五歩目.王宮にて、少女は魔法を使う
「さて、最初のお望みは転移の魔法か?」
「今の貴女でも、貴女一人くらいを牢屋の外に出すくらいなら、できるでしょう?」
「当たり前だ。魔力弾き程度をどうこうできないのなら、とっくの昔に地へ葬られているに違いないからな」
鉄格子に施されている魔力弾きの加工は、うまく魔力を操りさえすれば全くもって効果を為さない。
ある程度の傷を負って行使するならばまだしも、通常時は相当な集中力を必要とするため、いつ何時でも可能かと問われれば、さすがに無理だと答えるが。
格子を伝って、石壁に身をもたれさせる。
右足のない現状からして、一度座ったほうが集中を高められそうだ。
「…………む、この魔力弾き、効能が……いや、高いのも当然か。だがここをこう、反転させるように……ああ、うむ。これならいける。魔力の流れを掴みさえすれば、あとは……ッ、と、違う、空間を跨ぐヤツはちょっと変えないといけない、か。ぅんー、とするとぉ…………よし。
リーア、飛ぶぞ!」
一声かけ、魔法を発動させる。
視界が途切れ、軽い浮遊感後、多少の物音を立てて再び地面に降り立った。
脱獄、成功である。
「ふふふっ、レヴィーディスったら、痛み無しでも国直属の魔法師になれるくらいの実力を備えてるんじゃありませんこと?」
「王宮入りした当初だと、通常時は単なる一般人程度だったんだがな。
まぁあれだけバカスコ魔法を使っていたのだから、素の実力も上がっていた、というワケだろう。あるいは、本来ならセーブしているはずの力を無理に引き出して行使していた故、他よりも成長速度が高くなっていたのかもしれぬが」
「確かに、それはありそうですわね。ならばワタクシは、レヴィーディスの成長がまだワタクシの魔力量には届いていなかったことに感謝しておきましょうか」
「ああ、存分に感謝したまえ」
そのお陰で、私も外へ出る踏ん切りがついたのだから、私も感謝の意を示さねばならぬのかもしれん。
「さて、次はワタクシの番ですわ。レヴィーディスと違って、ブツブツ呟かなくとも精度の高い魔法を見事使いこなしてみせましょう」
「おっと、やはり何やら言ってしまっていたか」
今更直そうとも思わぬ、私の癖の一つだ。
「しかし、リーアは治癒系が専門で、その他の種類はほぼ適性がないはずだが……?」
「駄目でしてよ、レヴィーディス。ワタクシの真の力を舐めてもらっちゃあ、困りますわ。なんたってワタクシ、王国には隠し事ばかりしておりましたから」
「……そういえば、言っておったな。貴女の存じ得ないワタクシがいる、やら、なんやら」
「ふふっ、真のワタクシの力、その片鱗を見せて差し上げましょう」
リーアの手を借り、立ち上がる。
「支えになる杖を入手するまでは、ワタクシを杖代わりにしてくださいな」
「助かる。それで、リーアはどのような魔法を?」
「さぁ、どんなものでしょうねぇ〜。ああ、もし体勢がお辛いようでしたら、魔法で整えていただいても構いませんわよ。できるだけ使用魔力量は控えては欲しいのですが」
「うむ、そうさせてもらおうか。
すると……常時風を吹かせる、いや、いっそのこと重力そのものを操作してしまったほうがいいのか? けれど、どのように軽くすれば釣り合うかなど、さすがにわからんぞ……? 即席で仕上げるには、この場で微調整すれば良いが、今度は魔力を使いすぎることになるし……もういっそのこと、魔力に質量を持たせたほうが良いかもな。……うむ、それが一番安上がりで済みそうだ。どうせ後で杖は買うのだ、一時と考えれば」
魔力そのものを使用することは、あまり一般的ではない。
一般的な魔力操作能力があれば使えないことはないものの、やはり一匙の魔力で爆発的な効果を見込めるものもある魔法と比べると、あまり効率的とは言い切れないからだ。
「ふふふっ、そろそろ移動を開始してもよろしくて?」
「あと、リーアに私を固定するのもあったほうが……ん? ああ、もうしばし時間を……よし、これなら。
うむ、構わないぞ……と、これはもしや、隠密の魔法か?」
「あら、わかります? もう、せっかくどっかの兵士とすれ違っても見向きされない、もしやこれは……っ、と驚くレヴィーディスを見たかったですのに」
「す、すまない。まぁ、私自身にかけられているからな。通常時も何か魔法をかけられたら把握できるよう、国のヤツらに教育されてきたことはリーアも同じだろう?」
「残念なことに、同じなんですよねぇ。適正の狭いワタクシにとって、上位を争うレベルで嫌いな内容でしたわ」
私を連れ立って歩きながら、ほぅ、とリーアは眉をしかめて吐き捨てる。
「ったく、ワタクシの希少たる才を提供差し上げていたのですから、ちっとぉくらいはこちらの人格というものを尊重してくださってもよろしいってんのに」
「激しく同意する」
ギブアンドテイクの関係すら、元より拒まれた立場だった。数字を冠する魔法師という立場は。
「して……リーアも口調を乱すこと、あるんだな」
「より良く感情を伝えるための一手段でしてよ」
「おお、なるほど! 確かに有効的な手段だな、それは」
「ふふっ。ちなみに同じく口調を意図的に乱したときに同じことを現・三の魔法師さんに言ったところ、そこまで見栄を張る必要はないだろうと返答されました。
とっても昔の、それこそワタクシの魔力量が平均より少し上程度の頃の話なんですけれどね? 当時から変わらず、ワタクシからすれば単なる事実に過ぎませんのに」
三の魔法師……――ぁあ、アイツだ。
背の高い、補助系の魔法を得意としていた男、だったか。
一の魔法師としての任務では、基本的に二の魔法師――リーアと共に在ることがほとんどであったから、他の数字を冠した魔法師についてはあまり詳しく知らない。
三の魔法師も、いくらか王宮内ですれ違ったことがあるから顔は知っているという程度で、後は人の耳を通じて入ってきた情報くらいしかないものだ。
しかし、そうか。
リーアは三の魔法師とかねてより知り合う仲であったのか。
三の魔法師といえば常に行動を共にする、確か、数字を冠さない魔法師がいたような気もする。
「にしても、これはかなりの精度の隠密だな」
横目で、私らがすぐ側を通過した見張りの兵士を見遣る。
「ここを任される力を備えたヤツでさえも、近くで話し、かつ魔法を使っていても全く気付いていないとは」
「凄いでしょう、ワタクシ。まぁ、この力をもってしても、全力を出したレヴィーディスには敵わないんですけど」
「……あれは別次元だ。比較するものではない」
代償無しにあれだけの力を操れる存在がいると言うなら、この世の魔法師全員が解職になってもおかしくはない。
それ程までに狂ったと域に達していたと、私自身でさえも強く思う。
地下の牢屋から抜け出し、絢爛に彩られた王宮一階の渡り廊下を進む。
どこもかしこも似たような飾り付けのされているここでは、行ったことのない部分であっても王国の王宮だと判ぜられるに違いないだろう。
才能があればいつでも煌めいていられるという幼き頃の、そして多くの国民にとっての常識は、高価な装飾品で隠された
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