第21話:╮(´・ᴗ・` )╭
「わっっっかんねぇよ!!なんだよそれ〜!!」
勉強をしていたら急にジェンが声を荒らげた。
「どうしたんだよ、どっか分からないところでもあった?」
「いや、お前のそれ...」
そう言って、彼は僕のノートを指さした。そこには中等部でやる予定の魔学の内容がずらっと書かれている。
「え?魔学のこと?やっぱ知っとかないとダメかなって思ったからやってるだけなんだけど?」
「おかしいだろ...ケイトもそう思うよな?」
そう言って彼はケイトを見たが、ケイトは僕のそれよりもっと高度な魔学の内容に取り組んでいた。
「ジェンがおかしいんだぞ〜」
「そうだー」
「お前ら兄妹がおかしいんだよ...!」
辛うじて、テレーゼは小等部の内容に取り組んでいた───二年後にやる予定の内容だが。
この四人の中で、ジェンのみが自分の学年の勉強をしているのだった。
「基礎だぞ〜出来て当然だぞ〜。」
「じゃあ、この四桁の引き算できる?」
「2411。」
「くそ。」
「そんなことしてないで勉強しなよ。(`・ω・´)」
「……はい。」
テレーゼに怒られてしまった。
僕は再び、図書室の本から魔学の内容を書き写したノートを見た。
(やっぱり興味深いなぁ...)
なぜなら、グレインドールが言っていた事と全く見当違いの事が書いてあるからだ。
「第1章:魔法とは何か」について、「充満している魔力によって世界に変化をもたらす方法」とされている。かなりそれっぽいけれど、グレインドールさんは「想像を現実に創造する方法」と言っていた。
どちらが正しいかと言えば、恐らくあの人の方だろう。あの場面で僕に嘘をついても意味が無いからだ。なので、こんな情報操作をした犯人はすぐ目星が着いた。エネーギだ。
何をしているつもりなのかは分からないけど、それが何らかで彼の利になるということが分かる。
ただ、この記述の二つとも、あまり違わないというのが気になるところだ。世界に変化をもたらすためには想像が不可欠なのだから(というかほとんどの行為に想像が不可欠である)、こんな誤魔化しは意味がないと思う。
エネーギがただ単に馬鹿ってだけかもしれない。
(でも会いに行くのも面倒だし、というか会いたくないから聞くのはまた今度にしよう。)
僕は立ち上がり、三人のいる部屋から出た。
そして、僕はキッチンから飲み物とコップ、cookieが大量に入った皿を用意してきた。
「ほら、勉強には息抜きが大事だよ。」
「なにこれ?」
ジェンはcookieの事を知らないようだった。
「cookieだよ。たぶん小麦粉とか薄力粉とか強力粉とか、とりあえず粉混ぜとけばできる甘いお菓子だよ。」
「え、これお前が作ったの?」
「いや、市販の。」
テレーゼは呆れたように紙を見せてきた。
「クッキーには小麦粉も強力粉もいらないわよ╮(´・ᴗ・`)╭」
「そうなんだね。あとその顔文字うざい。」
とりあえず、僕はcookieと飲み物を机の上に置いた。
「わぁ!cookieだ!」
「好きなだけ食べな。このcookieはライベールの私物だからね。」
「なんで二人ともクッキーの発音だけ滑らかなのよ...。」
「違うぞ、クッキーじゃない。cookieだ。cookieさんって言ってもいい。作り方は単純だし材料も少ないのに、一枚一枚に満足できるお菓子はこれ以外ない。cookieさんは、お菓子の王様なんだよ。」
「そうだよ。cookieは至高だよ。」
「あんたら頭おかしいでしょ……どうせクッキー以外のお菓子を食べたことがないってだけでしょう?|ω•˘ )」
痛い所を突いてくる。確かに、僕はcookie以外のお菓子はカルメ焼きくらいしか知らない。砂糖は確かお菓子じゃないんだよね?あ、あとちっちゃい頃に食べたほんのり甘くて薄くて硬いパンみたいなのもあったな。確かそれは米っていうのを使うんだっけ。
「ていうか、材料知らなかったのによくそんなことが言えるよな。」
「cookieを親が買ってくることがあっても僕達で作ることはなかったからね。」
そう言って、一枚口に運ぶ。
「うん、うまい。食べていいよ?」
「いやこれライベールさんのでしょ?( •︠ˍ•︡ )」
「大人は勉強のためって言っとけば大抵の事は許してくれるよ。」
許してくれなくてもここにいる全員を共犯者にしてしまえば怖くない。しかもライベールはジェンと初対面であるから、おそらく怒れないだろう。初対面の人に怒ることができるのは余程のことをした時くらいだ。あと、cookieくらいで怒るとか大人気ないからさすがに怒りはしないだろう。...さすがにね?
