剣聖のゴミ収集

ああたはじめ

第1話 おばあちゃん、分別は大事よ

 これで何度目だろう?

 オレはゴミ袋を開けて、ニコニコしているおばあちゃんに分別方法を説明した。


「これは燃えるゴミ、これは燃えないゴミ、これは魔石ませきゴミですね。魔力を使い切ってからハンマーとかで魔石を割って、魔法陣のネットを被せて家の前に出してください。おばあちゃんの区域だと、明日が燃えるゴミと魔石ゴミの収集日になります」

「あんた、ウチの孫にそっくりだ。お仕事がんばって偉いねぇ」


「ゴミ袋にカラス避けネットを被せたのは、すごく良いですね。ゴミを荒らされにくくなりますから。でも、魔石はカラス避けのネットじゃなくて魔法陣のネットを」

「孫は勇者の付き人をやっとるよ。ありゃ、やっとったかのう。もう勇者になって魔王を倒したんだっけか?」


「聞いておばあちゃん。あのね、分別しないとマズいの。ちゃんと分別しないと……あんな感じになるから」


 オレの後ろでは、魔石が孵化ふかして大暴れしていた。

 魔石から生まれた出た魔獣は二匹。魔石の核を額につけたネズミの姿をしているが、路地裏で見かけるような生易しいもんじゃない。イノシシよりデカい身体を使って、二匹とも好き放題している。


 魔石を求めてゴミ袋を食い破って生ゴミに頭を突っ込んだり、ゴミ収集車に体当たりしていた。魔石がついたおもちゃを持った、小さな女の子を追いかける。


 女の子がつまずいて転んだ。ネズミが口を開く。尖った牙が獲物にありつく前に、ネズミの身体は真っ二つになった。額のかくも割れ、巨体は小さく砕けた魔石へと姿を戻す。


 戦斧が地面に突き立つ。赤い手袋で柄を持ち、戦斧を引き上げたのは作業着で身を包んだ女性。


「くううううっ。今日もカッコいいッス、マキナさん!」

「そ、そうかなぁ」


 マキナさんは頬と耳を真っ赤にして、作業帽を深く被った。身体をもじもじ揺らせている。その隙に、生ごみを漁っていたネズミがスッと逃げた。

 

ああっ、つい口がすべった。人前で、マキナさんを褒めるんじゃなかった。


「カイ君そっち」

 ネズミが魔石を求めて一直線に向かってきた。オレのそばにはおばあちゃんがいる。逃がすわけにはいかない。


 腰に差した小型のハンマーを握りしめた。まだ手は震える。でも、オレはマキナさんみたいになりたいんだ。


 オレはネズミに向かって走った。手に持ったハンマーを振り上げ、ぬあ!?

 足がとられて転びそうになる。ネズミばっかり見てて、落ちていた魔法陣ネットを踏んだことに気付かなかった。


 ネズミは目の前。体勢が崩れたままだけど、ハンマーを思いっきり振った。

 必殺の一撃は、ネズミが頭を傾けたせいで空を切っただけ。突進されてモロに受ける。体毛を掴んでお腹に抱きつき、吹き飛ばされそうになるのを防ぐ。


 オレを振り落とそうとネズミがかけずり回る。このっこのっ。毛むくじゃらの腹をハンマーで何度も殴る。黒々とした汚泥と汚水が腹から飛び散り、オレの身体にぶっかかった。臭っ。

 ネズミの足がもつれて地面に倒れた。


 お、重いぃぃ。腹ばいになったネズミと地面の間に挟まれた。額の核を叩きたいけど、腕を上げても届かない。息が、できない。薄れそうになる意識の中、ネズミの額がキレイに割れた。


 戦斧の刃が核を破壊していた。ネズミの姿が消え、徐々に小さな魔石に戻っていった。

「カイ君。ナイスガッツ」

 マキナさんが小さく親指を立てる。すいません。今日も助けてもらっちゃいました。


「すごいねぇ。かっこいいねぇ。ウチの孫みたいだわぁ」

 おばあちゃんは笑顔で手を振った。オレは苦笑いを浮かべながら、おばあちゃん家のゴミ袋を取りに行き、収集車に入れた。

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