第23話:これからよろしく


(案外、呆気なかったな)

ベッドの中でそんなことを思った。帰宅後にテレーゼの喉を治したのだけど、正直言ってこんなに上手くいくとは思っていなかった。

僕が魔法の正体を知っていたからだろうか。だからあんなに簡単だったのか。

(.......そもそも、どうしてエクスタを行使出来たのか...)

これが一番謎である。そんな奇跡みたいのが都合よく起きるか?

気になることは大量にあるけど、それより今は解決しないことがある。

(あのグルグルお嬢様...ちゃんと家帰ったよね...?)

もしかすると、こんな夜中でもまだ探しているのかもしれない。

(あの頭グルグルお嬢様ならやりかねないな...)

僕は図書室で、「よく分かる!人体の構造ずかん」と共に「よく分かる!世界の綺麗な宝石ずかん」を借りてきたのだ。

僕は寝転がりながらその図鑑を開いた。ダイヤモンドが何なのかを知りたかったのだ。

そこには白いようで透明な色をした、美しい石が描かれていた。

(ふーん...本当に綺麗だな...って0.2グラムで100万イェン!?そんなものを無くしたの...?あのグルグル...)

僕は図鑑を閉じ、目を閉じた。


※1イェンは日本円で1円


✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤


翌日の朝、僕は尿意に耐えられなかったので、三人を先に行かせてトイレへと駆け込んだ。すっきりした後、階段を登ったらドレス姿の生徒がいた。昨日帰る時と同じように、地面に顔を近づけて。そんなに大事なものなのか。というかちゃんと帰ったのか。

「ねぇ、」

「うきょ!?あら、あなたでしたのね。」

「そろそろ驚かなくても良くない?」

彼女は体を起こした。

「昨日からずっとここに?」

「んなわけねぇですの。ちゃんと帰りましたわ。」

彼女はそう言って顔を背けた。

ただ、それにしてはドレスも髪も汚れてるし、目も充血していた。明らかに寝不足な感じだ。

「眠い?」

「くっそ眠いですわ。」

本当にお嬢様なのかって程口が悪いなこのグルグル嬢。語尾が「ですわ」ならなんでも許される訳じゃないんだぞ。

ていうか眠いのか。絶対ここで夜を明かしただろ。

「寝なよ。体に悪いよ。」

「一徹くらいなんともないですわよ?」

「眠いって言ってたじゃん。」

「言ってないですわ!」

「嘘じゃん。あのね?眠くなるのは体が「休め」って警告を出してるからなんだよ?寝ないと死ぬよ?」

正直一徹くらいなら死なないけど、彼女を休ませるにはそれくらい誇張表現を使わないと無理そうだ。

「死ぬことを永眠って言うのはそういう意味なんだよ?」

もちろんそんなことはでっち上げである。

「そうなんですのね!くかー...」

彼女は首をだらんと垂れた。

「ここで寝る!?」

反応はない。寝息だけたてている。こんなにすぐに寝るなんて、兵士か何かなのか?

とりあえずここにそのままにしておくのはまずいので、僕は彼女の胴に手を回し、担ぎあげようとした。しかし、かなり彼女の体(特にドレスと髪)が重かったので、床を引きずる形になりながら、彼女の教室である4-1へと運んだ。

教室に入ると、僕を見た(正しくはドレス姿の少女を引きずった僕を見た)生徒達がざわざわと騒ぎ出した。

僕はとりあえずすぐ近くにいる生徒に話しかけた。

「あのーこの人の席ってどこです?」

「あ、一番前の一番左...黒板から見て...。」

「そうですか、ありがとうございます。」

僕はお嬢様を引きずりながら歩いているのを、彼女のクラスメイト達は静かに見ていた。

やがて、僕は彼女の席に着いたが、彼女が起きる様子はないし如何せん重いので、とりあえず椅子にうつ伏せにして置いておいた。さながら物干し竿に掛けられた洗濯物のようだ。

僕は彼女を置いて自分の教室へ向かった。その姿を、彼女のクラスメイト達は静かに見ていた。


✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤


授業中、僕はじっと手に持った自分の鉛筆を見ていた。少し強めに、机に芯の先を押し付けてみる。すると、当たり前ながら鉛筆の先はボキッと乾いた音を立てて折れた。教科書や筆箱が置かれた机には、黒い粉と尖った黒い塊、そして先の無い鉛筆が置かれた。

この内、尖った黒い塊───つまり折れた鉛筆の先を手に取り、思い切り握った。

(........っ!!あっつ!!)

