心地よい時間

僕たちは三カ月の間に動物園での逢瀬を続けていた。

週に一回、大抵は土日のどちらかに僕たちは会っていた。

決めるのは日にちだけ、お互いに好きな時間に来て年老いたキリンを眺める。

それだけだった。

海月さんはあまり会話が得意ではないのか僕が話かけても会話が弾むようなことはない。

だけどそれでもよかった。

確かに海月さんは口数が少ないけれどそれは一言一言をきちんと考えて言葉を返してくれているからだ。

僕の話をきちんと聞いて、考え、彼女の答えを聞かせてくれる。

彼女のような人に会ったことが初めてだった僕にはそんな一言が新鮮で嬉しくて、意味のない話題を彼女に振ったりもした。


彼女からもらう一言。

無言の時間。

ただそこに居るだけの存在。

言葉にしてしまえばそれだけだ。

だけど”それだけ”がその時の僕にとっては全てだった。

遠いけれど近くに感じられる。

近くにいるのにとても遠い存在。

そんな僕と彼女の距離が僕にはとても心地よかった。


それなのに僕はそれ以上を望んでしまった。

遠くて近い、それだけでよかったはずなのに僕は彼女を求めてしまった。

もっと彼女のことを知りたい、彼女に近づきたい。

そう思ってしまった。


「僕も海月さんみたいになれるのかな。」


たった一言。

だけどそれは確かに僕が彼女に近づこうとした一歩だった。





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