背景、夏の友人へ
遅延式かめたろう
レイヤー:0 「夏」へ
「あちー。流石の夏の田舎は涼しいと思っていたが、まさかここまでとは……」
フリーのイラストレーターである
屋根すらついていない、古さが残った駅に書いてあったのは「
確かに今の季節は夏だ。ではなく、ただの地名である。
これぞ田舎あるある、不思議な駅名。
「今更切符改札か、俺はギリギリ通ってないからか、こうも不思議に感じるとは」
自動改札なんてものは無く、車掌さんに切符を渡して駅から出た。
年に1度来ているが、いつ来ても慣れない。そもそも1年に1度程度では、人は覚えられないものだが。
東京暮らしの
高さの関係上、かなりの高所に作ることになったらしい。といっても、この景色も結構好きなためいつ見ても良かったりする。
「……さて、あいつに会いに行きますか」
腰から1枚のハガキを取り出す。ハガキに書いてあるのは、1匹の犬。
犬、と言っているが画風に対してやけにキャラクター感があった。
右手には鉛筆を持っており、頭にはグルグルに巻いたタオルを付けていた。
それこそ、締め切りギリギリの漫画家にも見えそうだ。
「我ながら、とんでもないキャラクターだな」
いつもこうだ。
ただ遠い場所で住んでいる親友の所へ行くだけなのに、毎回『絵を見せに行く』という理由を付けて行っている。
強がり。そうさ、これはただの強がりさ。
けれど、これにも意味があるだろうと思っていた
何故なら親友との出会いのきっかけは、自分達が描いていたイラストなのだから。
(まぁ、こんなのを始めてもう数年……いや、年齢から逆算して数十年? 年は取りたくないと言っていた頃が懐かしい)
「……さて、
互いに苗字二文字に名前一文字。別に、そんなことぐらい普通だろう。
しかし、一緒に描いていた中学の頃はそれだけで
(こう思い思い出していると、あの頃の俺は本当に若かったなー)
そんなことを言っているが、1人になった時には時々そういうことをしているのが
「
駅を出てから30分程。毎回持って行っている地図を見ながら家に向かっていた。
案の定、迷子になる。
もしいない時に着いては、悲しい再開が気まずい再開に変わってしまう。そんな地獄の空気に耐えれない
初回の時には土下座をして頼んだのは、今となってはいい思い出。
「くっそう……こうなったら、最終手段! すみませーん!」
「はい? あら、毎年来る
「誰かと思ったら、
都会では勇気のいる(そもそもしない事が多いというのも含めて)尋ねてみた系。
挑戦の結果、2回目で行った時に迷子になった所を助けてくれた
農家をやっているらしく、あの時は大根を渡してくれた。後他にも夏野菜とか。
……あの後の野菜祭り鍋の恨みは忘れぬぞ!
「それで、私に何の用だい? それとも、
「またって……俺がここに来るのは1年に1回でしょ。とりあえず案内お願いしまーす」
「もう若く無いだろう? いい大人なら敬語が使えるってもんじゃないのかい?」
「それじゃあ、どうしてもらいたいんだ? そうだな……お姫様?」
「さん付けでいい」
既に腰が曲がっていて、歩くスピードも初めての時より遅くなっている。
そんなおばあちゃんを見ながら前を歩く。
周りの「背景」がさっきから緑色だからか、どこか昔の映画の世界に入ったような感覚だった。
(どうやって描くか、それとも写真を撮るか、それとも……職業病とは困ったものだな全く)
こうやって見ていると、絵を描きたくなる。
勿論、今回は絵を届けに来た(遊びに来たはおまけ)だけであり、最低限の物しか持ってきてない。
絵を描く道具なんて何一つ無い。
今度からはタブレットなりそれだけで絵を描ける物でも持ってこよう、思った
「……あいよ。ここが
「ぜぇ、ぜぇ、俺の方が若いはずだろ……はぁ、体力が、ぜぇ、落ちたか?」
「座ってばっかりの若いもんには負けられないからね。年寄りの力、舐めるな」
「はーい。まぁでも、ありがとうございます」
頭を下げて感謝する
見えない間に口をニヤけさせる。
「そんなあんたには、夜にピーマンでも送ってやろうかのう? ゴーヤの方が好きかい?」
「それじゃあ、今夜は苦野菜を詰め合わせた鍋になるのか……お願いします勘弁して下さい」
多少雑に料理しても問題が無い鍋というのはとても便利なものだが、有名な苦野菜を詰め合わせたものに変わると今度は地獄鍋にでもなりそうだ。
想像するだけで食欲が激減しそうだ。……まぁ、最終的にはおばあちゃんの知恵袋によって解決されるのだが。
嫌がらせをしてくるけど、結局は優しいおばあちゃんなのが憎めない所。
「それじゃ、後は大丈夫かい?」
「
「ほーう、なら心配はいらないようだね。それじゃあ私は畑に戻っているよ」
「あ、道案内ありがとうございます」
「お礼は1度だけでいいんだよ」
はっはっはと
役に立ったのが、そんなにも楽しいのだろうか。
入口の前で後ろから見送りながら、手を振った。
さて、と一息付くとドアを2回のノックする。そこから一拍休んでもう1回ノック。
自分達ならではの合言葉だ。
「そうそう、そして毎回ドタバタ走ってくる足音がするんだよ。
自分しか知らない一面。そう思うと面白いものだ。
「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………来ない」
ずっと待っているが、一向に音がしない。
なら寝ているのだろうか? と考えたが、
それこそ、毎日7時間寝るような男だ。作業に夢中になることはよくあるが、それが原因で寝不足になったことなんてない。
ここまで睡眠欲があると、作業に遅れが出ないのだろうか。
と、
「……なんか、嫌な予感」
裏口の方へ走って行き、急いでドアを開けるとリビングに行く。
いつも彼と話すときにいる部屋。そこまで広くは無いが、彼の絵がいくつも飾られている。
(どういうことだ? 昼間ってのに、やけに静かだ)
部屋に入って一歩目で分かる。
誰もいない部屋そのもの。
そしてその通り、部屋には誰もいなかった。
「
全ての部屋だけでなく、棚の中。更には物置小屋の仲間で見た。
「
何度も名前を呼んでも、返事は帰ってこない。
近くを走ってみた。頬を滴る汗が、ここまで怖いと感じたことは無い。
「
今日、夏の休みの日。
親友は、行方不明となって町から消えていた。
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