恋愛経験ゼロなのに何故か、他人の恋愛ばかり成功させる私の初めての恋愛

乃ノ八乃

短編


 私はとある高校に通う十七歳、いわゆる女子高生というやつだ。


 何をしなくてもモテるという都市伝説を真に受けてワクワクしていた入学当初が懐かしく思えるくらいにはそれらと縁遠い高校生活を送ってきた。


 いや、縁遠いというのは少し言葉のニュアンス的に間違っていたかもしれない。


 なぜなら私はには人より関わっているのだから。


「――ありがとう。愛子ちゃんのおかげで上手くいきそうだよ!」

「ううん、私は話を聞いただけだし、上手くいきそうなら良かったよ」


 弾けるような笑顔と元気な声でお礼を言って去っていく彼女を見送った私は貼り付けていた笑みを引っ込めてため息を漏らす。


「……疲れた。というかなんで私が他人の恋愛相談に乗らないといけないんだよ」


 周りに聞こえないくらいの小さな声で呟き愚痴る。


 そもそもこうなったきっかけは入学して間もない頃、たまたま乗った恋愛相談が上手くいってしまった事に起因する。


 最初の恋愛相談以降、私に相談すると上手くいくなんて噂が広がってしまった。


 最初に恋愛相談を持ち掛けてきた相手がお喋りだった事や外見的に私が話しかけやすかった事も要因の一つかもしれないが、なによりも相談が次々に上手くいってしまったのがまずかったのだろう。


「私はただいけそうなら行けって言って、駄目そうならやめた方がいいって言っただけなんだけどなぁ……」


 そんな当たり前のアドバイスをしていただけで勝手に評判が上がり、今では男女問わず相談がくるようになってしまった。


 あれだけ相談はくるのに私自身はそんな噂の一つもない。


 なんなら今日に至るまで誰ともそういう関係になった事すらないし、告白なんかしたこともされたこともなかった。


「……私、顔は悪くないと思うんだけどね」


 一度も染めた事のない黒くて長い髪、顔立ちもそこそこ整っていてスタイルだって悪くないと思う。


 難点を上げるなら視力の低下と共に掛けた眼鏡も相まって全体的に地味な印象になってしまっているところだが、それにしたってそういう子が好みという人だっている筈だ。


「まあ、でも現状を鑑みればそういう事なんだろうけどさ……はあ……いいや、帰ろっと」


 鞄を持って教室から出ようとした矢先、ドアのところで誰かにぶつかりそうになり、思わず身を引く。


「ごめんなさい。ちょっと前を見てなくて……」

「いや、こっちこそ……って鹿野さん!?」


 軽く謝ってさっさと帰ろうと思っていたのにそんな驚かれると反応に困ってしまい、帰るに帰れなくなってしまう。


……えっと、誰だっけ。


 一応、クラスメイトだから見覚えはあるけど、名前までは思い出せない。


男子の中でもあまり目立たない…………


「……えっと、里屋くん?私に何か?」


 ギリギリのところで名前を捻り出して驚いた理由を尋ねると、里屋くんは慌てた様子で視線を泳がせ、やがて意を決したように答える。


「…………あ、あの、鹿野さんは恋愛相談をやってるんだよね?」


 その言葉を聞いた瞬間、私は表情に出さないながらもああ、またかと内心思いつつ、そうだよと返事をして次の言葉を待った。


「じゃ、じゃあ僕の相談にも乗ってくれないかな?」

「……わかった。今からでも良ければ相手を教えてくれる?」


 さっき別の相談に乗ったけど、面倒事を後日に回したくない。


 そう思ってさっさと済ませようとしたけど、この後の里屋くんの言葉でそんな考えはある意味吹き飛ばされる事になる。


「う、うん。その、えっと、僕の好きな人は鹿野さんなんだけど……」

「…………へ?」


 まさかもまさか、あまりに予想外の相談に私の頭の中は真っ白になり、口をパクパクさせたまま二の句が継げないでいた。


 相談という名の人生初の告白を受けた週の休日、私は駅の前でその相手……里屋くんと待ち合わせをしていた。


「……私の格好変じゃないよね」


 普段はあまり着ないような服に袖を通し、私服ではほとんどと言っていいほど穿かないスカートを引っ張り出してまでお洒落をしているのは言うまでもなく、今日がデートだからだ。


