第4話 情熱
「痛いです……」
真くんが頭をさすりながらプールから出てきた。
なぜかズボンはびしょ濡れだ。
「そうか」
なにがあったかは訊かんぞ。
とりあえずなんとかなったのはわかったので、それでよしだ。
詳しいことは後で訊く。
「えーと、次だが……」
「あれっ、あそこの人!」
「ん?」
あの人がどうか……。
おや、なぜ突っ立っているんだ?
「石になってませんか!?」
「なんだって!?」
――――――――――
「となると、考えられる可能性は二つだが……」
研究所に問い合わせてみたが、メドゥーサみたいな石化モンスターが逃げ出したという報告はない。
つまり、この石化は野生の未知のモンスターもしくは……。
「ロイエル……ですかね」
「おそらく……」
シスエラの世界にも、石化魔法を使うやつがいる。
それも、人一人石にして満足するやつじゃない……。
シスエラでは、町一つ全員石化していた。
「だとしたら、大変だね!」
「そうですね、急ぎましょう!」
僕達は目的地の図書館に走っていく。
――――――――――
「あれ〜? なんでみんな石になったんだ〜?」
トイレから出てきたら、周りのみんなが石になっていた。
「オーくん、知らない?」
「あうあう、うう〜?」
オーくんは本から顔を上げて、首をかしげた。
「ふんふん。気づいたらみんなが石になっていたの?」
「あうー」
「不思議だねー」
こんなことは初めてだな。
僕はこれからなにをするか、鈴木さんに言った方がいいのかなと考えていた。
すると、男の人の声が聞こえてきた。
「貴様ら……」
「ん?」
「あう?」
「なぜ石になっていない……」
なぜ?
そんなのこっちが知りたいよ。
「誰だ、出てこい!」
「まさか、お前らは『主人公』なのか?」
「おい、答えろよ!」
「まあいい、直接始末するまでだ」
突然、目の前に……。
「トカゲ!?」
二本の足でしっかりと地面に立つトカゲが現れた。
こういうの、リザードマンって言うんだよね。
「死ねぇ!」
剣を僕達に向かって振り下ろしてきた。
「あっぶない!!!」
俺はとっさに手近にあった国語辞典を盾にして受け止めた。
さすが収録語数日本一を謳う辞書なだけある、分厚いぜ。
「ふん、受け止めたか」
「あ〜〜う〜〜……!!!!」
「あ、やべ」
オーくんが、ものすごく怒っている。
それはそうだ。
だって、この国語辞典は俺とオーくんがお小遣いを貯めて買った想い出が詰まったものだから。
……まあ、咄嗟に盾にしてしまったのは俺なんだけど。
命には代えられないから、仕方ないよね……。
「ううぅ!!!」
こうなったオーくんは手が付けられない。
怒りが収まるまで暴れ回るんだよね。
「ぐおっ……!?」
オーくんが怒りのパンチをぶち込んだ。
これで吹き飛ばない怪物はいない……んだけど。
「なかなかやるではないか……」
「倒せてない!?」
ウソだ。
こいつ、強すぎる。
なんて頑丈なんだ……。
「生憎、俺は勇者の剣でしか倒せない」
「勇者の……剣!?」
「貴様らがたとえこの世界の主人公で、多少は強かろうが、とどめを刺すのは不可能よ!」
「く、くそ〜……」
「少年よ、絶望するのか?」
「え?」
頭上から声がした。
見上げると、真っ赤な覆面を被って腕組みをした人が、本棚の上に立っていた。
「ここで己の負けを認め、無様に石になるのか?」
「いや、いやだ! そんなの!!」
こんなところで石になんてなりたくない!
「戦うか、
「もちろん!!!」
「ふはははは!!! よろしい、その情熱しかと受け取ったぞ、このファイアーマンがな!!!」
「ファイアーマン?」
「受け取れい! 情熱の剣『パッションソード』を!!!」
「うおっ……!?」
謎の覆面がこちらに向かって剣を投げた。
その真っ赤な剣は、勢いよく床に突き刺さる。
「あ、あなたは戦わないんですか?」
「私はあくまで師匠、弟子の成長を見守るものだ」
「……師匠」
「さあ、行けい!! その胸に燃える情熱の炎で、悪を断つのだ!!!」
「はい!」
僕は剣を抜き、構えた。
正直剣で戦ったことはないけど、真兄ちゃんの戦いを見ていたから、なんとなくわかる!
「オーくん、いくよ!!」
「あう!!」
「なっ、それは勇者の剣!! 貴様、なぜそれを……!!」
なぜって、今もらったからだ!
「ちぃ〜〜!! 何なんだお前らは!!」
見るからに怒りだすリザードマン。
口から炎が漏れている。
「この小僧は俺の攻撃を読んでいるかのように避けるし、お前は勇者の剣!! まったくなんて厄日だ!」
リザードマンはその巨体に似合わず、素早く後ろに下がった。
そして、剣を頭上高く掲げる。
「滅ぼす、我が奥義を持って……」
なんだかヤバそう。
早く決着をつけないと。
「オーくん!!!」
「あう!!!」
「ぬっ!?」
よし、オーくんの一撃で少しバランスが崩れた。
叩き込むなら今だ!
「くらえ、パッションソーーーーード!!!!」
剣から、激しく炎が吹き出した。
――――――――――
「すごいね、太一くん」
佐藤さんが、太一くんの頭を撫でる。
「えへへ……」
まんざらでもなさそうな顔だ。
「僕がやっとの思いで手に入れたそれを、まだ僕より年下の君が手に入れるなんてなー」
僕も驚いている。
まさか太一くんに勇者の素質があったとは。
いや、今更か。
彼は、僕達と共に戦ったあの日から勇者だったではないか。
「ファイアーマンさんも、ありがとうございました!」
「はっはっはっ! なに当然のことをしたまでだ! 迷える若者を導くのが師の役目よ!」
かっこいい……。
「それでは、こちらからお帰りを」
「おう! またな!!」
こうして彼も、本の世界へと戻っていった。
「僕も、パッションソード見たかったなぁ」
「同感だ」
勇者の剣だ。
さぞかっこよかっただろうな。
「だが、今は先を急ごう!」
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