ノア

夏目碧央

第1話 移住

 地球に人が住めなくなる前に、人間は別の星への移住を考えた。

地球上に陸地がほぼ無くなるという頃、隕石が火星に衝突し、火星が二つに割れた。片割れの星は、木星の軌道に乗った。その星は巨大化しつつある太陽からの距離が丁度良く、かつての地球と同じくらいの表面温度になっていた。人間は、移住先をその星に決めた。

 あらゆる種(しゅ)を少しずつ宇宙船に乗せ、ノアの箱舟さながらの移住を試みた。新しい星に根付いた植物もあれば、根付かなかった物もある。適応した動物もいれば、絶滅した種もあった。

 人間は、上手く移住出来たと思われた。地球の文明をそのまま持って移住するつもりだった。しかし、磁場の関係でデジタル機器が作動せず、文明はまた何百年も後戻りするしかなかった。

 この星になかった水を持ち込み、雲を作り、雨を降らせた。まだ完璧にこの星を征服した訳では無かったが、地球の状態が悪化し、とうとう完全に人間はこの星に移住した。

 この星は「ノア」と名付けられた。

 最初に移住した人間は、10年ほど生きた。だが、微妙に違う重力のせいなのか、酸素濃度のせいなのか、大人は次々に命を落していった。この星に来たのが幼少期だった人間だけが、10年を超えても生きていられた。

 ところが、幼少期からここに住んでいても、女の子は15年ほどで息絶えた。また、とっくに生殖活動を放棄していた人間は、デジタル機器がないと子供を殖やせなかった。

 つまり、いつしかノアには若い男しかいない状態になっていたのだ。

 新しい発見もあった。元々ノアに生息していた植物もある。それは火星にあったものではなく、隕石に含まれていたものだろうと思われた。その一つに、愛の果実、すなわちラブベリーなる植物がある。

 ラブベリーの木は低木で、植木鉢でも十分育つ。愛し合う二人が育てていると、いつしか実ができ、その中から赤ちゃんが生まれるのだ。その不思議な植物のお陰で、人間は殖える事が出来るようになったのである。

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