僕達は次々にcookieを頬張った。
「これ美味いけど喉が渇くな。」
「だから一緒に飲み物持ってきたんだよ。馬鹿なの?」
「言い過ぎだろ。」
ジェンはコップに飲み物を注いで、飲んだ。
と、その瞬間吐き出した。それはテーブルの上に置いてあったノート、教科書、cookie、そして床を濡らした。
「うわっ汚な!ジェン!お前最悪だぞ!?」
「まっず!なん
「はぁ!?これキッチンの棚にあった水だけど?」
「ただの水をそんな瓶に詰めて保管しておくと思うの?」
ケイトが辛辣な一言を言ってきた。確かにそうだ。水なら水道で汲めばいいだけだ。
...つまり。
「それ、酒だ。」
「なんてもん飲ませんだよ!」
「飲んだのはそっちだろ!僕はここに持ってきただけですぅ〜。」
「明らかに誘導してただろ!」
「喧嘩しないで〜( ̄▽ ̄;)」
テレーゼのそのテロップも虚しく、僕達は互いに罵詈雑言を言い合っていた。
「誘導に引っかかる方が悪いだろ!」
「さすがに酒を持ってくるとは思わないだろ!」
「他人が出した物を簡単に口にしちゃダメなんだぞ!」
「一時はお前の家の犬だったからな!別に他人って訳じゃないだろ!」
と、そこまで言った時、ジェンが倒れた。どうやら酒が巡ったらしい。
...良かった。あのままだと負けてた。
僕はとりあえずジェンをベッドに投げた。
「今日の勉強会はこれで終わりでいい?」
「まぁ、ジェン君が寝たなら終わりだね。」
「テレーゼ、ジェンに君はいらないよ。あ、ケイト、濡れたこれらは乾かせる?」
「そんくらい、お兄ちゃんでもできるよ。」
「はいはい。」
なんだろう。最近ケイトの僕に対する態度が冷たくなってきてる気がする。
「
僕は机の上の濡れたノート類に手をかざして唱えた。僕の手から小さい火球が出て、その熱で水を蒸発させた。うん、想像した通りだ。
「それ、効率悪くない?」
またケイトが言ってきた。
「そう?」
「うん。私ならこうする。」
そう言って、彼女は床に手をかざし、「
「…...まぁ引火しないっていう点では便利かな?乾かす効率は断然こっちの方が良いし。」
「いや、効率もこっちの方がいいもん。あっためて乾かすのと同時に水気を飛ばしてるから効率いいもん。」
「あー確かにそうかも。」
やっぱり彼女は魔法の天才だ。そうしみじみ感じさせられた。
そんなことをしている僕達二人を、テレーゼは「何やってんだこの魔法バカ共」とでも言いそうな顔で見ていた。
✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤
「あれ?もう一人いるんじゃなかったの?」
ライベールが帰ってきて今は夕食をとっている。ジェンはまだ眠っている。食卓にはいつもより少し豪華な食事が並んでいた。
「なんか疲れて眠っちゃった。」
「え〜、せっかくこんな買ってきたのに〜。お前ら残さず食べてね〜。」
僕達がこの家に来た時はこんなもの用意されていなかったのにね。まぁその分をここで食べるか。
僕は、手前にあった鶏肉を香草と一緒に炒めた物を口に運んだ。
「うん、うまいっちゃうまい。」
「普通に美味いって言えよ〜。それ王宮にも出される程の料理だからな〜?」
「ちょっとエンド、それ貰うね。」
「お兄ちゃん、半分貰うね。」
「俺も貰う。」
なんということだ。目の前にあった鶏肉が.....一瞬にして消えてしまった。
まぁ、それはいいとして、次にテレーゼの前に置いてある牛肉を焼いただけの料理を口に運んだ。というか何だこの食卓。肉々しすぎるだろ。
「あ、これもうまいっちゃうまい。」
「普通に美味いって言えよ〜。それも王宮に出される程の肉だからな〜?」
