第7話 こ、これは禁断の…⁉

 授業終わりのチャイムが鳴る直前。

 崎上隼人さきがみ/はやとは、内心、感情が高ぶり始めていた。


 あと数秒で授業が終わるというのもあるが。

 それ以上に、今日の放課後。

 幼馴染の菜乃葉とデートできることに、胸の内が熱くなっていた。


 早くチャイムが鳴ってほしいと願う。




「では……ここの問題だが――」


 教室の壇上前に立つ社会担当の教師。

 黒板に書き出された問題を、教室にいる生徒らに当てようとした直前に、チャイムが鳴る。


「もう、こんな時間か」

「早く終わりにしようぜ」


 教師が壇上でそう呟くと、クラスの陽キャ的な奴が勝手に仕切りだす。


「そこ、静かにしなさい」

「もう、授業は終わりなんで、別にいいっしょ」

「……そ、そうだが……まあ、いい。では、今日の授業は終わりということで……」


 教師は不服そうに口元を閉じていた。






 簡単な授業終わりの挨拶をしたのち、教師は簡単に必要な資料をまとめ、教室から立ち去って行く。


 生徒にとっての枷のような存在がいなくなったことで、放課後の教室内は、さらに騒がしくなった。


「じゃあ、さっさと部活に行く準備をしようぜ」

「そうだな。それで、今日の練習って何だっけ?」

「確か、まずは、校庭五周してから――」


 数人の陽キャ系男子同士で、騒がしくやり取りをしていた。


「ねえ、今日は、私も行ってもいい?」

「別にいいぜ」


 類は友を呼ぶといった感じに、明るい声で話す女子も、彼らと混ざって会話し始めていた。


 その彼女は、サッカーのマネージャーとして活動しているらしい。




 数人の陽キャがいなくなった頃合い、教室内は相当、静かになった。






「ねえ、隼人、一緒に帰ろ」


 遊子菜乃葉ゆず/なのはが、席へとやってくる。


「そうだな」


 隼人は席から立ち上がり、通学用のリュックに必要なものを入れ、帰宅準備を整える。

 準備ができたところで、リュックのチャックを閉め、それを背負う。


「どこに行く? 隼人は、行きたいところってある?」

「どこだろな。俺はゲーセンとかでもいいけど」

「ゲーセン? そういうのは家でもできるし。別のところにしない?」

「そっか、じゃあ、ファストフードとか、ハンバーガーとかにしない?」

「ハンバーガー? そうね。駅近くに新しいハンバーガー店ができたみたいだよ」

「そうなの?」

「うん」

「だったら、そこにしようか」


 隼人は承諾するように頷いた。


 これから、幼馴染と一緒にデートができる。

 色々な妄想を膨らませ、隼人は菜乃葉と共に教室委から出た。






「ねえ、ちょっと待ってくれない?」

「「え?」」


 隼人と菜乃葉の声が重なる。


 教室から出た直後、そこに堂々と佇んでいたのは、生徒会長の須々木真理すすき/まりだった。


「隼人? 今日は急がしいって、言ったよね?」

「は、はい」

「だから、ちょっと手伝ってほしいの」

「……え、でも」


 隼人は体をビクつかせた。

 生徒会長という威厳のある存在に、オーラだけで圧倒されているからだ。


「ですが、生徒会長? 生徒の自由まで拘束するなんて、よくないのでは?」


 菜乃葉が、勇気をもって対抗していた。


「そうかもね。でも、隼人は、私のアレを見たのよ」

「あれ? とは?」


 菜乃葉は、そのことについては深くは知らないのだ。


 これ以上、その話を広げられてはならない。

 隼人は、教室や廊下にいる一般生徒らの視線を感じ、この話題を変えようと必死になる。


「そうですよね。今日は忙しいってことで、手伝う約束でしたね」

「隼人⁉」

「ごめん、ちょっと用事ができたみたい」

「そ、そんなぁ……楽しみにしていたのに」


 隣にいる幼馴染の悲しむ姿が瞳に映る。


 隼人も、そんな彼女の表情なんて見たくなかった。

