4
トレーに月見バーガーと、コーラとポテト二人分を乗っけ、潤の正面の席に座る。
潤は月見バーガーの包を開きながら、私にちらりと目をやった。
慣れた視線だった。とっとと話せ、と潤は目線で促しているのだ。
一時間。
ちらりと腕時計に目をやると、もうすぐ午後10時だ。
潤は優しいから、本当に一時間で切り上げるつもりで来てはいないだろう。私の話が終わるまで、なんだかんだで黙って話を聞いてくれるはずだ。けれど彼は高校生で、明日も朝から授業がある。そう長くは引き止めておけなかった。
「兄貴に呼び出されたの。」
頭の中がまとまらないまま。私はぎくしゃくと言葉を紡ぐ。
「食事に行かないかって。それで、行ったの、私。」
そう、と、月見バーガーをかじりながら潤が軽く頷く。
それで……。
私は言葉に詰まり、コーラを一口啜った。
潤は特に言葉を急かしもせずに、ポテトに手を出した。
「それでね……、また誘うって、言われたわ。」
声は掠れた。兄とキスをしたと、本当は言いたかった。潤に、聞いてほしかった。それでも唇は躊躇った。だって、潤は16歳の高校生だ。
すると、その16歳の高校生は、ポテトをコーラで飲み下した後、寝たの? と問うてきた。あまりにもさばけた、当たり前のことみたいなトーンで。
私は首を横に振った。そして、キスはした、と言った。
潤ははじめから、私と兄がキスをしたことを承知の上だったのかもしれない、と思った。だから、寝たの、なんて訊いてみて、私が少しでも話しやすいように。
「それは、無理やり? それとも、美月ちゃんも望んで?」
私は言葉に詰まり、曖昧に首を傾げた。
無理やりだと言ってしまいたかったけれど、潤の前で不正確な事を言うのが嫌だった。
無理やり、だったのだろうか。私は、わずかたりともそれを望まなかったと言い切れるだろうか。
兄の口づけ。
一瞬たりともそれを望まなかったと、言い切れるのだろうか。
黙り込んだ私の前で、潤は淡々とポテトを消費していたが、いつもの彼らしい冷涼とした調子で言った。
「望んでいたとしても、後悔はするんでしょう。だったらそれは、望んでないのと一緒のことだよ。」
後悔。
私はそれをし続けてきたと言っても過言ではない。
涙が出そうになって、瞬きを繰り返す。
潤は表情を変えずに、ペーパーナプキンを私によこしてくれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます