【2巻&コミカライズ】クズレス・オブリージュ~18禁ゲー世界のクズ悪役に転生してしまった俺は、原作知識の力でどうしてもモブ人生をつかみ取りたい~
【クズレス】アバタロー【1,2巻発売中】
1章 クズの目覚め
第1話 このキャラだけは嫌だった
「何この姿は……」
思わず、俺はそう口に出さずにはいられなかった。
目の前の大きな鏡の前には、小さい子供が写っていた。仕立てのいい服。だが、明らかに性格の悪そうな眼付き。
要するに、クソ生意気そうなガキである。
自分がそんな姿のはずがない。
でも、俺は目の前に映っていた人物を見て、ふと思い出してしまった。
「これって……」
いやまさか嘘だ、と思うが、現実は非常である。
この姿は、この姿は間違いなく……。
「クズトスじゃねえかぁ!!!!!!!!!」
この日、部屋一杯に俺の悲鳴が響き渡ることになった。
ランドール・ウルトス。
ランドール公爵家の嫡男、という王国内でも強大な権力を有する彼は、とある大人向け恋愛ゲームの中の悪役貴族である。
通称、『クズトス』。
しかも、クズトスの嫌われっぷりは尋常じゃなかった。
簡単に説明すると、クズトスは中ボスのような小心者の悪役貴族である。
ブクブクと太った豚のような彼は、魔法学院に入学してきた主人公のイケメンに嫉妬し、様々な嫌がらせを行う。
いや、それだけなら、クズトスは普通の悪役で済んだだろう。
しかし、クズトスはそれで終わらなかった。
ヒロインの一人が幼少期に母を失う、というトラウマを抱えているのだが、その原因となったのがクズトスであった。
プレイヤーの誰からも好かれる清楚で巨乳なヒロインを泣かせ、主人公の邪魔をするブサイク。
しかも性格が悪い。
加えて、一人称は、「僕ちん」。笑い方は「グ~グフッフッフッフ」という近年まれにみるレベルでダサいキャラである。
こんなキャラクターを、どこの誰が好きになるというのか。
こうして、クズトスはダメな方向で圧倒的人気を博した。
制作陣のインタビューでは、「僕もこいつだけは許せません」とゲームの開発陣に名指しされ、数ある二次創作では、異世界転生した主人公がクズトスをボコボコに血祭りにして、幼少期のヒロインのトラウマを癒やすというのが定番のルート。
生放送の中では、クズトスが登場した瞬間、「このクズwwwwwwwwww」、「はよ〇ねwwwwww」というコメントで溢れかえっていた。
はい。
話はこれだけでは終わらない。
他の中ボスキャラは、なんやかんやでゲームを進めていくと主人公勢と和解したり、主人公に協力してくれる場合もあるが、クズトスに限っては、普段の言動・行動がウザすぎたのか、そんな和解イベントすらないのである。
な?
もうめちゃくちゃだろ?
そんなクズトスの末路は、黒幕に操られ死亡、というものである。
ランドール公爵家という結構な名家生まれのくせに、平民主人公にボロ雑巾のごとくされるのがオチだ。
ちなみに、クズトスが死んでも主人公は特にコメントも出さない。
世は無常である。
いや、
「待てよ。今は何歳だ?」
俺は疑問を口にした。
鏡の中にいるクズトス少年は、たしかに性格がひん曲がっていそうな雰囲気を醸し出してるが、まだそれほど太っていない。
容姿だけ見れば、そんなに崩れていないのである。
真っ直ぐに鏡を見つめる。
8,9歳ほどだろうか?
このくらいの年齢から、クズトス君は魔法の才能があり、めちゃめちゃ調子に乗り始める。
女性に溺れ、わがまま放題。魔法の勉強もせず、剣の訓練もせず。
そうして不摂生な生活を送った末に、主人公補正の塊にボコボコにされる、立派なクズトスができあがる、というわけである。
――が。
まだ引き返せるよな?
と、俺は鏡に問いかけていた。
考えてみれば、だいぶ話は簡単である。
要するに、本編のクズトスのクズムーブをすべて避ければいい。
そうすれば、死なずに済む。
たしかに恋愛もしたいが、作中のクズトスのように美少女ハーレムを作りたい、というわけではないのだ。俺は純愛が好みなのである。
そう。つまり、逆に生きればいい。
真面目に生きよう。地味に生きよう。ほどほどに鍛え、ほどほどに勉強に励み。
主人公パーティーにはなるべく近づかない方向で。
あれだな。
最終回の主人公パーティーの周りで拍手している一般的なモブAになりたい。
「よし」
これからの動きは決まった。
拳を握る。
もう一度、鏡の中を見つめ返した。
クズトス。
悪いが俺は、真面目に生きるぞ。
まあ、完全に自分が生き残ることしか考えていないので、俺もクズトスと、そんなに変わらない気もするが……。
まあいっか。
――が、しかし。
俺は甘かった。俺は、大甘だった。
まさか、クズトス少年がここまでクズだったとは思わなかった俺は、目の前でガタガタ震えているメイドさん見て、途方に暮れていた。
「ウルトス様、すみません。私は何か問題を起こしてしまったのでしょうか? すみません、どうか仕事だけはどうか仕事だけは、家族がいるのです……」
すみません、すみません。
そう言って、ガタガタと震える大人しそうなメイドさん。
「……………」
もちろん俺は微妙な顔で黙っていた。
一言だけ言わせてほしい。
――なあ、クズトス。
お前、ちょっと幼少期からやり過ぎじゃない?????
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