44:可愛いあなたに口づけを
「――!?」
驚愕したのもつかの間、私は自然と目を閉じ、柔らかな唇の感触を受け止めた。
気まぐれな夜風が髪を揺らし、鼻先に花の香りを届けてくる。
キスを交わしていたのは数秒のことで、ルカ様が先に身を引いた。
「……すまない。気持ちを抑えられなくなった」
ルカ様は気まずそうに目を逸らした。
まるで、失敗した、みたいに言われてちょっとムッとした。
「何故謝るんですか。いまのキスはどういうことなんですか。説明を求めます」
衝動的なキスよりも確かな言葉のほうが欲しくて、私は大胆にも切り込んだ。
「……好きだからだ。俺は多分、出会ったときからずっとお前のことが好きだった」
「『多分』?」
すかさず不満点を指摘する。
「いや、その、人を好きになることなどいままでなかったから。よくわからなかったんだ」
頬を赤く染め、しどろもどろで言い訳する姿に胸がきゅんとした。
何この人可愛い。
これが母性本能というやつだろうか、『守ってあげたい』という衝動が胸に湧き上がる。
「前に言っただろう。俺はずっとお前のことが欲しかったと。あの言葉に噓偽りはない。お前は今回、兄上のために死力を尽くしてくれた。怒りに我を忘れた不甲斐ない俺の代わりにラークとシエナを巻き込んで、全ての呪術媒体を破壊して、プリムが無理だと断言した兄上の蘇生を成し遂げ、もう一度俺と会わせてくれた。本当にありがとう。感謝している……どんな言葉でも言い表せないほどに」
夜風に髪を踊らせながら、ルカ様は微笑んだ。
「俺のために心から怒って、俺のために心から笑ってくれる女性などお前しかいない。いや、もし他にいたとしても関係ない。俺はお前しか要らないんだ。お前さえ良かったら……俺の恋人になってくれないか。お前が俺を愛してくれるのなら、俺は一生お前だけを愛すると誓う」
私の頬に添えられたルカ様の手に、私も自分の手を重ねた。
「はい。私も、あなただけを一生愛することを誓います」
そうすることが当然のように、私たちは身体を寄せ合い、二度目のキスを交わした。
キスが終わって照れていると、ルカ様は私を抱きしめて小さな笑い声を上げた。
「どうしたんですか?」
「いや。白状すると、ほんの少しだけ勝算はあったんだ。ディエン村の宴では凄いことを言われたからな」
「ああああ!! あれはお酒に酔っていて、自分でも何を口走っているのかよくわかっていない状態だったんです!!」
忘れようと出来る限り頭の隅に追いやっていた記憶を引きずり出されて、私の顔は真っ赤になった。
やっぱりルカ様も覚えていたのか!!
いやルカ様はお酒を飲んでなかったんだから覚えてますよねそうですよね!!
でも忘れててほしかったんです!!
何故って、思い出すたびに羞恥の念に駆られて転げ回っていたから!!
「ならあれは口から出まかせだったのか? 俺の傍から離れてもいいのか?」
私を抱きしめ、私の銀髪を愛おしげにその指で梳きながら、ルカ様は意地悪なことを言う。
「……嫌です。離さないでください」
私は負けを認めて、ルカ様の身体を抱き返した。
「あ――」
「私はルカ様のことが好きで好きで堪らないんです。もしルカ様が私を置いてどこかに行こうとしても、地獄の果てまで追いかけますからね。絶対お傍から離れません。もうとっくに上限いっぱいまで愛していますから。あなたがいないと生きていけないんです」
「………」
「ところでルカ様? さっき何か言いかけませんでしたか?」
身体を離して首を傾げる。
「……もうわかったから許してくれ……」
不遇な身の上故か、恋愛にまるで耐性がないらしいルカ様は顔を覆って悶絶していて、やはり私は何度でも彼を可愛いと思ってしまうのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます