推しの3

 「『……ふぁいからりーふが河越ソーラーファームを制覇した。もちろん、それは嬉しい。でも、それをしたのはあたしじゃない。赤葉あかばちゃんや青葉あおばちゃん、黒葉くろはちゃんに黄葉おうはちゃんの力。あたしだけ、何にもできていない。こんなんじゃ仲間失格だよ。あたしなんていない方が……』

 ……しろハーがブログでそう呟いていた。自撮りの顔写真もない。絵文字もなければ顔文字もない。文字だけの呟き。まさか、ここまで落ち込んでいたなんて……。

 ああ、ごめんね、しろハー。あなたの気持ちに気付かず無邪気に喜んでいたなんて。でも、わかるよ。確かにつらいよね。だって、他の四人はみんな、すごい子ばっかりだもん。

 センターの赤葉はバレエ仕込みの身体能力と根性で体育会系のテレビに引っ張りだこだし、歌姫・青葉は芸能界屈指の歌唱力を生かして、すでにソロアルバムも出している。クールビューティー黒葉は切れ味鋭いその美貌でモデルとして大人気。おっとり天然お母さん黄葉は、癒やし系の雰囲気でドラマやお芝居に出ずっぱり。そのなかでしろハーひとりだけがテレビにも出られず、ソロアルバムも出せず、雑誌の仕事もなく、ドラマにもお芝居にも出られない。落ち込むの、わかるよ。

 情けないよね。

 悔しいよね。

 心細くて泣いちゃいそうだよね。

 でもね、しろハー。しろハーの価値はそんなことじゃないんだよ。たしかに、しろハーはとくにかわいいわけじゃない。スタイルだって寸胴だし、胸が大きいわけでもなければ、脚が長いわけでもない。歌もダンスも決してうまくないし、台詞も棒読み。

 でもね、しろハー。世の中のたいていの人はそうなんだよ。誇れるような取り柄や才能なんて何にもない。しろハーはそんな人たちの代表なんだよ。

 取り柄も才能もない、ごくごく普通の女の子のしろハーが、才能あふれるキラキラした女の子たちに囲まれて必死にアイドルとしてがんばっている。それがどんなに大変で、すごいことか、みんな、わかってるよ。その姿が、同じように取り柄も才能もないのに、すごい才能をもった人たちと渡り合って生きていかなきゃいけない大勢の人たちに夢と希望を与えるんだよ。しろハーの姿を見ることで『自分もがんばろう』って言う気持ちになれるんだよ。

 それは、しろハーだけにできること。赤葉たちみたいにすごい才能に恵まれた子は、人々に憧れを抱かせることはできるけど『自分は決してああはなれない』って言う悲しみも与えてしまう。しろハーだけが『がんばれば自分だってああなれる』って言う希望を与えることかできるんだよ。

 だから、しろハーこそ最高のアイドルだと思う。

 一緒にがんばっていこう。あたしたちはいつでもしろハーの味方だよ」

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