手の平に熱いものを感じ、僕は慌てて、それを机の上に落とした。それは先程の黒色の物体ではなく、少し黄色がかった物体へと変化していた。

(いけるかもしれない...)

僕は、机の上に置かれたそれと自分の筆箱の中にある五本の鉛筆を眺めて思った。


僕は、星型のダイヤモンドの装飾が全く見つからないのは流石におかしいと思っていた。どこで落としたかが全く見当がついていなければまだしも、僕とぶつかった時に落としたのだと彼女は言っていたので、おそらくその前の時間ではそれがあることを確認していたはずなんだ。

つまり、落ちていたものを誰かが拾って持って行ってしまったのだ。確かに、僕も綺麗な石があったら意味もなく持ち帰りたくなる......なる?なるかもしれない。もしくは、それが何であり、どのくらいの価値を持つものか分かって盗んだのかもしれない......。

どのみち、もうあそこに装飾はないのだ。彼女の行為は無意味だ。だからやめさせてあげないといけない。彼女とは短い付き合いだが、それでも彼女がテレーゼより遥かに馬鹿というのは分かっている。というか、あれは馬鹿というかどこか抜けてると言った方がいいのか、天然なのだ。だからその事に気づけない。そこにはもうないということが分からない。...え?それでどうやってこれまで生きてこれたんだ?使用人に任せっきりみたいな?

まぁ、その事はどうでもいい。とにかくやめさせるのだ。そのために、僕は鉛筆からダイヤモンドを作ったのだ。

(...でも普通のダイヤモンドじゃない...鉛筆からそのまま作ったからか、色が透明じゃない。不純物が混じってる...。)

さすがにこれ以上の純度は出せない。僕があの図鑑で見つけたのはダイヤモンドの作り方であり、純度を上げる方法では無い。大まかな作り方を学んだから、あとは自身の魔力を用いてダイヤを作る魔法エクスタを使っただけだ。原理はあまり理解出来ていない。

(でも出来たのは確かだ。)

これを星型に整形し、彼女に渡そう。「見つけた」と言って。それが僕が彼女にできる最大限の事だ。

(...ていうかなんで僕は彼女をこんなに手助けしてるんだ?)

この時間中、その疑問に対する答えが出ることは無かった。


✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤


「ねぇ、用事って何なの?」

と、ケイトが授業終わりに言ってきた。

「教えてくれてもいいんじゃない?」

「人助けかな。」

「あの貴族の人を?」

僕は彼女の方を振り向いた。

「なんで知ってるの?」

「別に、トイレ行こうとした時に二人で何かやってるのが見えたから。」

たしかに兄が見ず知らずの、しかもドレス姿の変人と共に床に顔を擦りつけているという状況はかなり目立つ。ドレス姿だけで目立つのに奇行をしてるのだから目立たないわけがない。気にならないわけが無い。

「落し物をしたみたいでさ、探してあげてるんだよ。」

「ふーん。」

それだけかよ。もっと何か、何探してるの?とか手伝おうか?とか言ってくると思ったよ。

彼女はそれ以降何も話しかけてこなかった。


そして、放課後。僕はお嬢様がいるだろう階段へ向かった。

「ねぇ。」

「なんですの?あら、あなたですのね。今日は朝以外来なかったですわね。何か用があるなら後にしてくれます?わたくし、探し物をしていますので。」

んなこと知ってるよ。

僕はポケットから星型に加工したダイヤモンドを取り出した。

それを見た彼女は文字通り飛び上がった。

「え!?それをどこで!?」

「落ちてたよ。ほら、あげる。」

もちろん嘘だ。しかし、ダイヤモンドはダイヤモンドなのだから別にいいだろう。天然か人工かの違いくらいしかない。

彼女は僕の手からダイヤモンドを受け取り、ドレスの真ん中辺りに取り付けた。が、そのダイヤモンドはドレスから落ちてしまった。

「あれ?なんでですの?」

「接着剤がないとつかないんじゃないかな?」

「なんですの?それ。専門用語か何か?」

「......いや、糊のこと。」

「布に糊を付けれるとお思いなのかしら?というか、糊なんてそうそう手に入りませんわ。この装飾に刻まれた魔法でくっつくはずなのですのに......くっつきませんわ。」

