『死体処理場バイト』

常闇の霊夜

契約完了


「だーっまた爆死かよぉーっ!?どうして俺はこうも運がないんだよ……。トホホ」


佐藤さとう風雲ふううん』。彼は今日もスマホゲームのガチャで大爆死していた。今の彼は死体そのものである。大騒ぎしながらやりたい放題である。


「うるさい!そんなにお金がないならバイトでもしなさい!」


「そうだなぁ。とりあえずバイト雑誌持ってきたけど……おや?」


鐘が無いのは事実。しかも今回のガチャで最低十万以上は稼がなくてはならなくなっていた。さぁどうするかとバイト雑誌を持ってくると、その雑誌の中に一枚のボロ紙が。


「なんだこれ」


興味なさそうに紙を拾い上げると、そこにはとんでもないバイトのない様が書き記されていた。


「死体処理場で三時間……。日給18万……。18!?」


なんと、たった三時間のバイトで18万もらえるというのだ。それ以外の時間拘束されるというのはあるが、それでも事実上の稼働時間が三時間なのに18万である。


「よーし今すぐ電話だ!えーもしもし?」


思い立ったら即行動。早速電話をかけ、指定場所へ。履歴書なら既に何枚もあるので、その内の一枚を持って行く。現場には既に十二人の男女が集められていた。


「はぇ~もういるんだなぁ」


軽い自己紹介を終えた後、ここの所長らしき人物がやってくる。どことなく虚ろな目である。まぁこんな仕事してればそりゃそうかと、早速仕事内容を聞く。


「え~、この仕事はですね、死体が浮きあがってくるので、モップで叩いてください」


「それだけですか?」


「それだけです。では、稼働時間を決めてもらいますね」


なるべくこんな仕事は午前にやりたい、と言う訳で全員が昼に集中する。じゃんけんで決まった結果、結局風雲は午前は午前でも午前1時にされてしまった。


「……」


風雲、ふて寝。一時になったら起こして、と他の奴に言って、そのまま睡眠をむさぼるのであった。


大体十五時間後、起こしにやってきた一人に起こされる。


「おい時間だぞ」


「ふぎゃっ!?……あ、あぁ時間か……」


起こしに来た一人以外は全員寝ているとの事。そんな彼らを横目で見つつ、モップを手に早速現場へ。だがここでモップの数が想像以上に少ないことに気が付く。


「なんか少なくない?」


しかしこの仕事をやっているなら、モップくらい壊れるかと、気にしないことにして早速仕事を開始する。ちょいちょい死体が浮きあがってくる。なお二人一組なのに、彼だけ一人だけである。


「うわぁ……。ガチじゃん、精神病みそー」


死体とかそういうのは気にしないタイプの風雲は、そういいながらベチベチと死体を沈めていく。この区画は一人で回れるようなレベルではないが、深夜で一人なので少ない区画である。


「くっせ~……。死人の匂いがする~」


人が溶ける匂いと言うのは嫌な臭いである。鼻を摘まみながら、とことんボコボコにしていく。案外浮き上がってくるものである。しばらくすると、人の気配を感じる。


「お?」


誰だ?と振り向くと、そこに死体一人。思わずモップで殴ってしまう。


「いやあぁぁぁぁ」


彼は口より手が出るタイプの人間。叫ぶ前にぶっ飛ばしてしまった。ちなみに死体は酸の海にドボンである。


「あーおっかない……」


そういいながらまた浮き上がってきた死体をボコボコにしていく。慣れれば案外、もぐらたたきみたいで楽しいと思っていると、また気配を感じる。今度は振り向くこともなくモップで殴る。


「さっきのは幻覚だったんかなぁ?」


そう考えながら第二区画へ向かう風雲。すると浮かんできた死体がわんさかいる。片っ端からボコボコにして、沈めていく。もうほぼ無心である。すると今度は再度死体がやってくる。今度は二人。


