霧に消えていく街では夢も消えてしまうのか

抹茶ラテ

0 プロローグ

「――ゴメンね。君の夢を奪っちゃった」

「……何言ってんだよ。まだ大丈夫だよ。お前は生きると決めたんだろ!! なら、生きてくれよ……」

「……君と生きられたらきっと楽しかったんだろうなぁ」

「これからそうするだろ?……なんで諦めたみたいに言うんだよ……」


 雨に濡れた体は冷えていく。雨は俺から体温だけでなく、俺の腕の中で横たわっている人からも命を奪っていく。守ると誓った人は俺の腕の中で今息絶えようとしていた。


 辺り一面には濃い霧がかかっている。霧は横たわる人に纏わりつき、その霧を紅く染める。それはまるで霧が血を吸っているかのようだった。力任せに霧を振り払うが、霧は晴れない。むしろ、俺の手に血とともに巻きついてきた。


 声にならない叫び声を上げそうになるが、舌を噛んで堪える。口の中には血の味が広がっている。こうでもしないと自分が許せなくなりそうだった。


 俺の口の端から血が流れているのを見て、その人は俺の袖を掴んで血で掠れた声を出した。


「心残りがあるとしたら雄介の夢を見られないことかな」

「俺の夢はお前を守ることなんだよ。生きてくれ。そしたら一緒にその夢を見られるんだ。見られるんだよ……」

「――私は自分で望んでこうなった。最初から結末は決まっていたの。ゴメンね。最後まで言えなくて。でも、君ならきっと違う夢を見つけられる。こんな破滅を夢にしていた女を守るなんて叶わない夢なんかじゃない。きっと私がもっと生きていたかったと後悔するような夢を君は持てる」

「なに言ってんだよ……」

「雄介は優しすぎる。全部は背負わなくていいんだよ。私の願いは持っていかないで……意思だけ持っていって。雄介のその先を私も見てみたい。だから……」

「だから? 何だよ?」

「……」

「なぁ、何で喋らないんだ? 目を開けてくれ。俺にその続きを聞かせてくれよ」


 辺りは静かに、雨音だけが聞こえる。腕には冷たくなった人がいて、その目にはもう何も映っていない。熱は何処にも無い。雨で冷えてしまった体には最後の温かさすら届かなかった。感じるのは虚無と喪失。


 そうして、俺の夢は腕の中で消えていった。

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