、全力で戦える時間です」
逆さに生えた巨大な樹を背に立つは黒の執事服を着た男。
顔は黒い包帯が巻かれ、背は高く、声はしゃがれていた。
「だから? 手加減でもしてほしいってわけ?」
対し、金髪碧眼のメイド服を着た小柄な少女は、それに答えた。
その背には、二人を囲うように、大量の観衆がつき、行く末を見守っている。
「これから奏でる楽曲の演奏時間も、三分。曲が終わる頃にあなたは死んでいる」
「甘く見ないで。舞台を整えて、あんたを追い込んだのは、このわたしなんだけど」
交渉の余地などない。
「ですから、死んでください。エリーゼ・フォン・アーサー。あなたは優秀すぎる」
「お褒め頂きどーも。でも、消えて。セバス・アンダーソン。あんたは危険すぎる」
二人の仲は、すでに、決裂しているのだから。
「いいでしょう。では始めましょうか。身の潔白を賭けたストリートファイトを」
「死んでも恨まないでよね。兄の障害になるあんたに加減はできそーにないから」
互いが互いの譲れない一線を貫き通すため。
「参ります」
「こいや!」
今、決闘が始まった。どこからともなく流れるピアノの旋律と共に。
「――」
軽快なステップと共に、セバスは、三段蹴りを放つ。
「なんのっ!!」
エリーゼは、サイドステップでかわし、スカートの中に手を突っ込む。
取り出したのは、銀色のフォルムに上下二連銃身中折式拳銃。
――レミントンデリンジャー。
「当たったら、痛いじゃ、済まないよ!」
景気の良い声で、エリーゼは、アイアンサイト越しに狙いを定め、放つ。
改造された撃鉄による、上下二連銃身から同時に発火する、黒と白の弾丸を。
「避けるまでも、ありません」
放たれた二発の銃弾はセバスの足元に、着弾。
それを機に、距離を詰めようとするセバスだったが。
「――っ」
足元から生えてきたのは、黒い蔦のようなもの。
蔦は、意思を持つように、セバスの足に絡まり、身動きを奪っていった。
「繫茂草と鋼鉄草を弾薬に配合したコンボ。そう簡単には――」
得意げにエリーゼはそう言って、次の弾薬を装填しようとする。――しかし。
「この程度、造作もありません」
セバスは、懐からナイフを取り出し、蔦を切り裂く。切り裂く。切り裂く。
「んなっ! 並の刃物じゃ、傷一つ付かないのに!」
驚きのあまり、装填しようとした弾薬が、地面に落ちる。その刹那。
「油断大敵、ですよ」
影を縫うようにセバスは接敵し、容赦なく斬撃を浴びせていく。
「こなくそ!」
斬撃が迫るまでの間。エリーゼは反撃に出る。
と思いきや、地に落ちようとする、青と赤、二色の弾薬を、足で踏み砕いた。
「――」
瞬速。瞬歩。瞬迅。
向上した身体能力を以て、エリーゼは、無尽の斬撃をかいくぐる。
「やりますね。ですが――まだ青い」
対し、セバスは、怯むことなく、刃を振るい続ける。
その体からは、蒸気を発し、振るうごとに剣速のキレが増していった。
「付け入る隙が、ない――っ!」
間隙を見つけ、反撃を試みようとするエリーゼは、ただ避けるのみ。
――そこに。
「……はぁっ! ……これで、チェックメイトです!」
息を乱しながらも、セバスは、さらに剣速を上げ、捉える。エリーゼの腕を。
「なんの!」
血潮、ではなく、火花が散る。赤く火照る腕は、刃を弾いていた。
「……敏速草と強靭草のコンボ、と言ったところ、でしょうか」
セバスは、一切、手を緩めずに、状況を分析する。
「ご名答! これで、刃物は、怖くない!」
一転攻勢。防戦一方だった、エリーゼが、攻め手に回る。
「たっ! とぉ! てぇりゃぁぁぁ!!」
演舞の如き動きから、手刀が、足刀が、セバスに襲い掛かる。
「……はぁ……はぁ……」
守り手に回るセバスは、息を切らし、剣速が、動作が、落ちていく。
「これで、終わり!!」
わずかな隙に、エリーザが放つのは、掌底。両手を勢いよく突き出した。
「――」
当然、セバスは、腕を盾に防ぐ。一回り小さい少女の掌底など、造作もない。
「――発勁山破!!」
そのはずだった。
「……ぐ――っ!!」
崩れる。崩れる、崩れる。防御が、体勢が、優位が。
エリーゼが放つ、ただの掌底は、セバスの防御を、破壊する。
「見たか! 八方の極遠に達する威力で敵の門を打ち開く。これが、八極拳よ!」
膝を崩し、地に伏す敗者に、エリーゼは意気軒高と言い放つ。
八極拳。中国拳法の中でも、至近距離で戦うことを目的にした流派。
接近短打を主軸するため、中遠距離では劣る。が、至近距離の威力は絶大。
有効射程においては、例え、銃や剣を相手にしようとも遅れを取ることはない。
「……ごほっ、ごほっ……み、ごと」
体の蒸気は増し、苦しそうな声音で、セバスは賞賛の声を漏らす。
「勝負はついた。そろそろ、自供したら。忘却事件の犯人であることを」
ピアノの音色も佳境に入り、勝ち誇るエリーゼは、そう言葉を投げかける。
「言ったはずです。……三分。演奏が終わる頃に、あなたは、死んでいる、と」
鳴り響く音が止む。それは、セバスの負け惜しみのように聞こえた。
「――――――――うぐ……ッ!!」
しかし、異変が起きる。エリーゼが頭を押さえ、うずくまる。
同様に、辺りにいた観衆も、一人残らず頭を抱え、うめき声をあげていた。
「……あと、一歩、読みが甘かったよう、ですね」
ただ一人、セバスだけを除いて。
「……なに、を……!!」
エリーゼは、頭を押さえながら刺すような目線を送る。
視線の先には一匹の黒いコウモリと、その足には小型のラジオが掴まれていた。
「体の限界は、三分。それは事実。しかし、音の洗脳がかかるまでの時間も三分」
「読み、違えた……。効果は、単体、じゃなく、全体、だったなんて……」
「単体であれば、勝っていたのは、あなた、だったでしょうね」
衆目監視の元、一人でも記憶の齟齬が生まれれば、セバスは黒だった。
だが、効果が全体に及ぶのであれば、意味がない。
目撃者は、いなくなるのだから。
「あんたのたくらみは、兄が止める。必ず、ね……」
「眠りなさい。エリーゼ・フォン・アーサー。愛しの我が妹よ――」
思想が、思惑が、交錯する。
この日、エリーゼ・フォン・アーサーは、死んだ。
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