泥棒をつかまえたのは赤い花
烏川 ハル
第1話
ふと見上げれば、青い空が広がっていた。真っ青ではなく、白い雲もいくつか浮かんでいる。あんぱんやクリームパンが食べたくなるような形の雲だった。
「仕事が終わったら、たまには菓子パンでも買って帰るか」
軽い独り言を呟きながら、住宅街を歩く。
目的地は、この先にある一軒家。少し前から目をつけてきた家であり、今日の俺の仕事場だった。
クリーム色の塀と青い屋根が見えてきた時点で、俺の気持ちは自然に引き締まる。
今まで何度か外から下見はしたけれど、実際に足を踏み入れるのは今日が初めてだ。
トイレや風呂、キッチンなどの他に、一階も二階も三部屋程度だろう。この辺りではよく見られる規模の一軒家だった。
事前の調査によれば、老婆の一人暮らし。ガーデニングが趣味らしく、
敷地を囲むフェンスの一部は、スイング式の扉になっている。インターホンを鳴らすことなく、俺は「この家の関係者です」という顔でそのドアを押して、堂々と敷地に入っていった。
住人の老婆は、数分前に出かけている。買物袋を持っていたが、この近くに個人商店の
家そのものの玄関扉は、当然のように施錠されていた。建物の周りをぐるりと回って、俺は裏庭へ向かう。
そこには、俺にはよくわからない植物がたくさん植えられていた。
妙に心惹かれる美しさだったが、植物鑑賞に来たわけではない。赤い花から視線を逸らして、さらに裏庭の奥へ向かった。
背負った鞄から仕事道具を取り出し、隣近所の家からは死角になる場所のガラス戸を選んで、作業を開始する。
焼き破りと呼ばれる手法でガラス戸の一部に穴を空け、そこから腕を突っ込んでクレセント錠を解錠。なるべく音を立てずに、俺は家に入り込んだ。
このように、住人の留守を見計らって忍び込み、金目の物を盗み取るのが俺の仕事。いわゆる泥棒というやつだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます