【短編】聖なる夜にサンタクロース(美少女)が夜空から降ってきて、性なる夜を過ごすことになった。ただし、とんでもないヤンデレだった。
渡月鏡花
【はじまり】空から(美少女)サンタクロース
——空からサンタクロースが降ってくるなんて思うか?
それもとびっきり美少女ときた。
一瞬、今いる場所が自宅のベランダであることさえも忘れてしまうほどに……
美しい淡い青色の長い髪が舞った。
ライトブルーの大きな瞳が驚きで見開かれた。
桜色の唇からわずかに『あっ』という驚きの声が聞こえた。
しかし、どんなに美しい容姿であっても自然法則に逆らうことはできない。
やけに胸元が強調された赤い上着と色白いおへそが見えて、白いスカートの裾がふわっとひるがえった。
気がついたら俺は身を乗り出して彼女の腕を掴んでいた。
重力操作の魔術を使って、彼女を引き上げる。
ちょこんとベランダに腰を落として、ホッとした表情で俺のことを見上げた。
今更ながら気がついた。
胸元や両肩の露出されていて、どこか扇情的だった。
だから青白い惑星と真っ赤な小さな月の二つの惑星に照らされて、より一層のこと美しくそして幻想的に照らしている。
ライトブルーの瞳がわずかにうるうるとして、色白い頬は朱色に染まっている。
「えっと……アオイちゃん?」
「う、うん」
「こんな時間に、何しているんですか?」
「プ、プレゼントを渡しに来た………?」
アオイちゃんは小さく首を傾げた。
いや、俺に確認されても……困るんだけど。
♡♡❤︎♡♡
遡ること数時間前のこと。
ローシル王国魔術庁の薄暗い一室。
できる限り無駄な魔力消費を抑えるために節約する——通称、
俺が隣国の魔術学院を卒業後、初めて配属された部署は節魔を推進する立場として王宮内を牽引する部署だ。
なんとこの部署の人数は二人だけだ。
俺と特別環境魔術顧問という謎の肩書きの先輩……。
まあ要するに窓際部署だ。
なぜ新人の俺をわざわざこんなところに配属したのか判然としないが、きっとお偉いさんなりの考えとやらがあるのだろう。
「ねえ、ねえ、ヤト後輩?」
「なんですか、アオイ先輩」
アオイ・ヒーリアム先輩は、色素の薄い青い髪をなびかせて振り返った。
好奇心の強そうな大きなライドブルーの瞳が俺のことを真っ直ぐに見た。
「かつて別の世界——ニホンから呼び出された勇者様たちがローシル王国で色々と文化を持ち込んだことは知っているよね」
「ええ、まあ、どこまで本当の話かは怪しいものですけどね。それがどうかしたんですか?」
「うん、それでね……ここ数年ローシル王国内では、サンタクロースっていう文化が復興し始めたのよ」
「はあ……そうなんですか?」
「うん、やっぱり『勝手に出ていった』帰国子女くんは知らなかったかー」
ふむふむと無駄にでかい胸を強調するように、面倒臭い先輩面をする。
てか『勝手に出て行った』って、今でもやはり根にもっているようだ。
「だから、4月に再会した時にも説明しましたけど、孤児院の院長にはちゃんと伝えていましたからね?」
「つーん」
アオイ先輩——いや、アオイちゃんはかつてのように駄々をこねる仕草をする。
今年ローシル王国魔術庁に入庁するまで、俺は数年間、留学先である西方王国の魔術学院の学生だった。
だから正直なところローシル王国内の流行にはやや乗り遅れていることは自覚していた。
しかし、サンタクロース……ね?
