第2話 プロローグ2
回想終わり。そしてそこにいた、わたしを連れてきた天使に話をしてもらい、今の状況を少しながら理解した。
「……で、わたしが魔王なの?」
「そうだとも。ほら、魔物たちを見て御覧?皆あなたに傅いているだろう?」
角が生えた悪魔のような生き物や、首が三つある犬、ライオンなのに尻尾は蛇という普通の生き物ではないものたちがたしかにわたしに頭を垂れている気がする。たぶん、だけど。
「世界を崩壊させようとしている魔王がわたし?魔物に指示を出せるんだろうけど、わたしこの世界に来たばっかりだよ?」
「ああ。世界のバランスは崩れたからね。我々が与えた加護を持った、十人というプレイヤーのせいで。魔王軍と人間側は均衡を保っていたけど、魔王軍に一人と、人間側に九人。加護はそれだけ強大な力だ。無駄にした者も多いけどね。そら、あなたの側が圧倒的に不利じゃないか。バランスなんて欠片もないだろう?」
「なんですか、そのとんちのような話は……」
「鶏が先か卵が先かだよ。我々があなたたちプレイヤーを送り出すと決定した瞬間にバランスは崩壊した。我々が管理する世界だ。どのようにするかは我々に権利がある」
頭が痛い。ただわたしたちプレイヤーはこの天使たちの手の中で踊らされていただけだ。
騙されてもいいかなとは思っていたけど、本当に騙されるなんて。
「この世界には魔物を討伐して食い扶持を維持している人間が多数いる。もし魔王が倒されて魔物も倒され始めたらこの世界のバランスは一気に傾いて人間も衰退を始めるよ。この世界の維持のためにはあまり人間を殺さず、魔物の被害も抑えてあなた以外のプレイヤーの全滅。それがあなたの勝利条件だ」
「わたしが勝ったら他の人みたいに特権とやらを使えるの?」
「もちろん。何でも一つ願い事を叶えるという権利だ。あなた以外のプレイヤーは現実からの逃避という大まかな願いは叶ったし、加護という現実世界では手に入れられなかった力も得た。だからこの特権というのはあなた以外にとっては所詮おまけだ。あなたは数合わせだからね。是非頑張ってもらいたい」
これじゃあ数合わせという名の貧乏くじだ。相手は九人いて、その九人はわたしを簡単に殺せるような力を持っていて、全力で殺しに来る。頼れそうなのは近くに控えている魔物たち。その魔物たちもどれだけ使えるのかわからない。
「ちなみにこの魔物たちはどれくらい強いんですか?」
「個体差はあっても、まあ一匹ならそこまででもないかな。四天王がいるわけでもなし、特殊な魔物は様々な宝箱を守ったり、人間たちと最前線で戦っている将軍クラスが何体か特殊なだけだよ。やりようによっては、プレイヤーにも勝てるだろうね。それの配置とかはあなた次第だ。先手必勝としてこの世界の人間を無視してプレイヤーを攻撃すればいい。最初の内は加護があっても考えと行動が一致しないものだ」
「殺されたくなかったら、先に九人を殺してしまえと……?」
「それも一つの選択肢だよ。あなたがどうしたいか、殺されるのも殺すのも自由だ。ただし自殺だけは止めさせてもらうからね」
これが自由というものなんだろうか。自由というより二択の強制の気がするけど。
究極の選択な気がする。というより、殺すか殺されるかしかないというのもひどい話だ。それをわたしだけに押し付けるのも。他のプレイヤーはわたしのことを知らないけど、わたしは知っている。
心理的にもバランスが悪い気がする。
「……あ、プレイヤー側のわたしってどうなるんですか?もう死んだ扱いになる?」
「それの準備はしてある。あなたにはきちんと価値があるよ。この世界の説明について、これ以上ない広告塔になるんだ」
天使はニコッと笑う。するとどこからかピンポンパンポーンという音が響いた。このお城から聞こえた様子はなく、頭の中に直接聞こえてきたような。
『NO.10の少女が死亡しました。選んだ加護は「不老」と「成長倍化」です。死因は魔物によるもの。これで残りは九人です』
「……こうやって、報告されるんですね?」