まずい。このままだとそれが偽物だとバレてしまう。と、思ったが、彼女は

「まぁ、魔法の効力が切れたのでしょうね...そっちの刻印はお祖母様の物ではないのだし...。」

と言ってダイヤモンドをしまった。

彼女はこちらを見てお辞儀をした。

「どうも、ありがとうございましたわ。本当にお世話になりました。この借りは必ず返しますわ。」

「いや、いいんだよ。僕だって暇になった...いい暇つぶしだったし。」

というか、偽物を渡して感謝されると心が痛む。

とりあえず、僕達はそこで別れた。



夜。僕はいつも通りベッドに寝転がりながら考え事をしていた。

(あれで本当に良かったのかな...?)

あれから僕はその事しか考えていなかった。彼女は満足そうにしていた───本当に、嬉しそうだった。あの笑顔を奪うようなマネは僕には出来ない。というかしたくない。そもそも、嘘がバレたら貴族なんとか罪とかで死刑になるかもしれない。

僕は改めて、嘘を隠し通す事を決意し────


───あれ?

僕はベッドから起き上がった。窓から月光が差し込み、夜なのに明るく感じる。

(そもそも......そもそもだ、僕はケイトに魔法に興味を持たせようとしていた。そのために死んでいるであろうジェン・バートンを生き返らせるためにダストへ向かおうとしたのだ。その時、僕はジェン・バートンを探すための魔法を学習しているはずだ。あの頃は消費魔力が多くて全く使えなかった探索する魔法を、エクスタが使えた今なら使えるんじゃないか?)

僕はその事に気づいたと同時に、一連の捜索が無意味だったと知り、肩を落とした。

再びベッドに寝転がり、僕は目を閉じた。

捜索する魔法エクスタ

正直、これまで一度も使ってこず、今回が初めての使用となるこの魔法。どのような動作で遺失物を見つけることが出来るのか、僕は気になっていた。

目を開け、辺りを見渡すと光が見えた。正しくは、小さな星型の光だ。それがこの部屋のクローゼットに見える。

(え?どうして?......もしかして...)

僕はベッドの左側にあるクローゼットを開けた。そこには洗濯済みの服がハンガーにかけてある。その服の中の一着、僕がいつも身につけている上着のポケットの中に光が見えた。

僕はポケットをまさぐり、硬いものの感触を感じた。手に取るとそこには、透明であらゆる光を反射する美しい輝きを持った星があった。ダイヤモンドだ。

(.........)

つまり、僕が廊下で彼女とぶつかった時、たまたま上着のポケットにダイヤモンドが入ってしまったというわけだ。

というか、最初から捜索する魔法を使っていればこんな面倒な事にはならなかったのだ。

「......はぁ。」

まったく。おかげで最悪の状況になった。最高だな。

とりあえず、どういう理由をつけて彼女にこれを返そうかと、今夜はそれだけを考えて眠りについた。


✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤


「よっっっっくも騙してくれましたね!!!!」

「あ、あの...」

「喋るんじゃないですの!!この下衆さんが!!」

翌朝、僕が教室に入った時、彼女は僕の席に座っていた。僕が教室の入口で固まっているのを見るなり僕の腕を引き、僕を席に座らせ、怒号を浴びせてきた。

彼女は真っ赤な顔をし、腕を組んで僕の前に仁王立ちしている。

「はぁ....あなたは優しいと思っていましたのに...。」

「お兄ちゃん、お疲れ様。」

「エンドまたなんかやったのか?」

「謝りなよ( ー̀ н ー́ )」

「僕何もやって....ないわけないけどさ、まずこのドレスの貴族には誰もツッコまないの?」

「「「話を変えるな。」」」

辛辣すぎる。僕が何をしたって言うんだ。

「とりあえずさ、二人で話さない?ここだと人目が多いし。」

「クソ生意気ですわね〜!まぁここは条件を飲んであげますわ。」

僕は立ち上がり、彼女と教室を出た。



僕達は校舎の裏側へとやってきた。ここには生い茂る草木以外には何も無い。ちょうどその草木が外の視線を遮るので、密談にはもってこいだ。

「ねぇ、なんであれが偽物だって分かったの?」

「お父様が確認したんですわ。魔法が刻まれていなかったから偽物ですわ。」

魔法が刻まれていない?つまり本物には魔法が刻まれているって事なのか?