どんな文化なのか。
そもそもなぜここ数年でかつての文化が復興したのか。
流行というものはよくわからん。
とにかく留学をしていたこの数年間で王国内の雰囲気が変わったことは確かだ。
その変化は、帰国してからこれでもかというばかりに思い知った。
例えば、幼なじみのロイとメイはいつの間にか結婚していた。
俺のことを好きだって、いつまでも待っているから、と言っていたメイは簡単にチャラいと評判だったロイとくっつきやがった。
いつの間にか手紙も届かなくなったから心配はしていたのだが……。
くっそ、何が『私たち結婚しました!』だ。
……いや、これは王国の雰囲気の変化とは関係ないか。
そもそもちゃんとお別れを言う予定だったから、メイなんてどうだって良いのだ。
コホン。
とにかくかつての風景はなくなってしまったことは確かだろう。
ただ一つ、いやただ一人を除いて。
かつて孤児院で一緒に暮らしていたアオイちゃん——先輩は俺をじっと見ていたが、キリッとした笑みを浮かべた。
4月に再会してから、アオイちゃんはなぜか先輩風を吹きたがる。
でも根っからのドッジ子属性を発揮し続け、結果としては俺とアオイちゃんどちらが先輩なのかわからない状況になりつつあった。
それに不自然にもなぜか先輩としてあまりにも業務を知らなさすぎるのも意味がわからない。数年ほどは働いているはずなのだが。
だから先輩らしからぬポンコツ具合を
「後輩くんは何も知らないんだねー」
「……」
「仕方ないなー、じゃあ、昔みたいにアオイお姉ちゃんが教えてあげ——」
「いや、結構です」
「ぶー」
「子どもか」
フグモンスターのように頬を膨らませて、アオイ先輩はポコポコと俺の肩を叩く。
てか、地味に痛いんだけれども……。
しまいにはプイッと顔をそらした。
そのくせに、チラチラとこちらの様子を伺っている。
はあ……なんというかこの人は本当に相変わらずだな。
「あー、サンタクロースってなんだろー知りたいなー」
「し、仕方ないなー、お姉さんが教えてあげますっ!」
「……どうもありがとうございます」
「ふふふ」
アオイ先輩は、ドヤ顔で俺へとサンタクロースという空想の人物について説明してくれた。
♡♡❤︎♡♡
感謝祭。
年に一度の王国あげての一大祭りらしい。
ナショナルル広場は、
隣を歩くアオイ先輩のライトブルーの瞳は、どこからか魔術で打ち上げられた花火を追っていた。
花火はバーンという甲高い音とともに空中でハートの形に広がった。
「うわー綺麗だねー?」
「まあ、そうですね」
「ぶー。その反応つまんない」
「そうは言われても、この状況でよく冷静でいられますね?」
俺たちの目の前を小型なドラゴンが通り過ぎて行った。
誰かが魔術で創り出した幻想魔術だろう。
ドラゴンは大きく火の粉を撒き散らして通り過ぎて行ったから、露店の親父さんは『おい!あぶねーだろっ!』などと誰に言っているのかわからない抗議の声をあげていた。もちろん、お祭り騒ぎの中で誰も相手にしていない。
酒浸りになった男たちがケラケラと笑ている。
その中心には、ピエロ姿の人が鋭利なナイフをジャグリングしている。
ナショナル広場のシンボルでもある噴水では、カップルたちが水着姿となっていちゃついている。
ちょんちょんとローブの袖を引っ張られた。
アオイ先輩は少し驚いた表情で言った。
「今年はまだマシな方だよ?」
「マジですか」
「うん、マジ。だって、去年はもっとすごかったからね」
「そ、そうですか」
どうやら俺が思っていた以上に感謝祭とやらは派手らしい。
それに初日でこの賑わいだ。
きっと二日後の最終日はとてつもない盛り上がりを見せることだろう。
「ヤトくんが留学する前と比べて王国はすっごく良くなったでしょ?」
「ええ、そうですね」
いや本当にそうだ。
ここ数年間で王国は変わった。
俺が留学する前といえば、ローシル王国の前王が病で突然死んだこともあり王宮は混乱していた。その影響もあって、どんよりとした雰囲気が王国内に漂っていたものだ。
しかし4月に帰国して感じたのは、前国王の死なんてものはとっくに忘れられており、微塵も感じさせないほどの活気だ。