「ああ。これで残り人数と加護が丸わかり。他のプレイヤーは自分の加護が良かったのかを吟味して、あなたは警戒を始める他のプレイヤーから身を守らなければならない。加護は絶対じゃないという情報は貴重だ。そんな中であなたのアドバンテージは『情報』に他ならない。あなたは生きたままに暗躍できる。プレイヤーが選んだ加護は接すればなんとなくわかっていくだろう。あなたには手足となるシモベがいる。加護というインチキが勝つのか、情報を駆使する生身の少女が勝つのか。それを我々に魅せつけてくれ」
たしかにこれはアドバンテージかもしれない。向こうは今のところ九人という個の戦力。こちらは世界中にいる魔物全てが一団となって動ける。
殺されるために甘言に乗ったわけじゃない。他のプレイヤーたちもこういう状況になりたくて望んでやってきた人たちだ。わたしとは前提条件が違いすぎる。相手は今の状況を、死ぬかもしれない状況を愉しんでいるのだ。
それはこのろくでもない
「わたしが失いたくない命のために、この子たちの命を使えって言うんですね?こんなの二択じゃない。
「おめでとう。あなたは最初の命題を突破した。考えて考えて、そして決断してくれ。最初に言ったかな?祝福しよう、和泉アユ。あなたはこの世界で、真の意味で生を得た!生きるということは選択をし、思考し、切り捨て、掴み上げ、そして死ぬことだ!地球では生死なんて考えても曖昧だっただろう?なにせあなたは愛を知らない。他者の存在理由を知らない。自分という定義が足りていない!ここであなたはもう一度原初に孵った。生命を知った。人と為った。であれば、その旅立ちを我々は心より祝福しよう」
本当に慈愛の満ちた笑顔とはこういうことをいうのだろう。まともな宗教画なんて見たことなかったが、天使の浮かべる笑顔というのはこういうものなのだろうとまざまざと見せつけられた。
嫌みったらしく拍手なんてして。だからこそ、歯向かってやる。
「特権であなたたちの存在をなかったことにするのは?」
「不可能だ。我々は我々をどうにかできない。我々の役目は世界の管理と人間の行き着く先を見届けること。我々がいなくなる時は、人間が我々と同じ立場に並んだ時だよ」
「……さっきの偽装。わたしは死んだことになってるけど、これ以上あなたたちが嘘をつかないという保証は」
「証はないが、誓ってしないとも。あなたは初めから不利なんだ。これ以上あなたを不利にしたら取り返しがつかない。我々はこのゲームの行き着く先を愉しみながら、人間の行き着く先を見守っている」
なるほど。ようはこいつらのことは信用できないということだ。特権も信用ならない。こいつらの叶えられる願い事はたかが知れているってことだ。
「わかった。わたしはわたしのやりたいようにやる」
「ああ。我々はどちらの味方もこれ以上はしないが……ボクはキミに勝ってほしいと思っている。キミがこの世界にバランスをもたらしてくれることを祈っている」
「……あなた、名前は?」
「名前かい?……ではクンティス、とでも。人間は誰もボクをそう呼ばないけどね」
「そう。じゃあね、クンティス。わたし、あなたのことを一生忘れない」
「その一生が、一秒でも長く続くように。それこそが我々の願いだ」
クンティスは光の粒子になって消える。さっさと消えろ、天使の皮を被ったゲテモノめ。わたしは死にたくないし、魔物たちの被害も最小限にしないと。わたしの生きたいという願望に付き合わせるんだから。
「まずはドッペルゲンガーと分体のようなものを産み出せる魔物を見繕わないと……。人間と魔物の戦争を長引かせて、プレイヤーだけを倒す。とにかく情報だ……。少しでも情報を集めて、プレイヤーの先を行く」
楽しんでるだけの相手に、負けるものか。わたしは生きていたい。理由もなく殺されたくもない。天使共の掌の上というのは癪に障るが、魔物と人間のバランスを保ったまま生き残ってやる。
クンティスの言葉を信じるなら、この世界のバランスが均一にならない限りわたしの勝利にはならないんだから。
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