He´s not 呉下 ammo (呉下の銃弾にあらず)

@07016777

第1話

― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

4月は歯車の季節である。

新しい歯車たちが入荷してくる季節。


彼は今、社会人としての責任に直面していた。


拠り所の大学を追い出されるが如く卒業し、慌てふためき振り回した手に

たまさか引っかかったのが彼の今の働き口、


身も入らぬまま、既に1ヶ月が過ぎようとしていた。


彼に未だ身が入らぬのには理由があった。


3社目で内定が出た、

その時分は彼も安堵していたが、何か違和感があった。


しかし、どこの誰に相談しようが


「そこにすればいいじゃないか。」


の一言、


彼には元来常識が備わっていたので、周りが言う話も充分に理解できていた。


理解できていた上で、彼は二の足を踏んでいた。

どうやら彼の目には視界がグッと狭まったように見えたらしい。


それはこれから赴く未来が狭まったのか、あるはずだった可能性の様なものが狭まったのか、

何者か分からぬ不安により、彼は大人への、社会人としての『第一歩』を

踏み出せずにいるらしい。


――― 学生の頃より即断即決、自分はうまくやってきた! ―――


脂汗が頬に一本線を引く。


海外研修にて現在彼が訪れている河南省鄭州市、

そこは自動車、電子機器が主要な産業となっており、日本の大手自動車メーカー等も

本拠をそこに置いている都市である。


河南工業大学にて実務、企業文化体験の講義に行くはずであった彼は

大きく息を吸い込み顔を下にやると


眼下には小川が流れていた、


澄んだ川の流れる音に、一瞬寝転がってしまうか悩むが彼は諦める。


「嫌(や)だけど研修だ。」


口と足に力を入れ一歩踏み出した彼の眼前にあったのは大きな

古い、

古い何かの建設物の壁面であった。


周りは田園である、何かがおかしい


おかしい中でも特におかしいのは壁面についた文字である、

まるで溶岩で殴りつけて描いたような焦げついた文字で


ーーー 軍神を殺してくれ ーーー


と、ある。


訳が分からぬ彼は

だんだんと薄くなり消えていく壁面の文字をただ見つめるのみであった。






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