第29話 作戦開始
――作戦はこうだ。
放課後、俺が一人で学校の敷地内を適当に歩き回る。
そこから少し離れたところで、透花、白姫、ちゅう子が周囲を警戒。
何かしら異常があった際には、全員で容疑者が潜んでいると思われる場所へ向かい、犯行現場を押さえるという寸法だ。
正直、透花たちに手伝ってもらうつもりは無かったのだが、どうしても協力すると言って聞かなかったので、仕方なく申し出を受け入れることにした。
とはいえ、透花を危険な目に遭わせるつもりは毛頭ない。
俺が誰よりも速く現場に到着して、容疑者を確保すれば済むだけの話だから問題はないだろう。
ちなみに、全員が白姫から受け取った小型のマイク付き無線機を装着している。
何でこんなものを人数分も持っているのかと白姫に尋ねたが、めっちゃ笑顔で聞こえないフリをされたので、ちょっと怖かった。
そうして作戦行動中、俺が校舎裏を歩いていると通信が入る。
――定期連絡の時間だ。
『――こちら、ちゅう子……じゃなくて、ブルーリボンドラゴンナイトメア改プロトタイプMK2。三階異常なし、オーバー』
「コードネーム長いわ! あと、改とプロトタイプとMK2って、共存は難しくない?」
『大丈夫、みんな仲良し。オーバー』
オーバーじゃねえよ。何言ってんだコイツ。それとブルーリボンって映画の賞だからな。
『――ねえねえお嬢ちゃん。今どんなパンツ履いてるの? オーバー』
「やめんか!」
さすが安定したセクハラに定評のある透花さん。斬新なセクハラから、古典的なセクハラまで手数が豊富ですね。
ちなみに今履いてるパンツは、お前に買ってもらった水色のだよ。絶対教えないけど。
『――こちら〝アップル〟。一階異常なし』
お、白姫はだけはまともだな。コードネーム使う必要ないんだけどね。
『それと、今日のティアさんの下着は水色ですよ、オーバー』
「何で知ってるのォォォ!?」
思わず大声でツッコんでしまった。
誰かに聞かれていないかと慌てて周囲を見渡すが、幸い校舎裏なだけあって誰もいないようだった。ホッと胸をなでおろす俺。
――が次の瞬間、俺は自分に向けられた視線を感じ取る。
それは悪意と呼ぶにはまだ幼い、だが俺へと向けられた確かな敵意。
「上かっ!?」
見上げた視線の先、無数の黒くて小さな物体が、俺を目掛けて落下してくる。
「虫!?」
いや違う。虫の玩具か!?
てか、おもちゃって……しょぼい嫌がらせだな!
俺は落下物から視線をそらさず、最小限の動きでそれに〝対処〟する。
『――っ、ティアちゃん!? 今そっちに何か落ちなかった? 大丈夫!?』
透花の声が、イヤホンを震わせる。
「ただの玩具だよ。全くもって問題なし。それより――」
『うん分かってる。三階の女子トイレからだったよね。今向かってる!』
「ああ、そんなに急がなくて大丈夫だよ。だって私────もう着いたから」
『……え? もう着いたって、どういう……?』
どうと聞かれても、そのまま言葉の通りとしか言いようが無い。
「……ど、どうして……ここ、三階……なのに…………」
目の前では、見知らぬ女子三人が、突然の俺の登場に慌てふためいていた。
「どうしても何も、外から登ってきたんだけど?」
「ヒィッ」
ヒィって酷くない? ちょっと外壁登ったくらいでさ。確かにトイレの窓から入って来るってのは女の子っぽくはないとは思うけど。
俺は窓から降り立つと、怯える女子生徒の様子を窺う。
「三人とも、一年生か……」
とても進んで悪さをするような生徒には見えない。むしろ放課後の図書室で互いの好きな本について語り合っているのが似合いそうな控えめ女子たち。
俺はその三人に軽く笑いかけると、両手を真っ直ぐに突き出し、そこからバラバラと、さっき空中でキャッチした〝全ての虫の玩具〟を床にばら撒いて見せる。
「なっ、ひぃぃぃ」
信じられないモノでも見るような三人。
「――それじゃ、どうしてこんなことしたのか、先輩に教えてくれるかな?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます