推しの5

 「ついに!

 ついに、しろハーの初出演ドラマのロケ日!

 とりもなおさず現場に直行! 有給取るために『伯父の法事』と言うことにしたから、そろそろうちの一族、全滅しちゃうんだけど……でも! それだけの甲斐はあったわあっ!

 ドラマ初出演とあって緊張しているしろハーの初々しいこと。ああもう、かわいい、かわいい、かわいい!

 その姿に久し振りにデビューのときの姿を思い出したわ。あのときだってまともにステージ上で歌って踊れるようになるなんて思えなかったけど、立派に歌も踊りもこなせるようになったもの。ドラマだってこれからどんどん上手になっていくよね。精一杯、応援するよ、しろハー。

 今回のロケは謎の犯人に殺されちゃうシーン。刃物をもった相手に追い回されたあげく、公園の片隅に追い詰められ、そこで刺し殺されてしまう……。

 必死に逃げ回る様子も、公園の片隅に追い詰められて、木陰に隠れてガタガタ震えるその姿も、まるで必死に逃げる小動物みたいでほんっと~に、愛くるしい!

 そして、心配!

 思わず飛び出して、犯人をぶちのめして、抱きしめて『もうだいじょうぶだよ。お姉さんが助けにきたからね』って言ってあげたくなっちゃった。

 いよいよ刺し殺されるシーンにはもう号泣! 『しろハーが殺された、殺されちゃった』ってもう、本当にしろハーが殺されちゃった気がして涙が止まらなかった。

 でも、さすがにプロは厳しいわ。

 そんなしろハーの熱演に対して監督からはダメ出しの連続。

 『鬼ごっこじゃないんだぞ! もっと、本気で逃げろ!』

 『わかってるのか⁉ お前はこれから殺されるんだぞ。そんな大根演技で殺される恐怖が伝わるか!』

 『それが殺される瞬間の表情か! いいか、お前は訳もわからず謎の犯人に追い回され、生命を奪われるんだぞ。その理不尽さ、悲しみ、恐怖。そのすべてをひとつの表情で表現して見せろ!』

 立てつづけに監督の罵声が飛び交って、見てるこっちが怖くなっちゃったぐらい。しろハーもすっかり涙目になっちゃってたよね。

 五回も六回も立てつづけにNG出されたせいで、他の出演者の人たちも『またかよ』って感じでだんだん雰囲気、悪くなっちゃったし。見学に集まった人たちもNG出されるたびに『あ~あ』なんてため息ついてるし。

 そのたびに責任、感じて、ますます緊張して、ますます涙目になっちゃって、台詞も満足に言えなくなって、ますますダメ出しされて……監督の怒鳴り声、あたしもつらかったよ。しろハーはもっとつらかったよね。休憩時間には皆からはなれてひとり、ポツンと座り込んでたね。ジッとうつむいて、唇噛みしめて、泣いてたよね。その姿、忘れないよ。

 でも、つらくて泣いてたわけじゃないよね。悔しかったんだよね。情けなかったんだよね。せっかくのドラマ初出演、やっと、ふぁいからりーふの一員として役に立てる。そう思っていたのに、満足に演技できない自分に腹を立てていたんだよね。

 だって、何度ダメ出しされてもめげずにがんばって、最後にはちゃんとOKもらってたもん。つらくて泣いてただけならそんなことできないよね。『また、監督に怒鳴られる』って、見ているだけのあたしでさえ怖かったぐらいだもん。実際に演技しているしろハーはもっともっと怖かったよね。その怖さを乗り越えてOKを勝ち取ることができたのは、何よりも自分自身に対する怒りがあったからだよね。

 怖さを乗り越えてOKを勝ち取ったその姿。そのときの嬉しさいっぱいの顔、あたし一生、忘れないよ。

 うまく行かなくてもあきらめない、何度だって挑戦する。そんなしろハーの姿にみんな、勇気と元気とをもらうんだよ。

 だいじょうぶ。しろハーの想いは絶対、みんなに伝わる。ドラマだって大ヒットまちがいなしだよ。だって、しろハーがこんなに一生懸命、演じたんだもん。これをきっかけに皆がしろハーの魅力に気付いて、人気が出て、そうしたら仕事も増えて、自信もついて、ますます魅力が出てきて、ますます仕事が増えて、やがては紅白にも出場し、いずれは世界進出!

 おめでとう、しろハー!

 ありがとう、しろハー!

 愛してるよ、しろハ~~~~ト!」

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