 でも、生徒会長の口から、脱衣所の件を言われたくなかったのだ。


「わ、分かったわ。今日の約束はなしってことね」

「うん……ごめん」


 悲しい結果となった。






 生徒会室。


 須々木先輩からは忙しいと言われ、やってきたのだが、生徒会の役員らの姿がなかった。


「他の人は?」

「いないわ」

「いない? ということは、別の場所で活動をしてるってことでしょうか?」

「いいえ、そうでもないわ」

「え? どういうことですか?」

「もう帰ったわ。それか、部活か」

「……でも、さっき、忙しいとかなんとかって」

「それは嘘よ」

「⁉」


 隼人が騙されたと感じた。


 隼人の体の正面は、生徒会室の扉へと向かっていたのだ。


 廊下の方へ出ようとする。

 が、先輩から塞がれてしまう。


「先輩? 嘘なら返してください」

「嫌」

「何でですか?」

「君は私のパシリなのよ。結果はどうであれ、従う必要があるわ。それとも、バラされたい?」

「それは……嫌ですけど」


 隼人は落ち込み気味になる。

 同時に、幼馴染の悲し気な顔が脳裏をよぎり、早く彼女のもとへ向かいたいと思う。


「でも、簡単なことだから」

「どんなことですか?」

「それはね」


 須々木先輩は意味深な笑みを浮かべると。




「私の肩を揉んでくれない?」

「肩を……⁉」


 隼人は先輩の肩を見る。

 それと、おっぱいが視界に映るのだ。


 デカいなんてもんじゃない。

 爆乳であり、その近くにある肩を揉むということに、ドキッとする。


 普通に考えて、女の子の体を触るということなのだ。


 揉んでみたい。

 けど、幼馴染のこともあり、どうすればいいのか迷う。


「揉むだけですか?」

「ええ」

「揉んだら終わりと? 解放してくれるんですよね?」

「解放って人聞きが悪いわね。でも、そうよ、早く終わらせたかったら、揉んで」

「わ、分かりました」


 隼人は息を飲む。


 そうこうしている間に、須々木先輩は室内に設置されたソファへと向かっていき、腰を下ろしていた。


 その行為だけで、先輩の爆乳が触れ、目のやり場に困ってしまう。


「早く揉んでね。早くしてね」

「は、はい……」


 パシリらしく、簡単な返事をしたのち、ソファに座っている彼女の後ろへと移動した。






 それにしてもデカい。


 背後からでもわかるほどに、先輩のおっぱいは禁断の果実のように思えた。


 須々木先輩のことはそこまで好きではないのに、なぜか、爆乳近くにある肩へと、勝手に手が向かっていく。


「んッ」


 先輩が軽く吐息交じりの声を出す。

 少しエッチな感じに喘ぐような声。それを恥ずかしく、押し殺している。


「先輩、どうですか?」

「まあ、いいわ。そのまま続けなさい」

「はい」


 須々木先輩はすました顔をしているが、心の中では動揺しているように思えた。


 少しばかり、声が震えているような気がしたからだ。


 もしかして、意識しているとか?


 いや、まさか……。


 そもそも、先輩とは上下関係の存在であり、好きとかそういう意味合いでの、喘ぎとかではないだろう。


 刹那、制服のポケットからバイブ音が聞こえる。


「すいません、ちょっといいですか?」

「なに? もう疲れたの?」

「そうではなくて、少しだけでいいので」


 隼人は誤魔化すように言う。


 先輩の肩から手を放し、スマホを確認すると、予想通りにメールが届いていた。

 しかも、一〇件ほどである。


 幼馴染の菜乃葉からの連続メール。


 帰るとか言っていたが、本当は、デートを楽しみにしていたのだろう。


 隼人は早いところ、先輩とのやり取りを終わらせようと必死になるのだった。

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