第38話
「「これより三年生の借り人競争を行います!」」
今年のお昼は一人にならなかった。海がいたからだ。
こんなにも楽しい時間だったなんて、もっと早く海と出会えてたら、私の人生はもっとバラ色になったりしてたりね。
なーんて、ヘンテコな妄想を並べていると選手が入場してくる。
海は……いた! ぴょんぴょん跳ねながら私に手を振ってくれている。
私は周りには気が付かれないよう、頑張ってと小さく手を振ってエールを送る。
借り人競争はその名の通り、紙に書かれたお題に適した人を見つけ出して審査員の所まで一緒に走っていく競技だ。
体力は勿論、声量や友人関係の広さ、コミュニケーション能力も揃っていないとなかなか見つけ出すことは難しい。つまり私には一生できない競技ってこと。
――バンッ!
始まりの合図を告げる硝煙がノロノロと焚かれたところで、一斉に選手がお台箱の方へと走り出す。
海もその集団に混じって紙を一枚手に取った。
多くの人は各クラスの応援席の近くまで行って大きな声で「朝、餅を食べて来た人―!」とか「去年の成績で1を取ったことがある人―!」と無造作に探し始める。
うわー、すごい大変……当てはまる人がいても連れていけるかはまた別の話。
辛抱強く探さないといけないしコミュ力も必要……これを発案した人は多分とんでもない陽キャだろう。
と、半分選手に同情していると、ただ一人大きな声も出さず一目散にこっちの方に向かってくる人が一人
――海だ
そんなにもお題に綺麗に当てはまる人がここら辺にいるのか。
海はラッキーなお題を引けたのかな? もしそうなら全然一位を取れる。
さっきの分を取り返して欲しい。頑張れ!
心の中で祈るように応援してくると、やがて海は私のクラスの前まで来る。
そして――
「月! 来てっ!」
「……は、はい⁉ え、えちょっと、わ、私?」
「そう! 月しかいないの! ほらっ早く!」
半ば強引に腕を掴まれ席から引きはがされる。審査員は校庭のど真ん中。ま
だ他の選手は人を探している。今ならダッシュすれば一位でゴール出来る。
手を引かれて走る私であったが、突然海がその手を肩に回してきた。
「いっちにっ! いっちにっ!」
何度も何度も聞いてきた掛け声を出す。
「ほらっ、月も!」
海……あなたは本当に……
「うん!」
「「いっちにっ! いっちにっ!」」
また涙が零れそうになる。
でも今度は種類が違う。
泣けば泣くほど、心が温まる。
私達の様子にみんながざわつく。
なんで二人三脚で走っているんだ、と。
でもなんと言われたって構わない。
だってこれは私たちだけの、秘密の合図なのだから。
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