「まあ、これも姿を見せない第二王女様のお陰なんですかね?」
「ふふふ、そうなんですよっ!」
なぜかアオイ先輩は『えらいでしょっ!』とでも言いたげな表情で無駄にでかい胸を強調した。
てか、なんでアオイちゃんが自慢するのか……意味がわからん。
「サンタクロースも第二王女様が復興させたんでしたっけ?」
「うんうん!頭のかたーいおじさん達をなんとか説得したんだってー」
「へーそうなんですか。てか、第二王女なんていたんですね?」
「うーん。だってわ——わ、私が知る限りでは、第二王女様はちょうどヤトくんが留学するくらいに発覚したんだけど、前国王と愛人との隠し子らしいからねー」
なぜかアオイちゃんがキョロキョロとあたりを見渡した。
そして『ふー』とどこか安心したような表情になった。
「……アオイちゃん?」
「う、うんなんでもない!てか、『ちゃん』は止めてって4月の時にも言ったよねー」
「はいはい『あくまでも先輩と後輩という関係で接して欲しい』んですよね。わかっていますって、アオイ先輩」
「ちょっと違う!『——な関係で接してほしい』……って、今はいいっ!」
アオイ先輩はなぜかモゴモゴと何かを言って、プイッと顔を背けた。
いや、4月にあなたが言ったことでしょうが。
『過去のことは水に流してあげますっ!だから——これからは、なんでも言い合える(先輩と後輩の)関係になりましょっ!』
その言葉通りにうるまっているつもりなのだが……。
やはりこのポンコツ先輩のことはよくわからない。
そんなことを考えていると、アオイ先輩は早口で言った。
「ほら、早く節魔のチェックをしに行きましょっ!」
「あ、はい」
俺はアオイ先輩に置いていかれないように、群衆の中を歩き続けた。
♡♡❤︎♡♡
アオイ先輩はもぐもぐと美味しそうに笑顔を浮かべた。
そんな光景を見て、かつての孤児院での生活が脳裏に浮かんできたところで——アオイ先輩の声がかき消した。
「そんなに見たって……あげないよ?」
「いや、いらないですから」
「ふーん。そんなこと言って、本当は『アオイ先輩の食べかけが欲しいっ!』とか思っているんでしょ?」
「なんだその変態キャラ!?」
「……とか言って、本当は?」
「いや思っていないから!てか、どうしてそこまで俺のことを変態キャラにしたいんだよ」
「ふふふ」
アオイ先輩は楽しそうに笑みを浮かべた。
祭りの雰囲気に飲まれてなのか、それとも単にアオイ先輩の陽気な性格からなのかわからないが先ほどからよく笑う。
俺とアオイ先輩は、王都全体の魔力の量について一通り確認を終えて、本日の公務を全て終えた。
そして現在、俺たちは感謝祭セールとなっているレストランで食事をしていた。
「それで、ヤトくんはサンタクロースに何をお願いするか決まった?」
「いや、決まっていないですけど……それよりも本当に欲しいものをなんでも叶えてくれるんですかね?」
「ふふ、当然ですっ!」
なぜかアオイ先輩がドヤ顔を返した。
欲しいもの……ね?
とりあえず、遠距離中の彼女——マリアに会いたいが……そんなこと言っても叶うわけないだろうしな。
そうなると……贈り物か。
マリアが欲しいものといえば——
「青い宝石……ですかね?」
「え?なんで宝石なの?」
「いや、彼女に渡そうかなと思って——」
「え!?彼女いたの!?」
「そんなに驚くことですか?」
「もしかして、留学先で出会っため——女の子?」
「ええ、そうですけど」
「ふーん、そっか——まだ愛しているんだー。だったら計画を——」
「今、なんて言いました?」
「ううん、なんでもないよ」
アオイ先輩は一瞬だけ今までに見たこともない暗いオーラを出したが、すぐに雲散霧消した。
今の魔力はかつて留学先で一度だけ感じたことのある魔術だ。
しかし……あの時は確か——何かの実験で感じたことがあった。
なんの実験だったか。
確か精神系の魔術だった気がするが……。
そんなこんなで食事を終えて、俺たちは解散をした。
解散するまで、アオイ先輩は何かをぶつぶつと言ってどこか上の空だった。
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