第4話 幼馴染と念願の…⁉

「ねえ、隼人。一緒に寝よ」

「い、一緒に⁉」

「うん、いいよね? 隼人」

「……」


 崎上隼人さきがみ/はやとは緊張した感じに唾を呑む。


 今、人生で最大級に緊張しているのだ。


 なんせ、昔から好きだった遊子菜乃葉ゆず/なのはと、一緒のベッドで就寝できることに興奮していた。


 寝るだけなのに、ここまで胸が高ぶることなんてそうそうないだろう。


「じゃあ、寝ようか」

「うん、そう来なくちゃね」


 菜乃葉は満面の笑みを見せてくれる。


「でも、その前に、風呂に入らないと」

「ねえ、私も一緒に入ってもいい?」

「それは、さすがにまずいんじゃないか?」

「えー、でも、私は一緒に入りたいんだけど」


 隼人は心底、どぎまぎしていた。


 長年一緒の時間を過ごしている幼馴染とのお風呂。

 それは、幸せの極みだった。


 でも、この家には生徒会長がいる。

 しかも、今日から同居することになっているのだ。


 今、その彼女はリビングにいる。

 一人でテレビを見ているようであり、気づかれない内に行動するなら、今しかないと思う。


 しかし、大丈夫なのか?


 でも、幼馴染とイチャイチャできる僅かな瞬間である。

 迷っている暇なんてない。

 ごちゃごちゃと考えても、何も事態が変わることはないのだ。


「ねえ、隼人? どうかな?」

「――⁉」


 刹那、幼馴染のおっぱいが、隼人の胸元に接触する。


 フワッと柔らかい、その二つのぬくもりが、隼人の体全体を満たしていく。


 それと同時に、胸元が温かくなる。


 緊張しているのもあるかもしれないが、好きな幼馴染からエッチな行為を求められているのだ。


 女の子から、そういったことをされることなんて、そうそうない。


 むしろ、断る方が男としてどうかと思う。


「脱衣所に行こうか」

「うん♡」


 幼馴染は、夕食の時から少々接触的になった気がする。

 そして、束縛するかのような視線を向けられているような気がしてならなかった。


「それより、ちょっと離れてくれないか?」

「どうして?」

「いや、近すぎるからさ」

「えー、でも、私、一緒にくっ付いていたいんだけど」


 菜乃葉の積極性が劣るということはなかった。

 むしろ、過激さが増している。


「というか、あの生徒会長、いつまでいるの?」

「わからないよ」

「どうして? 料理している際に、会話していなかった?」

「聞いていたのか?」

「……んん、聞いてないよ」

「今の間はなんだ?」

「別にいいでしょ。でも、私、今日から隼人と一緒に過ごせると思って、色々と頑張って用意していたのに」

「用意って?」

「それは秘密?」


 菜乃葉はエッチっぽく、誘惑するような話し方をする。


 それから、人差し指で、隼人の口元を抑え込むのだ。


 彼女の優しい指が、口元に触れ、ドキッとする。


 女の子の肌を直接感じられ、幼馴染のことばかりを意識してしまう。


 本当に、なんの用意なんだ?


 考えれば考えるほどに、気になってしょうがなかった。


「それより、一緒に行くんでしょ? 早く脱衣所に行こ」


 菜乃葉から右腕を引っ張られるように、自宅の脱衣所へと導かれるのだった。






 というか、本当に入るのか?


 幼馴染である菜乃葉と一緒の空間にいると、彼女のことをより一層意識してしまう。


 今、背を向けあったまま、着替えている最中だった。


 チラッと背後を振り返るだけで、菜乃葉の着替え姿を見ることは可能なのだ。


「ねえ、隼人は、私の着替え姿見たい?」

「……いいよ」

「興味ない感じ?」

「そうじゃないけどさ。み、見てもいいのか?」

「そ、それは、ダメ」

「じゃあ、なんで聞いてきたんだ?」

「隼人は、どう思ってるのかなって思って」


 菜乃葉の恥じらうような声が聞こえた。


「でも、見たいなら、見せてあげるけど」

「本当に?」

「うん」


 振り返ってもいいのか?


 見れるのであれば見たい。


 そんな心境になる。


 隼人は気分を高めながら振り返ろうとした。

 が、同時に、脱衣所の扉が開かれたのだ。




「ねえ、あなたたちは、どうして、ここにいるのかしら?」


 須々木真理すすき/まり先輩の圧力じみた声が、二人だけの空間を打ち崩すように聞こえる。


 終わった。


 一番見られてはいけない場面を、生徒会長である彼女に見られてしまったのだ。


「これには理由があって」

「理由?」

「はい」


 隼人は全力で誤解を解こうとする。


 今生じていることは事実であり、誤解も何もないのだが、一番見られたくなかった場面を誤魔化そうと必死だった。


「では、ここで話すのも嫌でしょうし。ちょっとリビングの方に来てくれる?」

「はい」


 隼人は頷くことしかできなかった。


「菜乃葉さん? あなたも、一旦来てくれるかしら」

「……わかりました」


 菜乃葉もしぶしぶといった感じに従う。


 下着姿になっていた二人は、服を着なおすのだった。




「それで、あなたはいつになったら帰るのかしら?」

「私は隼人の幼馴染なので、帰るつもりはないです。それより、生徒会長こそ、なぜ、隼人の家で住むことになったんですか?」

「それには色々な事情があって」

「色々って何です? ハッキリと、そこを知りたいです」


 幼馴染は必至の対応をする。


 リビング内。

 長テーブルを挟み、ソファに座ってやり取りをする女の子二人。


 その光景を、菜乃葉の左隣で見ている感じだった。


「私は、隼人の父親公認で、住むことになったんです」

「え? 父親? ねえ、隼人はそのことを知ってる?」


 菜乃葉は急に話題を振ってきた。


「いや、俺はそこまで深くは知らないけど」

「隼人だって、そう言ってますけど」


 菜乃葉は、生徒会長に下剋上しているかのよう姿勢を見せる。


「別にいいでしょ。全部、言う必要なんてないと思うわ」

「でも、私、その理由を知らないと納得できないです」


 二人の女の子同士で、火花のぶつかり合いが、そこで繰り広げられていた。


「それは……後で話すわ」

「あとで? いつです?」

「それは状況を見てから」

「……でも、後で話してくれるんですか?」

「そのつもりではあるから」


 菜乃葉の勢いに押し負けたかのように、先ほどまでの先輩の威厳の強さはなくなっていた。


 生徒会長自身、言わないといけないことはわかっていると思う。


 でも、あまり口にしたくない理由があるのかもしれない。


 隼人は、先輩の表情で見て、そう思うようになっていた。


「まあ、先輩も、後で話すって言ってるし。状況を見てもいいんじゃない?」

「隼人も、そっち側に寝返った感じ?」

「そうじゃないけど。やっぱり、いがみ合ってもしょうがないっていうか。今のところは、泊まらせてあげた方がいいような……」

「……別にいいけど。これだと、隼人と二人っきりで過ごせないじゃない……」


 刹那、幼馴染のか弱い声が耳に響くのだった。

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