ロシェ・グラウル(その5)

「……そうだよな、そもそも人造人間のお仲間についてはお前が一番詳しいはずだった。最初からおまえに聞けばよかった」

 何故それに思い至らなかったのか、とロシェは言うが、ギルダが首を振る。

「私と同時期にクロモリが完成体にまで仕上げたのは確かにその四体だが、クロモリは成功したものも失敗したものも含めて、それ以外にももっと沢山の人造人間を作っていたはずだ。時をずらして完成した個体がもし他にあったりしたなら、それについては私には分からない。だから、お前が人づてに調べたというその数が、やはり正しいはずだ」

「む、そうか」

「それに、コッパーグロウが死んだ今だからこそ、私とお前とでこうやって話せているが、その時点でお前を情報を与えてよい相手と判断したかどうかは別だ」

「うむ、それもそうだな」

「……そもそも、人造人間の事はつくった当人に訊くのが一番ではないか。クロモリは今どこで何をしているのだ」

「そうだな、お前さんが知らなくても無理は無いかも知れないが――」

 ギルダが何気なく放った疑問に、ロシェはやたら勿体をつけて返答をしたのだった。

「魔法使いクロモリはな、今、行方が分からないのだ」

「行方が……分からない、だと?」

「元々先のオライオス王の知己ということでたびたび王宮に出入りがあり、王都でも高名な魔法使いとして広く名を知られているという事であるが、先王逝去ののちは、お前たち人造人間を引渡しに現れたのを最後に、いくさになったのちの王宮には一度も現れてはおらぬという話だ。元々王都に居を構えていたという話も聞かないし、その研究の拠点をどこに置いているのか、王国で把握しているものが誰もいない。こちらから用事があるときにどうやって呼び出したり、あるいはどこへどのように訪問すればよいのか、その手段を知るものが今の王宮には誰もいないのだ。……あるいは、知っていて誰も教えてくれぬのか。そのように話を聞いて回るだに、本当にそんな魔法使い、いたものかどうかすら怪しくなってくるくらいだ。まあ、お前さんやコッパーグロウが幻ではないのなら、その魔法使い殿も実在するのは確かなのだろうが」

「……そうか」

 おのれを創り上げた魔法使いの不在はギルダにしてみれば重大事ではないかと思えたが、彼女の返事は短かった。

「それで、私の事はどうする。任務とやらに従うなら私はお前に倒されるか、捕縛されるかする必要があるのか?」

「お前はおれが叩き斬ったという話に、一部ではなっているようだが……ともあれ、人造人間の所在を明らかにした方がよい、という話であって、地の果てまで追って討ち果たせとはだれも言ってなかったと思うぞ。あのコッパーグロウは明らかに反逆行為を働いたのであるから、結果的に成敗するに至ったのはやむを得ないとして……お前についてはユーライカ姫殿下も所在を把握するところとなったし、実際におれが最初に斬って成敗したことにしておいて、おれはここらあたりでお役御免、という事でもよいのではないかな。まあ残党狩りという名目から言えば、アルヴィン王太子殿下ご本人の消息という一番大きな問題が残っていない事もないのだが……これについては不遜ながら、二度と見つからぬことを誰しもが皆願っているのではないか」

 なかなかに大胆な物言いに、ギルダはともかくその場に居合わせたアンナマリアは、そこまではっきり言ってよいものか、とぎょっとしたものだったが、構わずにロシェは話の先を続ける。

「……この際だから敢えて言ってしまってもよいかな。お付きの騎士の皆様方にも話した事のない、これはおれ一人の胸の内にあった企みなのだが、このたびのユーライカ殿下の襲撃事件、おれはそのままさらわれるに任せても良かったのではないかとも考えていた」

「なんだと……!」

 その言葉にギルダは反射的に色めき立ち、ロシェは思わず身を仰け反らせる。

「おっと……まあ、落ち着け。連中がわざわざ危険を冒して旅団を襲撃し、仮に姫殿下を殺害したとして、いったい何の利益があろうか。それがクラヴィス陛下当人ならいざ知らず、だが……。であれば狙いは、王姉殿下の身柄を盾に何かしらの交渉事をするつもりだったのではあるまいか、とおれは踏んでいる。というかそのくらいの事は誰でも考えるであろう」

「それはまあ、確かにそうだ」

 ギルダ自身、ユーライカの前でそのように所見を述べているから、同じことは彼女らのみならず、例えば護衛に当たっていた近衛騎士たちもある程度はそういう想定で行動していたかも知れない。

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