「ちょっとエンド、それ貰うね。」
「お兄ちゃん、半分貰うね。」
「俺も貰う。」
なんということだ。右斜め前にあった牛肉が.....一瞬にして消えてしまった。
なんだこれ。僕は今日の料理を一口しか味わえない呪いにでもかかっているのか。
とりあえず僕は自分の手元にあるパンを口に運んだ。
「普通に美味い。」
「そうか〜?それはいつも通りのパンだぞ〜?」
「エンド、ちょっとだけあげるね。」
「お兄ちゃん、半分あげるね。」
「俺もあげる。」
「いや、さすがにそれはおかしいでしょ!?パンは食えよ!」
そんな僕の訴えも虚しく、僕のパンが乗っている皿には、更に二つ分のパンが乗せられた。
僕はちぎられたパンを口に放り込んだ。
「ていうかさ、」
ライベールが切り込んできた。あ、これってもしかして...
「俺のクッキーと酒に何かしたか〜?クッキーは箱だけになってたし、酒は少し減ってたんだけど〜ねぇエンド。」
やっぱりこの話だった。しかし、僕はこれを言われる時のために全員にcookieを食べさせたのである。
「僕だけがやった訳じゃない!全員食べたから!」
そう言うとケイトとテレーゼの二人がこっちを見た。
「じゃあ全員、デザート抜きな〜?」
「え。」
彼女達の視線が鋭く刺さる感じがする...。
「お兄ちゃんさ、持ってきたのはお兄ちゃんだったしさ、私達はそれがライベールの私物だって知らなかったじゃん。」
「は、はぁ!?知ってたでしょ!?」
「いや、全然知らなかったよ?ねぇ?」
ケイトはそう言ってテレーゼに視線を配った。
「うん( ˘꒳˘)」
「いや、食べたじゃん!その時言ったでしょ!」
「まぁまぁ、エンド。連帯責任にしたいのもわかるけど、さすがの俺も、デザート四人分を追加で食える気がしないんだ。」
こ、こいつぅ〜!
「じゃあ、エンドはデザート無しで!」
「そんなぁ.....。」
自業自得である。
その後僕は、ケイトとテレーゼが僕の分のデザート(ケーキ)を、ライベールがジェンの分のデザートを食べるのを見させられた。
✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤
翌日の朝。僕はベッドをジェンに占領されていたので、いつかのように三人一緒に寝ていた。
今日はいち早く起きたので、ジェンの様子を見に僕の部屋に向かった。
扉を開けると、僕のベッドにとんでもないものがあった。
「こいつ.....この年でおもらしって...。」
僕はそっと、ベッドに
下ではライベールが朝食の準備をしていた。
「おっ早いな?デザート食えなくて眠れなかった?」
「そんな理由で眠れなくなるほど僕は子供じゃない。」
「俺から見たらガキだよ。」
個人的には、僕よりライベールの方が子供な感じがする。余裕が無い大人は自分より低く見えてしまうものなのだ。
彼は僕に紅茶を入れ、僕の対面の椅子に座った。
「なぁ、お前達の連れてきたのって獣人か?」
「ん、うん。そうだけど?」
彼は紅茶を啜った。
「はぁ...そうか。だからなんか臭いのか...。」
僕はその言葉を否定出来なかった。なぜなら本当だからだ。でも、なんだか僕はそれに腹が立った。
「ライベールも酒臭いよ。」
つい、口から出た。なんで僕はそんなにジェンをかばいたいのか、分からなかった。
「お前の父さんもこんなだったよ。いずれお前もこうなるのさ〜。」
彼はそう軽口を叩いて、それ以降何も言わなかった。
僕は、今後の生活に少しだけ不安を覚えた。
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