第8話

家族の愛を、ヴィンセントからの愛を胸に、パトリシアはラウルと結婚した。


初夜は思っていたほど何も感じる事無く、自分でも驚くほどあっけなくコトは済んだ。

気持ち悪いとか、精神的に追い詰められるのではとも思っていたが、仕事なのだと割り切れば確かに嫌悪感はあったが、想像していたほどの苦痛でもなかった。

しかも一度でいいのなら我慢もできる。

兄グレンの予想通りラウルは毎日の様に夜にはパトリシアを求めたが、グレンから貰った夢幻魔道具で何とかやり過ごす事ができた。

義務を果たせば、ただの気持ち悪い下半身脳だ。

疑われない程度に歩み寄りながら相手をしていれば、妻が自分に惚れているのだと勝手に勘違いをしてくれて、そのおめでたさに呆れながらもそれを利用した。

そしてひと月も経った頃、妊娠している事がわかった。

妊娠の有無を見分ける魔道具もアントニー製で、かなり精度が向上している最高級品だ。

極端な話、性交後にすぐ受精したとしても判定できるほどに、感度が良い代物なのだ。


妊娠がわかり、出産するまでは寝所を別にできた所為か、心穏やかに過ごすことができた。

パトリシアの周りを固める使用人も、ライト家の息がかかった者ばかりと言うのも、精神安定に一役買っていたことは言うまでもない。

妊娠中も精力的に政務をこなすパトリシアとは反対に、ラウルは初めこそは真面目に仕事をし過ごしていたが、次第に女遊びを始める様になっていった。

彼の行動報告を聞きパトリシアは、ほくそ笑む。


確かミアは半年前に結婚したばかりよね。

股の緩い彼女を娶ってくれる人がいたこと自体驚いたけど、一回り位年上だったかしら?

満足しそうにないわね・・・浮気も時間の問題だわ。

でも、今離婚されては困るのよね。


パトリシアは腹心の侍女を呼びミアの事で指示を出し、彼女が部屋を出ていくのを見届けるとゆったりとソファーに身を預けたのだった。



パトリシアが無事に王子を出産すると、間もなく国王は引退を発表。

ラウルが国王、パトリシアが女王となり共同統治者となる事を国民に知らせた。

国民は混乱するどころか歓喜の声を上げ、皆安堵したようにパトリシアの名を叫んだ。

これほどまでに信用がない国王も珍しい事だと、誰もが思うのだった。



医師から夜の生活を始めても大丈夫だと許可が出てすぐに、閨を共にした。

それにより益々、ラウルはパトリシアが自分を好いているのだと勘違いしていくのが面白いようにわかった。

そこからさらにパトリシアに執着するようになっていくラウルだったが、変わらず夢の中でしか妻を抱く事がなかったのは言うまでもない。

そして一月後、妊娠が発覚。今度は双子だと言う。

二人のうちどちらかが男児であれば義務は果たしたことになる。・・・・今までは。

だが今は、例え二人とも女児であっても構わない。これまでは男子のみの継承権だったが、女子にも継承権を与える法律を成立させたからだ。

元老院や主要貴族も反対はしなかった。と言うのも、現在のラウルを見ればこの国の行く末に不安しかない事くらいわかっているから。

事実上、この国はパトリシアが動かしていると言っても過言ではない。

男だろうと女だろうと、能力がなければそのとばっちりを受けるのは国民。今の国王からは、ただ国を傾ける未来しか見えない彼らなのだった。


全てがパトリシアの思い通りに事が運び、喜ぶどころか反対に気を引き締めねばと己を律するのだが、否応にも心の中では浮足立ってしまう。

そして双子の男児が無事に生まれ、国中が喜びに満ちて一年も経たないうちに、ラウルからミアの妊娠を告げられたのだ。

―――どうやら、本当に妊娠してしまったらしい。

タイミング的にはばっちりだった。いや、少し遅い位か。

パトリシアの希望としては、双子の出産後すぐにミアの妊娠が発覚する予定だったのだが、パトリシアのように薬を使っているわけではないので、こちらが望んだ時期に妊娠するという事は無理だったようだ。

だが、思の他早い妊娠に、どれだけ男と遊んでいたのやらと呆れてしまう。

いや、そうなるよう仕向けたのはこちらなのだから、そう思うのは間違っているな・・・とパトリシアは思い直した。

だが、腹の子が必ずしもラウルの子とは限らない。

上位貴族になればなるほど、子が生まれれば必ず自分の子であることを証明するために「認定魔道具」を使うのだ。

これもアントニー製で、年々精度は向上していた。

例外に漏れずパトリシアの子も魔道具で認定されている。王家の子ならば、例え疑いもない状態であっても必ずそれをしなくてはいけないのだ。

それが婚外子であっても、だ。


確かミアが今お付き合いしている男性は・・・四人だったかしら?

せっかく結婚できたのに自らふいにするなんて・・・もう、都合の良い愛人枠しか残ってないわね。

ラウルも自分の都合が良いように利用していたつもりが、反対に利用されてたなんて思いもしないでしょう。笑えるわ。


パトリシアは、ラウルの不貞で新たに交わした契約書を抱きしめ、実家にすぐさま手紙を飛ばした。

「万事順調 念願叶う」と。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る