「どういう魔法が刻まれてるの?」

「本物を持ってきたら教えてやってもいいかもしれませんわ。まぁ持っていないでしょうけど。」

僕はポケットからその"本物"を取り出した。

「これ。」

それを見た彼女は、先程までとは比べ物にならないくらいの厳しい顔付きになった。

「え、どうしたの?」

「どうしたの?じゃねぇですの。あなた、最悪ですわね。」

急にそんな暴言を吐かれた。心外だ。

「最悪って...名前も知らない相手によくそんな事言えるよね。」

「自己紹介しますの?」

彼女は先程までの厳格な顔付きから一変、初対面の頃と同じ緩い顔付きへと変わった。怒るならちゃんと怒れよ。

「自己紹介しようか。僕はエンドっていう名前。性別は男ね。」

「性別は見たら分かりますわ。私はリーベリオット・フォン・ベルゼラントという名前ですわ。性別は女ですわ。」

「性別は見たら分かるよ。」

どうして急に自己紹介なんかしたのか。これのせい(おかげ)で彼女の熱が冷めてしまった。これでは話が進まない。かと言って、彼女が再燃してもややこしくなるだけだ。本当の事を打ち明けるしかない。

「あー...なんで僕が偽物を渡したかって言うと、まぁ心配?だったからなんだよ、ずっと探してるからさ。やめさせないとリーベリオットさんが寝不足で死んじゃうかもしれないから、偽物を渡したんだよ。」

「本物を持っていたのにですの?」

.....あぁ、そういう事か。つまり彼女は、これ以上捜索されないために僕が偽物で撹乱しようとしたと、それで僕が本物を売りさばこうとしたと思っているのか。

「本物を持ってることに気付いたのはつい昨日、帰った後なんだよ。」

「信じられませんわ。」

「じゃあなんで僕はこうやって本物をあっさり差し出してるの!?ていうか早く取りなよ!」

「あっそうですわね...。謝罪しますわ...。」

そう言って、彼女は頭を下げた。

「いや、いいよ。僕も悪かったし。ていうか結局僕が持ってたわけだし...ほら、これ。」

と、僕はずっと右手に差し出していたダイヤモンドを彼女に渡した。

「ありがとうございますわ。」

彼女がそれを受け取った────瞬間、僕は強大な睡魔に襲われた。

「ぐっ.....!?」

抵抗虚しく、僕はその場に倒れた。

と、同時に彼女は頭を抱えていた。

「なんてことをしたんだ...わたしは...!とりあえず、エンド君を保健室に...」


✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤


目が覚めると、僕はベッドの上にいた。カーテンで仕切られているのを確認し、僕はここが保健室だと判断した。

(何だこの枕...硬いんだけど。)

僕はいつも羽毛の枕で寝ているので硬い枕では寝られないのだ。なのに僕は今までここで寝ていた...。

「僕、どうかしちゃったのかな...?」

「なに変なことを言ってるんだ?打ちどころが悪かったのか?」

カーテンの向こうから声がした。聞き覚えがない声だ。

「え、誰です?」

僕はカーテンを掴み、一気に引いた。そこには無表情のリーベリオットがいた。

「なんだ、リーベリオットさんか。声変わりした?」

「そんなすぐ声変わりするわけないだろう。馬鹿なのか?」

罵倒された。ちょっとふざけたら罵倒された。ついさっきの彼女からは考えられない言動だ。いや、前の彼女も同じように暴言吐いてきたな...。

「っとすまない。つい口調が悪くなってしまった。」

「ですわ〜!はどうしたの。口調悪くなる以前に口調変わってるんだよ。」

「世間一般で言えばその口調の方がおかしいだろう。馬鹿なの.....いや、よそう。」

目の前にいる彼女はなんというか、とても理知的な感じがした。顔も服装も、声以外何も変わっていないのに、以前の彼女とは全く違って見えた。

「本題に入るとしよう。エンド君は、私が変わったことについて気になっているのだろう?その事について今から話すとしようか。」

「もしかしてだけど、そのダイヤモンドの効果?」

彼女はふふっと笑った。

「やはり君は察しがいい。地頭がいいんだろうね。そうだ。このダイヤモンドが私をこんなふうにしたのさ。いや、してくれたと言うのが正しいか。このダイヤモンドには"所有者の短所を補う魔法"が刻まれているのさ。」

