第19話 絆創膏のエロス
「裁判長! 発言してもよろしいでしょうか!?」
体力測定を終えて更衣室に戻って来るなり、透花が手を挙げておかしな遊びを始める。
「はい、透花さん。発言を許可します」
それに対してノータイムで乗っかる白姫。
何の遊びだこれは?
こっちはさっさと着替えて女子だらけの更衣室から逃げ出したいのに……。
「昨日今日と、ティアちゃんのオッパイを揉んだときに疑問に思ったのですが! ティアちゃん、ノーブラなのに乳首が見つけられなかったんです! 何故でしょうか!?」
「ぶふぉッ!?」
アホかーッ! な、ななな、透花のやつ、急に何を言い出すんだ!?
「さすが透花さんですね。あの一瞬でそこまで……なんて恐ろしい子」
白姫さんも何言ってんの?
「こ、こら! そんな大声で、その……ノーブラとか、ち、ちく――とか言わない!」
うう、男のときは乳首くらい平気で言えたのに。
女になったら何だか妙に恥ずかしい。
「あれー? よく聞こえなかったな~ ティアちゃん、今なんて言ったのかな? ちく……何かしら? もう一度お姉さんに聞こえるように、大きな声で言ってくれる?」
ぎゃー、透花がセクハラ親父と化している!
聞きたくない聞きたくないーっ!
「わ、私で遊ぶな! ブ、ブラジャーは、着けるほど胸が大きくないからいいんだよ!」
言ってて悲しくなってくるな。
いやいや、俺は男なんだから胸が小さいのなんて当たり前だろ。何を悲しむ必要がある?
でも何だろう、この湧き上がってくる敗北感は……。
「小さいといっても、まったく無いわけではないですし、その……運動とかしてて、痛くなりませんか? もしかして、ティアさんはニップレス派ですか?」
白姫が周囲に聞こえないように声のトーンを落とす。
そんな小声にならなくても……。
何に気を遣っているかは知らないが、俺だって胸に何も着けないで学校に来るほど非常識ではない。
おっぱいの管理については自身があるぞ。
「ニップレスじゃないけど……その代わりに絆創膏を貼ってるから平気だ」
「「え?」」
「だから、その、ち、ちく……胸に絆創膏を張ってるから擦れても痛くないんだよ」
俺のその発言から約五秒後――
「ぶっぱぁぁぁぁぁぁっ!?」
――透花が鼻血を大噴火させて倒れた。
「ぎゃーーーー透花が! 何で鼻血噴いて倒れたんだぁぁぁ!?」
「そんなのティアさんがノーブラ絆創膏とか言ったからに決まってるじゃないですか!」
「何でだよ!? 陸上部とかサッカー部とか、みんなやってるだろ!」
試合とかレースで長時間走ってると、乳首が擦れて血が出てきちゃうからな。
「運動部の女子なら、中にはそういう人もいるかもですけど、だからって常日頃、日常的にノーブラ絆創膏で過ごす女子なんていませんよ! かなりマニアックな絵面になっちゃうやつですよ、それ!」
「な、なんだってーーーッ!?」
ま、本気で知らんかった。
ノーブラ絆創膏が、透花を鼻血まみれにする程の破壊力を持つエロスだったなんて……。
「……ティ、ティアちゃん……」
「透花! 大丈夫か、透花!?」
気力を振り絞るように、俺に向かって手を伸ばす透花。
最後に伝えたいことがあるのか、その口を必死にパクパクさせている。
「何だ? どうした? 何が言いたいんだ、透花?」
「…………つ……次は…………下も絆創膏でよろしく……」
その言葉を最後に、透花はガクリと意識を失う。
「と、透花――――っ!」
「透花さんしっかりしてください。遺言それでいいんですか!?」
物言わぬ姿(?)となった透花に抱き付き、涙ながらに声を掛ける俺と白姫。
「――さっきから何、馬鹿のことをやっているのだ、お前たち?」
そんな俺たちのすぐ横を、とっくに着替えを済ませたちゅう子がいぶかしげな眼を向けながら通り過ぎて行くのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます