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そのとき私と兄は、泣きながら身体を繋げている真っ最中だった。腕と腕、脚と脚とを絡め、完全に一つになろうとあがいていた。

 つまり、どこをどうしても言い訳ができる状態ではなかったのだ。

 今でも忘れられない。

 がちゃりと、部屋のドアが開く音。半開きのドアからこちらを覗く、痩せこけた母。そして、母のあまりにも絶望的な悲鳴。

 あんな、この世のものとは思えないような悲鳴を聞くことは、もう後にも先にもないだろう。

 少しずつ少しずつ狂っていった母が、完全に壊れた瞬間だった。

 私と兄は、弾かれたように身体を離した。

 私は愕然とベッドに座り込み、兄は母に駆け寄った。

 母は兄を押しのけた。あんなに痩せた腕のどこにあんな力があったのだろう。大の男である兄が床に倒れ込んだ。

 汚らわしい。

 それが、母が喋った意味のある言葉の最後だった。

 それっきり母は、意味のないことをぶつぶつと繰り返すだけで、会話は成立しなくなってしまったのだ。

 私と兄は、母を抱きかかえるようにしてリビングへ連れ帰った。

 後数時間したら帰ってくる父に、どうやって言い訳をしようか考えながら。

 リビングのソファに母を座らせ、私と兄は互いの身体をきつく抱き締めあった。

 兄も私も裸だった。

 「引き離されちゃうの、私達。」

 私の声はがちがちに強張っていたと思う。ただ、兄と引き離されることだけが怖かった。兄の肉体無しで生きていけるとは思えずに。

 「大丈夫だよ。」

 兄が低く言った。

 「母さんはもう話ができない。父さんに俺たちのことを言いつけるわけにはいかないんだから。」

 「本当に?」

 「本当に。」

 兄は

 私を安心させようとしたのだろう、髪や背を撫でてくれた。

 けれどその仕草が私に与えたのは、安心感ではなく、肉欲だった。

 私は目の前にある兄の唇を舐めた。

 兄も舐め返してくれた。

 そして、私達はその場で、狂った母の前で、セックスをした。

 この世の誰にも許させない行為をしている自覚はあった。

 いっそ、その背徳感が肉欲に拍車をかけているようでもあった。

 肉と肉を越えて、骨と骨とを交えるようんセックスになった。

 あれは、あのときのセックスは、それまで私が知るセックスの中で一番の快感をもたらしてくれたし、これからもあれ以上のセックスをすることはできないだろう。

 狂った母は、ごく小さな声で、節も歌詞もめちゃくちゃな歌を歌っていた。

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