 あの相談を受けた直後、ほとんど思考がフリーズしている状態で自分が何をどう喋ったのかは覚えていないが、最終的に一度一緒に出掛けてみてお互いの事を知ってから考えるという結論に落ち着いた。


 それが今日のデートに繋がってくるわけだが、正直、この日を迎えるまで私はまともに里屋くんの顔を見る事すらできない状態だった。


……しょうがないじゃない。告白なんて初めてだったし、意識するのを自分の意志で止められなかったんだから。


 誰に向けるでもない言い訳を心の内で呟きながら火照った顔を冷ますように手で扇ぐ。


 はっきりいって告白紛いの相談を受けるまでは名前すら危うく、何とも思っていなかった相手なのにどうしてここまで意識してしまうのだろうと何度も考えたけど、モヤモヤが溜まるだけで結論が出る事はなかった。


「――鹿野さーん」

「あ、里屋くん……」


 遠くから手を振って走ってくる里屋くん。その姿はまるで尻尾を振って駆けてくる子犬みたいでつい可愛いなと思ってしまう。


っ駄目駄目、今日は冷静に里屋くんの事を知らないと……。


 きちんと客観的に彼の事を見た上で返事をしないと失礼だし、私にとってもそれは良くない事だ。


だから初めてのデートだからと言って舞い上がらないように気を付けないと…………


「ごめん、少し待たせちゃったみたいで……」

「う、ううん、私も今来たところだし……」


って、ちょ、私ぃっ!?なんで恋人のテンプレートみたいな受け答えしてるの!?


 あまりに自然、そして無意識のうちに出てきた言葉に自分でも驚き、内心でツッコミを入れる。


「そっか、なら良かった……あ、その服、物凄く似合ってるね」

「へ、あ、ありがとう……」


 混乱する中、不意打ち気味に飛んできた言葉は私の心に追い打ちをかけ、心音を高鳴らせる。


っまずいまずい……このままだと私、デート以前に耐えられないかもしれない。


 他人の相談を聞いている内にそういう経験が豊富になってた気がしてたけど、実際に自分で経験してみるとここまで余裕がなくなるとは思わなかった。


「それじゃあ行こうか」

「え、あ、うん……ってどこに行くかもう決めてあるの?」


 意外にも向こうは緊張した様子もなく、本当に私の事が好きなのかと疑いたくなるレベルで落ち着いている。


……どこか手慣れてるようにも見えるし、もしかして私はからかわれてるのかな。


「もちろん……あ、もしかしてどこか行きたいところがあった?」

「ううん、そういう訳じゃないけど……」


 私としては特に行きたい場所とかを考えていたわけじゃないし、決められていた事に何の不満もない。


 けれど一度湧いた不信感が拭えず、それが少し態度に出てしまう。


「その、なんか慣れてるなぁと思って……」


 気になったままではデートに支障が出ると思い切って聞いてみると、里屋くんは「あはは……」と笑って、その理由を口にする。


「よく妹と出かけたりしてたからそう見えるのかも。よく買い物に付き合わされたから」

「そうなんだ……」


 妹さんとはいえ一緒によく出かけていたのならこういうのに手慣れているのも納得だ。


 里屋くんの案内でまず最初にやってきたのは結構な規模の水族館だった。


……え、初めてのデートでいきなり水族館?


