第2話
「おかしいなあ……?」
一通り全ての部屋を見て回ったところで、俺は首を傾げていた。
引き下ろす際に足がつく可能性があるので、預金通帳やクレジットカードの
しかし、妙に少ないのだ。一人暮らしの老婆なのだから、それなりの人生を過ごしてきた女性のはず。宝石などの貴金属は、もっとたくさん手元に置いておくのが普通なのに……。
「俺もヤキが回ったのか?」
泥棒の腕前にも色々あるが、俺が自信あるのは、獲物を見つけ出すセンスだった。理屈や根拠抜きで、感覚的に「この家には、たいそうなお宝が隠されている」と勘が働くのだ。
つまり、強い直感だ。それに頼ることで、これまで俺は十分に成功してきたのだが……。
ふと考え込む俺の耳に、ピンポーンという音が聞こえてきた。
インターホンが鳴ったのだ。
「……!」
驚き慌ててしまう。
一瞬「老婆が帰ってきたのか?」と思ったけれど、まだ時間の猶予はあるはず。そもそもこの家の老婆ならば、インターホンを鳴らすのでなく、鍵を開けて入ってくるだろう。
だから訪問客だ。
ならば、俺が無視していれば、客は「留守らしい」と判断して、帰ってくれるに違いない……。
そんな甘い考えをぶち壊すように、ドアをドンドンと叩く音も聞こえてきた。
厄介な客だ!
確かインターホンは家のドアではなく、敷地を取り囲むフェンスに設置されていたはず。鳴らしても応答なかったからという理由で、どうやら勝手に敷地内に足を踏み入れて、建物のドアの前まで来ているらしい。
「滝本さーん! 開けてくださーい!」
「ちょっとお尋ねしたいことがありますから!」
叫んでいる声は複数だった。訪問客は一人ではないようだ。
パニックに陥りそうな頭で、改めて状況を整理してみる。
このままドアの前で騒がれたら、騒ぎを聞きつけて、近所の人たちが集まってくるかもしれない。
その前にこっそり逃げ出すのが最善手だろうが、それも不可能だ。裏庭に面したガラス戸から家を出たとしても、正面に回らなければ、ここの敷地からは出られない。しかしドアの辺りで居座られているのだから、正面に回ったら見つかってしまう。
裏庭から隣家の塀をよじ登って脱出……というのもチラッと頭に浮かんだが、どう考えても悪手だった。周りの家の住人が留守なのか在宅なのか、そこまではチェックしていないからだ。もしも人のいる家の敷地に入り込んだら、やっぱり見つかってしまう。
ならば……。
「すいません。どちら様でしょうか?」
しれっとした顔で応じながら、俺はドアを開く。「この家の者に代わって留守番している」と装うことに決めたのだ。
あくまでも「この家の者に代わって」であり「詳しいことはわからないので、ここの住人に用事があるならば出直して欲しい」と主張するつもりだった。そうやって今回の訪問客をさっさと追い返してしまえば、老婆が帰ってくる前に、俺も逃げ出せるだろう。
そんな算段だったが、扉の前に立っていたのは、思いもよらぬ者たち。三人の男性であり、そのうち一人は警官の制服を着ていたのだ!
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