即座にそれを沈めると、思い出したように叫ぶ。


「やっぱ幻覚じゃねぇこれ!感触があるもんこれ!」


もしかしてやってしまったか……?と思いながら、まぁそもそも夜中にわざわざこんなところに来る奴なんか、犯罪者かよっぽどの奇人であると考えまたまた殴る。


「そう言えば他の奴ら、全然喋ってなかったなぁ。まぁこんなところに来てバイトする奴と知り合いたくないけどね(笑)」


自虐しながら、何度も何度もボコボコにしていく。


そして最後の第三区画へ向かう。だが第三区画で異変が起こった。なんと死体がモップを掴んできたのだ。


「げっ、なんだァッ!?」


何とか取り戻そうと思うが、死体のくせに力が強く、全く動かない。そうこうしていると腕に付けていたタイマーがなる。


「あっ時間だ!」


彼は一秒たりとも残業をしたくないと、腕時計にタイマーを設置していた。こうなっては仕方ないと、モップを手放すと、さっさと部屋まで逃げる。


足音が沢山聞こえたが、聞こえないふりをしてそのまま逃げる。そして何とか部屋にたどり着くと、次の当番の人に忠告をしておく。


「なんかヤバいから、敵意を察したら殴るといいよ」


「は?」


「俺は寝る!もう知らん!」


風雲、二度目のふて寝。一方モップを片手に区画に向かった男は、何やら奇妙な感覚に襲われる。沈めるのはいい、だが何かに見られているような、そんな感覚がする。


「そう言えば……」


と、ここである事を思い出す。それは聞こえた声である。『喋るな!』と。その後何か叫ぶ声が聞こえ、そして何事もなかったように帰って来た。


「まさか……」


だが男の前に、死体が現れる。


「な、なんだお前?!」


その瞬間だった。死体の口から何かが出てくると、男の体の中に入っていく。


「あ゛っ!?あ゛っあ゛っあ゛あ゛あ゛っ!!!???」


もだえ苦しむ男。何度かのたうち回り、しばらくして、男が立ち上がる。


「はぁ……」


ゴギゴギと首の調子を整える男。そして目の前で立ちすくんでいる死体を酸の海に突き落とすと、その後は何もなかったように仕事に準ずる。そして夜が明け、仕事が終わった。


「おい、君。おい!」


「ふごっ!?あと五分……」


「給料はいらんのか?」


「おはようごさいまーす!いやいや清々しい朝ですねぇ!さぁ給料をもらいに行きましょう!」


「……」


清々しい程金に忠実。これには所長も呆れ顔。


「では給料を手渡す。一応ここで確認してくれ」


封筒をもらった瞬間、急いで駆け出す風雲。こんな場所とは早々におさらばしたかったのである。そして街にまで戻ると、封筒の中身を確認する。


「いーち、にーい、さーん……ん?二十万入ってるんだけど?」


ここで風雲は、18万ではなく二十万入っていることに気が付く。間違えちゃったのかな?とは思うが、あれだけの仕事をしてそもそも18万しか貰えないというのは割に合わない。そう考え二万を適当に消費しておく。


「とりあえずこの二万はガチャ課金に使って……18万は来月の支払いと親への支払い……あ、無くなるわ」


18万程度ではまるで足りない。それが彼の出した結論であった。


「やっべ……。まぁいいや、今度は別のバイトに応募するか!さてどこにするかなぁ……」


そして彼は、今日もスーパーで求人募集のチラシを取って行くのであった。


一方その頃、他のバイトメンバーはと言うと、それぞれ別の場所に帰っていた。ただ一人の女が、鏡を見ながら首を傾げていた。


「あー……」


「どうした?」


「これ女か?」


「あぁ」


「はー……。まぁいいや、酒行こうぜ?」


そんな意味不明な会話をしながら、二人は適当な居酒屋に入っていくのであった。

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『死体処理場バイト』 常闇の霊夜 @kakinatireiya

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