 別にそこまでおかしな事ではないのだろうけど、勝手なイメージとして初デート、それもまだ付き合っていない男女が行く場所としては中々ハードルが高い気がする。


「――チケット買ってくるから待ってて」

「あ、うん」


 戸惑う私を他所にそう言ってチケット売り場に走っていく里屋くん。


 彼がどういう意図で水族館を選んだのかは分からないけど、私の勝手なイメージを里屋くんに強制するのは違う。


 だから今はこの戸惑いは一旦忘れて純粋に楽しむべきだろう。


「はい、鹿野さんの分」

「ありがと、いくらだった?」


 財布を取り出してチケット代を払おうとする私に対して里屋くんはいいよいいよと首を振った。


「ここを選んだのは僕だし、チケット代くらいは出させてよ」

「でも……」

「いいからいいから、さ、早く中に入ろうよ」


 そのまま押し切られる形で水族館の中に入る事に。


 確かに水族館を選んだのは里屋くんかもしれないけど、お金を払わせるのは流石に気が引けてしまう。


そりゃデートなら男の人がそういうのを出すっていうのも分かる。でも、私達はまだ付き合ってるってわけでも……っ!


 そこまで思ったところで自分の考えが里屋くんと付き合う前提だったことに気付いてハッとし、首をぶるぶると振って思考をリセットする。


「?鹿野さん、どうかしたの」

「……な、何でもない。それよりもどこから見て回るの?」


 誤魔化すように答え返し、強引に話題を逸らして水族館の中へと足を踏み入れた。


 入り口でチケットを見せ、順番に水族館を回る私達。


 規模がでかいだけあって様々な種類の魚達が大きな水槽で泳ぎまわり、幻想的な風景を作り出していた。


「綺麗…………」


 画面越しでしか見た事のない光景に目を奪われて思わず感嘆の声が漏れてしまう。


水族館なんて初めて来たけど、ここまで凄いとは思わなかった……。


 誰かに誘われなければ水族館まで来なかっただろうし、中の様子だって想像ができるからと舐めていた。


「気に入ってもらえたみたいで良かった」

「……うん、正直、水族館でここまで感動するとは思わなかったよ」


 さっきまでテンパっていたのも忘れて素直な感想を口にする。


 最初は何でいきなり水族館?とも思ったけど、これならこの場所をチョイスしたのも頷けた。


「凄いよねここ。僕も初めてきた時に感動してから時々通ってるんだ」

「そうなんだ……」


 確かに通いたくなる気持ちもわかる気がする。


 毎日とはいかなくても月……いや、週に何度かは行きたくなるような場所だった。


 そこからは変に緊張したりする事もなく、主に水族館についての話題で盛り上がりながら並んで歩き、そうしている内にいつの間にかお昼前になっていた。


「そろそろお昼だし、中のレストランで食べようか」

「ん、そうだね。お腹空いてきたし、賛成~」


 もう最初のような緊張は全くなく、すっかり弛緩した態度で答える私。


 元来、そこまで人見知りや緊張をしない方だけど、この短時間でここまで砕けた態度になるとは思ってもみなかった。


 周りを水槽に囲まれる形で備え付けられたレストランは休日のお客さん達で賑わっており、その熱気に負けないよう冷房がよく効いている。


「少し温度が低いような気がするけど魚達は大丈夫なのかな」

「たぶん、水温は調節されてるんじゃないかな。でないと冷房一つで体調を左右される事になるし」


 席に着きながらメニューを片手にそんなやり取りを繰りい広げつつ、何を食べようか吟味していく。


「……魚のメニューが多いのは水族館だからだったりする?」

「あはは……まさか、生け簀じゃないんだから」


 わりかし真面目染みた口調で疑問を口にすると、里屋くんは吹き出したように笑い、ほら早く選んでしまおうよと言ってメニューに視線を落とした。


 料理も決まり、店員さんを呼んで注文を済ませて午後からの予定を里屋くんに尋ねるとうーんと唸りつつ、困ったような表情を浮かべる。


