美少女な僕。職業"バトルマスター"でかっこよくなりたいです!
深夜翔
プロローグ : 新たなステージへ
――右
「うぉりゃぁぁぁぁ!!」
――上
「スキル――雷天斬!!」
――正面から右上、左下、そして後ろ
《な、なんと!あの現役プロ、オリー選手の猛攻をノーダメージで捌ききったぞぉぉ!!!》
歓声が響く。
胸が高鳴る。
――こっちの番だ。
「スキル――瞬足」
――横なぎ払いから、体勢を崩した所へ突き、縦切り、肘、そして突き。
わあぁぁっっっっ!!!
その歓声は
「参った参った。降参だ……。強いな君、どこかのプロ……では無いよな。名前も聞いたことない、見れば絶対覚えている」
「僕は……ただのエンジョイ勢ですよ」
《勝ったのは――――》
『超大作MMORPG、スペリオル・ソウル』
5年前に発売されて以来、世界中で大人気となったVRMMORPGを代表する大作。
多種多様な職業・種族で遊べるそのゲームは、今や知らない人はいないと言われるほどに大きくなり、熱中する人が増えた。
毎年ゲーム内で行われる大会では賞金3億もの大金が用意されるほど。
無論プロゲーマーとして名を挙げる者も次々と現れ、毎年世界大会が行われ最強が決まる中、そのゲームにはとある"最強"にまつわる都市伝説があった。
それは大会とは関係の無い、ゲームに元から備わっている職業別ランキング。
大会と同じようにプレイヤー同士で戦い合い、月毎に更新されるランク戦。プロゲーマーが大会のために使用し、上位にはこぞって有名なプロの名前が表示されている。
そこに――
全職業、全て一位を独占し続ける同じ名前があるという。
サービス開始から一度たりとも変わったことの無いその名前は、いつしか運営が一位を取らせないように用意したバグだと噂された。
それが一周まわってプレイヤーなのではという都市伝説が生まれたのだ。
そんな最強だと言うプレイヤーの名前。
――プレイヤーネーム"8"。
数字一つという、バグと思われても仕方の無いその名が、世界最強の名前だった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「…………と、え……、エイト!!」
「んぁっ……な、何?どうしたの」
「どうしたのって、授業終わったぞ」
親友の呼び声とともに飛び起きる少年。
ここは大学の講義室。
広々とした部屋は、大きな黒板がどこからでも見えるように弧を描きつつある程度の高さが確保されている。
300人は余裕で入れそうな大きな部屋に、たった二人というのは逆に目立つ。目立つも何も、二人しかいないのだから気にする者がいるはずない。
「まったく、また夜中までゲームしてたんだろ。まさか一限からここまで一度も起きないとは思わなかった」
「い、いやぁ……。つい、ね?……まさかあんなに攻められるとは思わなくて……ゴニョゴニョ(小声)」
その少年は、親友の呆れた感想に口ごもる。
そんな言い訳もいつもの事のようだ。
「ほんと、好きだよな。あのゲーム。もう中学生の時からやってんだっけか」
「そうだよ!スペリオル・ソウル!僕の人生を変えてくれた最高のゲームなんだ!」
少年はいきなり目を輝かせ立ち上がる。
オタク特有の早口。
「はいはい。エイトのスペリオル推しはもう聞き飽きた。そんなことより帰るぞ」
「ちょっと!そんなことじゃないよ!!あのゲームは凄いんだから。特にあの」
「分かったって。帰りながら聞いてやるから、はよ片付けしろ」
はーい。相変わらず厳しいなぁタクヤは。
渋々……と使っていないノートと筆箱を鞄に入れ、席を立つ。いい天気だった一日も、既に空は赤く染まる。
――たまには外で遊んでみろよ。楽しいぞ。
――え、僕も身体を動かして(ゲームで)遊んでるけど。
いつだって、少年はゲーム中心の生活を送る。
少年……
「なぁエイト、そういえば知ってるか?お前の好きなスペリオルを運営してる会社の新作ゲーム」
「……えっ、何それ?!」
「俺の親父がよ、昨日発表された情報を先取りして教えてくれたんよ。その名も『エクステンド・ソウル』!ゲームボリュームも開発規模も桁違いの大新作だって、既にネットでも騒がれてるぜ」
エイトは大慌てでSNSを開く。
昨日はずっとスペリオルにログインしてたから、一ミリも知らなかったんだけど?!超楽しみなんだけど?!
