アドベントカレンダー十二月十四日分

@igutihiromasa

第1話

 今日は十二月十四日──

「あと十回眠ればクリスマスイブ!」

 そう言いながら再び布団に入り込んだ男のパジャマの襟をひっつかみ、女は男をベッドの上から引きずり落す。

「なまけたことを言わないで、今日も仕事なさい──兄さん」

「嫌だ! 寒いし寒いし十二月の前半なんてクリスマスまでの消化期間じゃないか! ──姉さん」

 『兄さん』と呼ばれた男が、相手の女を姉さんと呼び。呼ばれた『姉さん』はぎりりと奥歯を噛み締めるような表情になった。

「……『南極の日』をクリスマスまでの消化期間なんて言うんじゃありません、1911年12月14日に世界で初めて南極点に到達したアムンゼン隊の偉業を記念した大事な日──それにそっちが兄さんでしょう、そろそろ受け入れて私を妹と認めなさい」

 相手から黒い服を受け取り、ベッドに戻るのは諦めた『兄さん』は、自分の足で立ち着替えを始めた。

「やだいやだい、そっちが姉さんだろ。それにアムンゼン隊の隊長、ノルウェーのロアール・アムンゼン──そのライバルであるロバート・スコットはちゃんとアムンゼンが難局に残した手紙を受け取り、大事にテント内に保管して死んだんだぞ──誰も見てないからアムンゼンが『我々が一着で到着したことを、二着に来たあなたが証明してください』と書いて南極に残した手紙を処分しちゃえば自分たちが一着だったって言い張れたのに。順序は守ってくれなきゃ嫌だよ」

 着替えを終えて、きょうだいは、兄妹は、姉弟は──まぁどちらにせよ『きょうだい』は、食卓に向かい席に着く。食卓には、コーンフレークが入った皿と牛乳入りのコップがふたつづつ。

 ふたりは多少、険悪な表情で──それでもお行儀よく、朝食を終えて・きょうだいは揃って部屋を出る。

 きょうだいが出た廊下には、赤い帽子と黒い帽子。そして九つのトナカイの首のはく製が並んでいた。

「おはよう突進野郎ダッシャー踊り子ダンサーいきがりやプランサーやかまし屋ヴィクセン

流れ星コメット恋の天使キューピッド稲妻ゴロゴロドンダー雷ぴかぴかブリッツェン

「おはよう、次代のサンタクロースの従者クネヒト・ループレヒトと──」

 あいさつ回りをしている最中、後ろから声をかけられたきょうだいは驚きもせずに振り返り、お互いを指さしこう言った。

「ご機嫌麗しゅうおじい様。クランプス兄さんは今日もわたしをおねえさんだと寝ぼけた事を言いますの」

「おはようおじい様、ベファーナお姉ちゃんったらね、今日も僕が弟だって認めないんだよ」

 でもね、ときょうだいは話しかけてきた『おじい様』──豊かな白いひげを蓄えた、恰幅のよい老人の前で訴えた。

「おじい様ならあっちが姉さんだってわかってるでしょう?」

「クリスマスの夜に連れていくなら、兄さんのほうにして頂戴ね?」

 揃いの黒い服を着て、鏡写しのように訴えるきょうだいを前に、困った様子でおじい様──サンタクロースは双子を見回した。



西野夏葉さま主催のアドベントカレンダー企画(https://note.com/winter_dust_/n/n25f161836505

)に参加したものです。

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