「……実はこの水族館以外に行く場所を決めてなくて、できれば鹿野さんの意見も聞きたいなって」

「私の?」


 あれだけ自信満々だったから意外だったけど、この規模の水族館なら一日過ごす事も出来るだろうし、もしかしたらそう考えていたのかもしれない。


「んー……そうだねー……このままここにいてもいいんだけど……あ、そうだ。それなら――」


 昼食を終え、少しの間水族館を散策した後で私達はとある場所へと向かっていた。


「えっと、鹿野さん。どこに向かってるの?」

「ん~内緒。着いてからのお楽しみだよ」


 鼻歌交じりに時々回りながら軽やかな足取りで進む私に里屋くんが戸惑っているのが伝わってくるけど、そんなのは気にしない……いや、気にならない。


 なぜなら今の私は物凄くご機嫌だからだ。


 いやまあ、後々になってもしかしたら後悔するかもしれないけど、今は考えないようにしよう。


 建物の並ぶ風景を抜け、休日の喧騒が遠ざかる町はずれの公園。


 最近は遊具の規制が厳しく、さらに室内で遊べるゲームやネットの普及やそもそも少し離れたところにもっと大きな公園がある事も相まって普段からここにはほとんど人がいない。


「――ここ、私のお気に入りの場所なんだ」


 滑り台の上に登って立ち上がり、向かい風を受けながら目を細める。


 この公園は少し高い丘の上に面しているため町の様子が一望でき、なおかつ人がいないので頭を空っぽにしたい時や一人になりたい時によく来る場所だ。


「いい景色だね……でもどうして僕をここに?」

「……里屋くんのお気に入りの場所を教えてもらったからね。私のお気に入りの場所も知ってほしかったんだ」


 この場所は他の誰にも教えた事がない。


 初めてのデートの相手、人生で一度もモテた事のない私に告白をしてくれた彼だけど、まともに話したり、一緒に過ごしたりしたのは今日一日だけ。


 ぶっちゃけて言えばほぼほぼ他人、友達よりも関係性は薄い筈なのに不思議と教えたくなってしまった。


「……今日は楽しかったよ。男の子と出かけるのも水族館に行くのも初めての体験でドキドキやワクワクした……だからありがとう」

「ううん、僕も楽しかったからお礼を言うならお互い様だよ」


 笑顔で返してくれる里屋くんにドキリとしながらも私は心の内で意を決する。


……告白の返事をするなら今しかない。今日を逃せばタイミング的に難しいし、何よりこれ以上待たせるわけにはいかないだろう。


「…………それで、その、こ、告白の返事なんだけど――――」

「…………え、告白?」


 意を決して言葉を切り出した矢先、里屋くんの思わぬ反応に私は戸惑い、焦ったように詰め寄る。


「……この間の放課後、相談があるって言って、それでその相手は私って」

「え、あ、あれは確かにそう言ったけど、告白とかじゃなくて、その、本当に相談に乗ってほしくて……」


「……え?」


「……え?」


 まるで時間が止まったかと錯覚するような痛い沈黙。


 ただただ虫の声や鳥の鳴き声が響く最中、最初に沈黙を破ったのは私だった。


「で、だ、だって普通はそんな相談受けたらこ、告白だって思うでしょ!」

「え、い、いや、本当に相談だけのつもりでどうやったらその、上手くいくか教えてほしくて……告白したつもりは……」

「告白の相手のその本人に上手くいくかを相談するってどういうことっ!」

「え、えっと、そのごめん……」


 迫力に負けたのか、たじろいだ様子で謝る里屋くん。


 まさかあれで告白じゃなかったなんて思いもしなかった。


……言われてみれば今日だってデートだと思っていたのは私だけなのかもしれない。


 そうだとしたら今日の里屋くんの落ち着いた様子だって納得できる。


「…………でも僕が鹿野さんの事を好きなのは噓じゃないよ。相談って形にしたのだってほとんど話した事ない僕がいきなり告白しても成功するなんて思ってなかったからでふざけてた訳じゃない」