スマホ画面に食いつくように情報を探し回る。
「なっ、発売来週なの?情報出したの昨日なのに?!」
「あーそれな。なんか、今までにない取り組みというか、その企業の生放送でシークレット情報として発表されたんだ。もう予約殺到、一瞬で売り切れだって」
その情報を聞き、しかし彼らは動揺しない。
「……タクヤ。やっぱり新作はさ、サービス開始直後が旬だと思うんだ」
「分かるぜその気持ち。そう言うと思って、既に親父に交渉済みだ!!もちろん、お前の分もな」
「さすがだよタクヤ!!!賢二さんにもお礼言わないと!」
タクヤの父親、
父子家庭で育ったタクヤは、そんな父親の影響でゲームを知り、こうして超がつくほどのゲーマーな親友を持つことになった。
父親とそれなりに仲の良いタクヤは、小学生の頃から時々エイトを家に呼んでは一緒にゲームをしていた。
そこで父親、賢二はエイトを気に入り、たまに彼の好きそうなゲームをこっそり購入してくれていたりする。
職権乱用も甚だしいが、別に不正している訳では無い。
「よっしゃ!来週はサービス開始と同時にプレイ開始だね!」
「おう!」
そう意気込んで、二人は想像を膨らませながら当日を楽しみにしていた。
――が、
『ごめんエイト!風邪ひいちまって……』
「そんなぁー。でも、風邪じゃ仕方ないね。お大事に!」
『ホントごめんな。俺の分まで、初日というワクワク感を楽しんでくれよ!』
当日(サービス開始前日)、運悪く風邪を引いてしまったタクヤは、申し訳なさそうにエイトへと連絡した。
もちろん、一緒にゲームができると楽しみにしていたエイトは少しガッカリしたが、そこはやはりゲーマー。
一人でもサービス開始同時ログインというお約束を実行すべく切り替えた。
「よし、そろそろだ!――"ログイン、エクステンド・ソウル"」
特殊なゴーグルを装着し、目を瞑ってそう言葉にすれば、内部の音声認識がこれまた特殊な電波を介してゲームがスタートする。
次に目を開ける動作を行った時、そこは真っ暗で四角い空間である。
「ついに……!初めのキャラメイク画面はスペ(※スペリオル・ソウルの略)とほとんど変わらないなぁ」
やたら不安にさせる黒い画面と、
現れた女神とエイトの目が合う。
すると、女神がにっこりと微笑みかけ、彼の前に白いポリゴンが集合してキャラメイクが始まるのだ。
性別や大まかな見た目は現実の姿をトレースし、細かな修正をここで行える仕組み。それでも中にはここで数時間かけるキャラメイクガチ勢もいたりいなかったり。
「とりあえず、僕はイケメンに…………」
――バチッ
突如、彼の画面にノイズが走る。
目の前の白い
「なっ、バグ?!」
完全没入型VRMMOの怖いところは、ゲーム内バクが現実に影響を及ぼす可能性がある点。
緊急ログアウトがゴーグルに備わっているとはいえ、プレイヤーは無意識に目を閉じる。無論、彼も同じく。
――ザ……ザザ…………
ノイズ音が徐々に薄れ、エイトは恐る恐る目を開けた。
「ふー、良かった。サーバー側のトラブルかな?ゲームは無事みたいだし、とにかく早くキャラメイクを終えて………………え?」
立ち上がりメイク画面を操作しようと手を伸ばし。
《ようこそエクステンド・ソウルの世界へ――Now Loading》
既に始まりのステップへ移行する表示とぶつかる。
「あれ、僕のキャラメイクは?」
《初期地点への転移が始まります。行ってらっしゃいませプレイヤー、"ハチ"》
文句を言ったところで、このAIを止めることは出来ない。まして、自動AIサーバーが管理するこのゲームにおいて、キャラメイクのやり直しは不可。
「どうしてこうなった。…………ん?待って何かおかしくないっ?!」
自分が白い光に包まれて、転移が始まろうとする瞬間。
エイト――この世界ではハチ――は己の
《条件クリア。転移開始》
完全に姿が消える直前、最後に
いいや。
最後に見たのは、
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