第37話 悪女、実家を探検する。


 その日はのんびりと日向ぼっこで過ごし、夕方は夕食の準備を手伝い、ダイニングで家族と食事を摂ろうとしたら……誰もダイニングに来なかったので使用人さんたちと食事を楽しみ、さてそろそろまたうるさいのが来るかなっと思った翌朝。


「ネリア、おまえまで見合いを断られるとはどういうことだ⁉」


 と、今日も楽しい事件がやってきた。

 ちなみに私はお姉ちゃんと同じ部屋で寝ているからね。二人で一つのベッドで寝ようとしたら、使用人さんたちが客室からベッドをもう一つ運んできてくれたの。……私が客室を使って? そんなお姉ちゃんみたいなつまらないことは言わないでほしいかな。


 ともあれ、パパが朝一お姉ちゃんの部屋に来たということは、必然的に私もその場に居合わせることになる。


「ど、どういうことだと言われても……」

「相手からの書状には素行や成績に難があるということが書かれていたぞ。どういうことだ。今まで平均A評価を維持していただろう⁉」


 うん、シシリーがね?

 概ね、昨日パパは慌ててお見合い候補相手に連絡をとったものの玉砕したのだろう。私たちと同じように実家に戻ったご息子から最近の落ちこぼれぶりを聞いたのだろうね。


 面白いから黙っていれば、なぜかパパに「視線がうるさい」と睨まれる。当てつけがひどい。だけど、どうやらそれどころではないパパはお姉ちゃんを逃さない。


「今期の成績表を見せてみろ」


 あららー。お姉ちゃん、まだ見せてなかったんだー?

 まぁ、私もまだ見せてないけどね。言われたらすぐに見せてあげるよ? 学年トップクラスの成績表を。だけど……代筆を失ったお姉ちゃんの成績表はどうなったんだろうねぇ? 見たいなーシシリーも見せてもらいたいなー。


(ノーラ、さすがに大人しくしてようよ)


 どうもシシリーちゃんの姉に対する優しさは美徳なようで、欠点な気がしてならないけれど……無理やりパパに荷物を荒らされ、すでに半泣きのお姉ちゃんをさらに追い詰める必要もないだろう。


 だって案の定、パパはトランクの奥に隠されていた成績表を見つけるやいなや、頭まで真っ赤にし始めたのだから。


「こ、これはどういうことだっ⁉」


 あっははー。私、知ーらないっ!

 ということで、私は今日の活動を始めることにした。さて、今日は何をしようかな。まだ二週間くらいはゆっくり滞在する予定なんだけど、すでにやることが思い浮かばない。


(んー、じゃあシシリー。今日は屋敷の探検でも――)


 と、私がシシリーに話しかけるも、彼女はお姉ちゃんの部屋に後ろ髪が引かれている様子。


(……気になるの?)

(うん。ネリア……これからどうなるのかなって)

(身から出た錆でしょ。それとも、シシリーはずっとお姉ちゃんの奴隷でいたかったの?)

(…………ノーラって、たまに難しい言葉を使うよね。昔の言葉?)

(ほっといて。どうせ私は八百年前の女ですよーっだ!)


 話を逸らすということが、彼女の答えなのだろう。

 だから私も軽口を返しながら、適当に屋敷内の散策を開始した。厨房。シシリーの部屋という名の倉庫。ダイニング。お姉ちゃんの部屋。そこは何度も足を運んだけど、あとは客間が数個に、パパの執務室。パパの寝室に、ママの寝室。


(夫婦の寝室が別なんだね。やっぱり仲が悪いの?)

(んー……あまり良くはないかな。お母様も政略結婚だったんだけど、お父様が無理やりお金と権力で結んだ婚姻だったんだって。お母様の生家はね、昔から優秀な魔導士を輩出しているお家だったんだよ)


 へぇ……と話しを流そうとした時、ふとシシリーママの寝室の扉が少し空いていることに気が付く。うーん……部屋の中からどこかを覗いているみたいだね。私たちかと思いきや、その視線はこちらに気付いてないようで……あれか、未だギャンギャン騒がしい向かいのネリアの部屋の方を見ている様子。


 シシリーもその様子に気が付いてか、落とさなくていい心の声を落とす。


(一度だけ聞いたことあるんだけど、本当はやりたいことがあったんだって。でも昔は今より女性が弱い社会だったから、親が決めた通りに生きざる得なかったらしいよ)

(何言ってんだかね。前時代の大賢者様は、れっきとした女だったのに)


 まぁ、私も周りに言われるがまま大賢者の道を歩んでいたので、自立という点では返せる言葉はないのかもしれないけど。


(……他を見に行こうか)


 シシリーには申し訳ないけど、どうにもイライラするママさんである。

 やっぱりアニータは凄いね。しっかり自分の好きな道を歩もうと頑張っているものね。彼女の言う通り、アニータのご実家に御厄介になった方が楽しかったかも。今からでもお邪魔してみようかな……そんなことを考えていると、少し奥まった所に意外としっかりとした扉があることに気付く。


(シシリー、ここは?)

(お父様が絶対に入るなと言っている部屋だね)

(おっ、こういうのを待ってましたとも!)


 私は容赦なくドアノブを回してみるも、やっぱり扉は開かない。

 えーと……魔術による鍵が掛けられているようだね。結構簡単な術式のようだけど。


(シシリーも入ったことないの?)

(わたしは……最近までほとんど魔術というものが使えなかったから)

(ほーん)


 つまりシシリーに見られたくないものがあるということかな?

 こういうのを待ってましたとも!

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