 俯いたままぽつり、ぽつりとそう口にする里屋くんに私はふうっとため息を吐いて言葉を掛けた。


「里屋くんが本気なのは見てれば分かるよ。だから……だからこそ私は真剣に考えて答えを出そうって、それなのに……」


 私の恋愛はまだ始まってもいなかった。


 告白されたと勘違いして……一人で舞い上がって……何か馬鹿みたいだ。


「……ううん、勝手に勘違いした私が悪いんだよね。だから私の方こそごめん」


 確かに告白相手に恋愛相談をする里屋くんの行動は紛らわしいし、ありえないとすら思うけど、結局のところ、一人盛り上がっていた私の落ち度といえる。


 正直、今の私の台詞は拗らせた面倒くさい女そのものだ。


 こんな台詞を言われた日には今後の付き合いを考えるレベルだろう。


……嫌われるかもしれないけど、もういいや。


 私に恋愛は分不相応だったという事なのかもしれない。


「…………今日はありがとう。それじゃあ――――」

「……鹿野さんは悪くない。全部勘違いさせた僕のせいだ」


 もうかかわる事もないだろうと諦観めいた別れの言葉を口にしようとしたその瞬間、それを遮るように里屋くんが声を上げた。


「里屋くん……?」

「僕の勝手な言動と思い込みで傷つけてごめん…………たぶん鹿野さんは今日一日を通して真剣に考えてくれたんだよね。それなのに僕は……」


 唇を噛み、深く頭を下げて謝る里屋くんに私は戸惑いの視線を向ける。


「……虫のいい話だと自分でも思う。けど、それでも、これで終わりにしたくない……だからっ」


 言葉と雰囲気から私がかかわりを断とうとしたのを察したのだろう。


 里屋くんの心の底から絞り出したような言葉に私は何にも言う事ができない。


「……鹿野さんが許してくれるのなら、これからも僕の相談に乗ってくれないかな?」

「…………相談ってどういう意味?」


 ようやく出てきた私の言葉は無意識のうちに少し責め立てるような声音を含んでいた。


 だってそうだろう。元はと言えば、現状を招いたのはその勘違いめかした相談のせいだ。


 それなのに言うに事欠いてこれからも相談に乗ってほしいというのは少し無神経じゃないだろうか。


「……鹿野さんに僕の事を知ってほしい。今日みたいに出かけたり、学校でも話をしたり、一緒に過ごしたい……そのための相談だよ」

「…………え、それって」


 真剣な表情と台詞が相まって自分の顔が熱くなってきているのが分かる。


 期待しちゃだめ、どうせまた勘違いだと自分に言い聞かせるも、止まらない。


「先回りして言うけど、これは勘違いじゃない。鹿野さんの事が好きだから、君と付き合いたい……僕は本気でそう思ってる」

「――――っ」


 勘違いだと言い聞かせようとする私の思考を潰すようにストレートな気持ちをぶつけてくる里屋くん。


……我ながら単純だとは思う。真正面から気持ちをぶつけられただけでこうも心が揺らぐなんて思いもしなかった。


「…………本当に私でいいの?後悔しない?」

「しない。もし、僕がそんな素振りを見せたなら引っ叩いてもらって構わない」

「……でもそうやって過ごしてく内に私の嫌な部分とか見えてくるかもしれないよ?」

「それでも、嫌な部分を含めて好きになる……なってみせる」


 私の後ろ暗い言葉たちを正面から否定して返す里屋くんにますます胸が高鳴るのが分かる。


 少し常識とズレてるけど、この人は本当に私の事を好いてくれてるんだというのが伝わってきた。


「…………今の言葉忘れないでよ?もし、嘘だったら許さないからね」

「……!それじゃあ――」


 ぱぁっと表情を明るくした里屋くんをどことなく可愛いなと思いつつ、私は言葉を続ける。


「これからよろしくお願いします、里屋くん」


 今自分にできる最高の笑顔を浮かべ、私はそう言い放つ。


 まだ里屋君の好意に甘えているだけの私だけど、一緒に過ごしていくうちにいつか彼に恋をするのかもしれない。


 けれどそれはまだ先のお話。


 今はただこの不思議な気持ちを胸に一緒に過ごして彼の事を知っていこうと思う。


 なにせ私の初めての恋愛は始まったばかりなのだから。

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