第10話

「うー 酷い目に合った」

 僕が指先から出した水で顔を洗ってうがいをし、服もポーションまみれになってしまったので、着替えとして日本にいた頃の僕のアウトドア用の服を一式進呈する。

 体にフィットして動きやすい速乾性の化繊長袖ハイネックシャツと同じく化繊の山用パンツ、上に着るライトジャケット。

 体感としては春っぽいけど、乾燥した気候で日が陰ったり日陰に入ったりすると寒いから防寒は必至。

 パンツは腰と裾で締めて調整するタイプ。

 少しルーズなシルエットにななるはずなのに、足が長くてスタイル良いからモデルの写真をみているようだ。


「ありがとう。でも次になにかあった時は なるべくあの気付け薬は飲まさないでくれると助かるわ。

 ちょっと意識が飛んじゃったけど、ケイ君とヘレナちゃんの能力はあなた達だからって思うことにするし。

 凄まじい切れ味の魔剣とか、あんな大きな竜や肉塊を丸ごと消して運搬できる能力とか、あるって眉唾の噂は聞いたことあるけど実際に見たの初めてよ」

「両方とも秘密にして下さい。スティアさんに対する信頼の証に見せたって事で」

「わかってる。あなた達と敵対したくはないし、ましてや命を助けられておいて仇で返すようなことはしたくない。

 里の世界樹と一族の誇りにかけて誓うわ」


 ◇◇◇◇◇


 というわけで、スティアさんを一向に加え、追いかけられた時に放り投げてた荷物を回収したら旅を再開。

 シンプルな細身の背負子に布袋を何個か括り付けた荷物は 幸いにも踏まれずに中身も無事だったようだ。


 僕たちは特に目的地もなかったので ノイスイェーナへついて行っていいか尋ねたらOKがもらえた。

 ここからだと、3日くらいの工程らしい。

「少し森へ入った所だから、魔獣も強くなるし ちょっと工程きついわよ。あなた達なら問題なさそうだけど」

「スティアさんはそんな所に一人で向かう予定だったの?」

「スティア  呼び捨てでいいわよ さん付けされるとなんかムズムズするし、戦闘の時にロスになるから。」

「了解、それじゃ僕のこともケイで」

「じゃー 私はお姉ちゃんって呼ぶー!」


「ではスティア、同じ質問」

「やだ、ケイに呼び捨てされると照れちゃう。


 そこで冷めた目で見ないでよ。悲しくなっちゃうでしょ。


 ん゛っんん! それはともかく、最初はあと二人、戦闘ができる同じエルフ族の仲間三人で帰る予定だったから戦力的には安心だったの。だけど一人は人族と子供ができちゃって結婚。子供が育つまで帰れなそう。

 もう一人は運命の人を見つけたとか言ってその人を追いかけて行っちゃって、やっぱりダメ。里を出てから5人目なんだけど、、、」

「それはまた、運がわるかったとしか言いようが。。。」

「でも結果オーライよ。あの二人のお陰で予定がずれてあなた達と会えたわけだし。逆に感謝だわ!」

 前向きだなー。見習いたいと思う。


 ◇◇◇◇◇


 昼ご飯は軽く紅茶と燻製魚とパンで済ませて距離を稼ぎ、スティアの知ってた湧水の水場で、少し早い時間からキャンプの準備を始める。

「いまさら驚かないけど色々変な道具もってるわねー。使い方がわからないわ。」

「野外生活を楽しくってのがモットーだから」

 まず獣除けに火を起こして少し離してテントを張る。

 ヘレナも二回目なのでだいぶ慣れたみたいだ。ハンマーも使わずに硬い地面にペグをねじ込んでいる。

 せっかくなので鉄瓶に湧水を汲んで沸かしておく。


 大きめのまな板を出し、ついでに地竜の肉も取り出して乗せる。次元収納に当然のごとく入っている 天の出刃包丁で装甲のような皮にそって刃を入れる。意外と簡単に外れた。残ったのがアバラの付いた肉塊。

 装甲分の大きさは減ったけど、それでも10キロ以上はありそうな、、、

 断面は完全に赤身 見るからに美味しそうだ。

 厚さ5センチくらいに切り、それではでかすぎてスキレットに入らないので、さらに分割 500グラムくらいの塊を8枚作る。

 残りというか大半は燻製、保存用。

 今日は時間があるので少し凝ってみる。

 とは言っても、肉が浸かるだけの水に適量の塩を入れ、香りのいい薬草を入れて煮込んで冷やした手抜きソミュール液に、一時間くらい肉を漬けて水もどししてした後、ティピーテントの中にぶら下げて、その中に置いた熾火の上に鉄板乗せて、その上に削った木のチップを置いて、煙を出して燻煙しようという計画。

 こちらは あんまり厚いと塩の加減が難しいしので1センチくらいで挑戦。冷燻してる時間はないので温燻で。

 かなり切っても減った感じがしないので、それ以上は収納に戻す。


「お兄ちゃん お姉ちゃんの分のテントとイスの準備も終わったよ!お姉ちゃんと一緒に頑張って張ったの。」

「凄いな、もうテント張りは完全にまかせても大丈夫だね」

 頭をわしゃわしゃすると、きゃーと言いつつ喜んでいる。

「凄い野営幕ね。材質も初めて触ったものだし、凄く薄くて軽い。この借りた服だってすごく着心地いいし、、、あっ そうだ服洗わなきゃ!」

「普段の夜営は夜営幕でやってるの?」

 服を洗っているスティアと世間話

「軍かキャラバンでもなきゃ そんな重い物持てないわよ。普段は毛布かマントかぶって空の下でごろ寝」

「雨が降ったら?」

「木の根本か、なるべくしのげる所で人数いれば固まって。

 状況は最悪になるけど、寒い中密着してお互いの温もりを感じ合う、そんな時に絆が深まって愛が生まれる事もあるの」

 スティアが乙女の顔で目を潤ませて自分を抱き締めている。

「経験談?」

「聞いたのよ!結婚した友達に!!」


 こんな感じのスティアも さすがに本業のハンターで森のテクニシャン・エルフというだけあって森での能力がすごかった。

 ちょっと食べ物採ってくるわ。の一言で森へ入っていったと思ったら、それほど待つこともなく見たことがない果実を沢山とってきた。ビタミン源確保!


 森へ入っているうちに、湧水とテントの間に風呂を作って お湯を汲んでおいたら目を丸くして 蔦製の編み篭から果実ボトボト落として熟したのが足元で弾けてたけど。

 ああ 勿体ない。


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明けましておめでとうございます


新年初投稿!


今年も読んでくれてありがとうございます


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