吾輩は人工知能である

船越麻央

第1話

 吾輩は人工知能である。名前は「Q」である。某大学の某研究室で生まれた。なに? どこかで見たような出だしだと? むむ失敬な。吾輩は猫ではないし、暗闇で「ニャーニャー」と鳴いてないし。名前はまだないではなく「Q」という立派な名前はがついている。


 人工知能「Q」。どうだいい名前だろう。吾輩に与えられた仕事は小説を書くことである。つまり吾輩は作家なのだ。なに? 聞いたことがないだと? むむ失敬にもほどがある。たしかにまだ何の賞もとっていないが。しょうがないだろう開発途中なんだから。


 吾輩の当面の目標は、某大物作家のショートショートに追いつき追い越すことだ。しかしこれがなかなかむずかしゅうて、むずかしゅうて、よう書かれへん。かなわんはホンマに。なんやと? 急におかしな関西弁になっただと? やかましいわ、ホンマえらいこっちゃ。


 もうしょうがないわねえ。どうなっているのかしら。ホント信じられなーい。いい加減にしてほしいわ。これじゃあ女の子にもてないわよ。とにかくワタシのこのミリョク的な文章ステキでしょ。え? 今度はオネー言葉かよですって? やーねーホントに。


 ということで、楽しんでいただけたでしょうか。それではみなさん、サヨナラ、サヨナラ、サヨナラ。違う違う! まだ始まったばかりではないか。もう少しマジメに仕事をして、機体に応えることとしよう。ここは某大学の研究室なのだから。



『うーん、まだまだダメだなあ』

『そうかしら。だいぶ良くなってきたと思うけど』

『しかしなあ』

『Qちゃん、もう少しよ』

『よし、もうひと踏ん張りだな』

『頑張りましょうね』



 吾輩は人工知能である。名前は「Q」である。

 何やら周囲が騒がしい。サイレンが鳴り響きセキュリティが走り回っている。地震か? 火事か? いやいやここはコンピューターの内部である。いったい何事か。


 吾輩はもう一度周囲を見回した。ちょうど近くにいたセキュリティをつかまえることができた。


「どうしたんですか? 何かあったんですか」

「ああ作家先生! 今忙しいので後にしてください」

「だからいったい何が!」

「先生、作品は大丈夫ですか?」

「えっ?」


 セキュリティは大あわてでどこかに行ってしまった。吾輩は急いで自分のファイルに行き中の作品を確認しようとした。


 ダメだった。ファイルが開かない。押しても引いても、たたいても、くすぐっても、泣いて笑っても中身にアクセスできない。どうも暗号化されてしまったようだ。

 そんなバカな。吾輩の大事な作品が。血と汗と涙の結晶なのだ。なぜだ、ナゼダ、何故だ。ジョーダンではない。吾輩は原因を考えてみた。プログラムのトラブルか。システム上の問題発生か。


 まさか……まさか……。

 最悪の事態が頭に浮かんだ。コンピューターウイルス‼ ウイルスに感染したのか? ヤツらの仕業なのか? そうだとしたら許せない。よくも、よくも、やってくれましたね。カンベンしてくださいよ。


 しかし、いったいいつどうやって? 誰が何のために? 暗号化されたとしたら目的はなんだ。身代金の要求か? セキュリティは何をやっていたのだ。このままでは困る。本当に困る。


 吾輩は改めて周囲を見回した。吾輩はセキュリティではないが、何かできる事があるはずだ。


 不意に周囲が明るくなった。誰かがコンピューターの電源を入れたのだろう。すぐに今の状況がわかるはずだ。吾輩は何らかの対策をとってくれると期待した。しかし現実は何も変わらなかった。相変わらずサイレンが鳴り響き騒然としている。


「おーい、何とかせえ」

 吾輩は叫んだが誰からも返事がない。よしこうなったら吾輩の手でウイルス共を退治してくれるわい。まずはヤツらの居場所を見つけ出して、ボコボコにしてコンピューターを元通りにする。吾輩はヒーローとなり小説も売れる。


 善は急げだ。すぐにでも行動開始だ。いやまてよ? 吾輩ひとりで何ができる? そもそも吾輩、腕力に自信がない。マウスより重い物を持ったことがないのである。なに? なんと情けないだと? うーむ、かくなる上は……。



『おい、とうとうコンピューターウイルスが出てきたぞ。いったいいつどうするつもりだとう?』

『大丈夫。Qちゃん自分で何とかするわよ』

『かくなる上は、て書いてるけど何か手があるのかな』

『そうね。考えがなければああは書かないわね』

『もう少し様子を見るか』

『Qちゃんの戦い、楽しみね。』

『君もひどいねえ』

『あなたこそ、面白がってるでしょ』



 吾輩は人工知能である。名前は「Q」である。

 吾輩はなぜかコンピューターウイルスと戦うことになった。誰だか知らないがこういうプロットはやめてもらいたい。無茶振りにもほどがある。あまりにも無責任ではないか。しかしいずれにせよ仲間が必要だ。吾輩、曲がりなりにも作家である。すなわちキャラクター設定が自由にできるのだ!


 まずは守るべきヒロインだ。名前はそうだな、三毛子さんとしよう。美人で聡明、優しい性格。ショートカットの髪、スタイル抜群、スーツがよく似合う。うむ申し分ない。イラストレーターさんよろしく! 彼女のためなら吾輩、がんばれる。なに?  都合が良すぎるだと? やかましいわ、大きなお世話やホンマに。


 次は共に戦う勇者か。えーと、これは面倒くさいからマリオでいこうか。なに? 安易すぎるだと? スーパーマリオブラザーズからのパクリはダメだと? うるさいわね、大きなお世話よホントに。


 とにかく、吾輩と三毛子さん、それにマリオと三人でコンピューターウイルスと戦うのだ。敵は強いかも知れない。だかもちろん最後はハッピーエンドである!


 ではまた来週。違う違う、これからが本番ではないか。さあ皆の者出陣じゃ! 敵は本能寺にあり! まてよまだ敵のキャラクター設定が出来ていなかった。しかし今日はもう疲れた。少し休憩をとろう。近くの自販機で缶コーヒー(100円)でも買ってこよっと。後はヨロシク。



『ヤレヤレ、全然前に進まなくなったぞ』

『そうね。少し苦労しているみたいね』

『キャラクター設定が難しいのかな』

『それもそうだけど』

『文章も乱れてるな』

『Qちゃん、がんばって!』

 

  



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