戦隊部に入らない?(6話完結、短編バージョン)

麻木香豆

プロローグ

 とある高校の中庭にある掲示板の前で男子生徒がポスターを剥がし躊躇わずに踏みつけた。


「このやろっ、このやろっ!」

 執拗に踏みつける。相当の恨みがあるのだろう。そのポスターには『THE DOUTEIS』『ラストライブ』の文字。日付はもう過ぎていた。


 何回か踏みつけたら一部が破れた。その時に我に返った。


「バカだ、自分」


 彼はこの高校の二年生、温水太郎。『元』THE DOUTEISザ ドウテイズのボーカルである。


 大学に入学するまでは童貞を貫こう、小学校からの非モテ同級生五人と組んだロックバンド。

 THE DOUTEIS、そのままのネーミングでふざけているかと思うが演奏テクニックもさながら、それぞれのマニアックさを活かしてSNSを活用したりライブの演出も最新鋭の機械を使用したりとプロ顔負けのロックバンドであった。

 学校祭はもちろん、他校の学園祭、街のイベントでも引っ張りだこ。童貞男子をコンセプトにした青臭い、童貞、拗らせた彼らならではの歌詞は一部男子にとても共感を呼んでいる。作詞作曲は太郎である。全員の見た目は地味と言うものあって顔ファンというより技術面で好かれているのは否めないし、そのゆえファンは女子よりも男子比率が多い。


 徐々に女子ファンは増えつつはあったがそれはそれでいい、幼馴染ともあってとても和気藹々、仲の良いバンドであったがその平和さは急に壊されることになった。


 2年前の隕石衝突予知のニュースであった。研究家の結果から隕石が地球に衝突するルートであり、数年後早くても2年後衝突して地球は滅亡する確率がほぼ高いというニュースが駆け巡った。

 それを知った太郎以外のメンバーたちは

「童貞のまま死ぬのか」

 と絶望をした。隕石がぶつかるのは高校2年生の時。

 太郎に関しては

「童貞のまま死ぬのはロックだ」

 とかなり拗らせていたわけであって。


 そして高校2年生の春、隕石衝突は軌道修正で回避され地球滅亡というシナリオも回避された。しかしその前に太郎以外のメンバーは幼なじみや数少ない女子ファンと関係を我先にと関係を持ってしまい童貞を卒業してしまったのだ。

 童貞卒業=バンド脱退、それは太郎が決めたことだった。まだ高校一年生、青春を謳歌したかったメンバーたちはバンドよりも青春を選んでしまったのだ。

 そのため学校の新歓ライブはTHE DOUTEISの解散ライブとなり太郎はバンドを失い途方に暮れていた。


「みんなの馬鹿野郎……」

 バンドメンバーはその後交際を続けていたり、複数の女子と関係を持ったり女子たちと新しくバンドを始めたりと青春を謳歌している。

 中学生からバンドしか頭になかった太郎はバンドがなくなってしまい、燃え尽きてしまった。バンドも大学生になった時にメジャーデビューさせて売れっ子ミュージシャンになろうという夢もあったのだがメンバーとの方向性の違いも実のところヒシヒシとあったのだが太郎は気づかなかったのもある。童貞を我慢する以外にも問題はあったようで解散も時間の問題だったというのも露呈した太郎はショックを受けた。自分だけ突っ走っていたのだ。だから解散後もメンバーたちとは交流がない。

「あぁ、このまま地球滅亡してればこんな気持ちにならなかったのになぁ。もうどうすりゃいいんだよ」

 とメソメソしていた太郎。


「あら、太郎じゃない……」

「その声は?」

 太郎が聞き覚えのある声に振り向く。

「ちょっと元気ないわね、太郎」

「蘭……ちゃん」

 太郎の前に蘭ちゃんこと、美登里蘭みどりらんが立っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る