Day4

「黙れ! 黙れ、黙れ、黙れ!」


 リカ、ナナ、マナ、ヒナ、ハナ、ミチ、みんな黙れ!


 リンドウがざわめく。どれも彼女ではない。アトリエはリンドウで埋め尽くされた。僕は天井まで伸びたリンドウに唖然とする。作業台の僕の流木アートの上から生えてきたリンドウ。仏壇のリンドウ。ベランダのリンドウ。どれが僕の彼女なのか分からない。


〈私が美香〉


〈いいえ、私が美香〉


〈黙ってよく聞いて。私があなたの美香〉


 リンドウはどれもこれも美香とは違う! 僕はせっかく作った自身の流木アートを床に投げつけようとして、手を止める。ああ、床にもリンドウを置いていた。リンドウの鉢から横にも縦にも伸びたリンドウ。僕のリンドウは蔦を伸ばし続ける。リンドウにそんな性質はないはずだ。だが、僕はリンドウが部屋を侵食していくことに快感を覚える。本棚、食器棚も捨ててしまってあっけらかんとなった部屋のすべてを、リンドウにくれてやる。唯一残していた僕の流木アートの作業台。仕方ない。くれてやる。アート作品もくれてやる


 僕はリンドウに支配された部屋で凍りついた。視線を感じる。リンドウから。仏壇のリンドウ。茎は曲がり、花は好き勝手に咲いている。白、紫、青。蔓が伸びてきて覗き込む僕の顔を撫でた。いくつもの花が僕に近づいてくる。


 その真っ青な花びらは魅力的で唇を押し当てると柔らかい弾力で返してきた。間違いない! リンドウの花びらは彼女の唇なんだ。美香だ! 美香は死んでなんかいない! リンドウなんだ! リンドウは意志を持っている! 俺のことを思ってくれている! 俺は一人になったのではない!


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