「所有者の短所を補う魔法?そんなの魔導書で見たことないんだけど。」

すると、彼女はまたふふっと笑った。

「その歳で魔導書も読んでいるのか。普通はまだ基礎しかやらないはずだが.....君はどうやら優れた知能を持っているようだね。」

「勉強なんて誰にでも出来るよ。凡人の僕でも出来るんだから...。」

「それは間違いだ。世の中の凡人全員が知的好奇心をその心に持ち生活している訳では無いのだよ。勉強の才能があると言えよう。」

なんだろう、彼女と話すのが楽しい。この討論が僕の人生のかけがえのない財産になると無意識下で感じた。

だが、討論は一度盛り上がると止まりどころを失うため、ここら辺で終止符を打つとしよう。

「話を戻すよ。そのダイヤモンドには所有者の短所を補う魔法が刻まれてるって言ったけど、魔導書にはそんな魔法の存在が書かれていなかった。それはどうしてなの?」

「世間に公表されていない魔法だから。」

以外だが妥当な答えが返ってきた。これを深く追求しても特に何も得られるものは無いだろう。

僕にはもう一つ、気になったことがある。

「じゃあ一つ質問するけど、」

「もう既に一つ質問されてるがね。」

「.....質問するけど、どうしてそんなに性格が変わったの?」

「私の短所は頭が悪い事なんだ。だから、ダイヤモンドを身につけると知能が上昇し、精神年齢もそれに伴い上がったからだな。」

それなら僕は何が上昇したのだろう.....一つしか思い浮かばない。魔力量だ。だからエクスタを行使できたのか...。

「ていうか、それだけじゃないような気がするんだよ。前と違って元気が無くなってるよ。」

「あぁ、それがこのダイヤモンドの魔道具の欠点だな。この魔道具、本当は自身の長所を犠牲に短所を補う物なんだ。元の私の長所は元気が良い事だったから、今の私は元気がないんだ。」

「それって長所がない人には関係ないんじゃ?」

「長所がない人なんていないだろう?」

ここにいるのだけれど。


という感じで、ダイヤモンドの一件は解決した。それのついでのように、テレーゼの喉も治った。これにて一件落着だと僕は思っていた。

彼女が、僕が渡したダイヤモンドを眺めながら言った。

「にしても、こんな精巧な偽物を作れるなんて、エンド君はすごいね。ちょっと汚れてるのが気になるけど。」

「鉛筆からダイヤモンドを生成したからね。不純物が混じってるんだよ。」

「偽物のダイヤモンドすら見抜けないなんて...元の私は本当に頭が悪いな。」

彼女はこめかみの部分を押さえた。しかし、彼女の言ったそれは間違いだ。指摘してやらねばならない。

「いや、ダイヤモンドは本物だよ。」

天然ではないだけで、ダイヤモンドはダイヤモンドなのだ。それを聞いた彼女は魔道具が外れたのか知らないが、アホ面をこちらに向けていた。

「鉛筆に含まれてる黒鉛は高温高圧下でダイヤモンドにすることが出来るんだよ。どっちも同じ炭素から出来てるらしいからね。」

「え、あ、いや、え、本物...?私に渡したダイヤモンドが...?」

「魔道具としては偽物だけどダイヤモンドとしては本物だよ。さっきからそう言ってるでしょ。」

彼女はそれを聞いて顔を赤くした。

「え、どうしたの、また怒らせちゃった?」

「そ、そんな訳ないだろうが!」

怒ってるじゃないか。

「まぁまぁ、別にそれは持ってていいよ。結局ダイヤモンドを無くしたのは僕とぶつかったせいだし。返事は?」

「え、あぁ!う、うむ!」

(聞いてなかったな...まぁいいけど。)

彼女は頬を赤く染めたまま、僕のベッドに座った。

「これからよろしく...。」

「?よろしくね。」

何やら盛大な勘違いが起こってるような気がするが、今日はもうこれ以上面倒事を増やしたくないので、僕は放課後まで寝ることにした。

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