第19話・やっぱり仲間たちと一緒に食べるご飯は美味しい
その後。
俺たちは《影の英雄団》のアジトを去って、街【カマブーズ】に戻ってきていた。
もちろん、イルザが言っていたヤツらの『重要資料』というのも持ち帰っている。
とはいえ、そこに記されている内容は多く、戦闘で疲れているのに精査するのは億劫だった。
ゆえに今回の任務の報告も兼ねて、冒険者ギルドのカワウソことギルド長に資料は預けた。
明日にでもなれば、資料の内容が丸裸になっているだろう。
ギルドでは盛大に出迎えられつつ、報酬も手にしてから……ようやく俺とフィオナが泊まっている宿屋に到着した。
しかしここでも一波乱が起こる。
「フィ、フィオナ様と同じ宿屋!? 二人でなにをしていたんですか!」
……とライラが目の色を変えて、俺たちに詰め寄ったのだ。
「ふふんっ」
何故だか、フィオナは上機嫌である。
「そうよ。あんたが合流するまで、すごかったんだから。もう
「な、なんということ……」
よろよろと後ろに倒れそうになってしまうライラ。
すかさずライラを支えようとするが、彼女は「け、
「年頃の男女が同じ屋根の下で暮らせば、子どもが出来ると聞いたことがありますが……まさかフィオナ様が
「ちょっと待て、話が飛躍しすぎ……」
「それだけじゃないわよ。既にノアとの間に、これだけの子どもがいるわ」
とフィオナが指を二本立てる。
「ふ、二人ですと!?」
「男の子と女の子よ。ちょっとおとなしめの弟に、それを引っ張る姉。そんな二人の成長を見守りながら、私とノアは愛を育んでいたわ」
「わ、わわわ!」
「下の子はもう少しで冒険者学校に入学して……」
「二人がそんな風に人生経験を積んでいたとは、僕は気付きませんでした。まさか僕がいない間に、そんな爛れた生活を……」
「話を聞け」
このままじゃ、ライラが本当に倒れてしまいそうだ。
俺は彼女の頭を軽く小突く。
「色々と時間軸が合ってないだろうが」
「で、ですが、黒滅は最強ですから……」
「お前の中で俺はどういうイメージになっているんだ!? そもそもフィオナとそういう関係になっていない! 同じ宿屋とはいえ、部屋は別々! やましいことは一切ない!」
非難の意味を込めてフィオナを見ると、彼女は小さく舌を出した。
それを見てようやくライラも自分の勘違いに気が付いたのか、
「フィ〜オ〜ナ〜様〜!」
とフィオナの胸をポコポコと何度も叩いた。
「ごめんね、ライラ。ちょっと悪戯してみたくなっただけ。だけど……ノアに押し倒され、唇を奪われたのは事実だわ」
「それも嘘だろうが! とにかく! 晩飯を食うぞ。腹が減った」
二年前のことを話すのも、まずはこの空腹を解消してからだ。
俺たちは食堂に行き、そこで料理を注文した。
ここの宿屋では元料理人の女将が、腕によりをかけて料理を振る舞ってくれる。
何度か食べてみたが、どの料理も絶品。食堂に入って匂いを嗅いだだけで、お腹が鳴ってしまうほどだ。
「か、唐揚げ……!」
テーブルに出された山盛りの唐揚げに、ライラの目が輝く。
さらには俺たちの前には白飯。
「宿泊する客は冒険者が多いためか、基本的にちょっと量が多いんだ。少食なライラにはちょっときついか?」
「いえいえ、ノア様に早く会いたいがために、朝から抜いていましたからね。お腹ペコペコです」
「ちゃんと食べろよ」
苦笑する。
しかしそれほどまでにライラが俺と再会したかったのかと思うと、素直に嬉しかった。
「じゃあ食べよう──いただきます」
と俺は言ってから、料理に手を付けた。
一噛みするだけで、唐揚げの油が飛び出す。
すぐに熱々の白飯を口の中に掻き入れる。
どうして、これだけのシンプルな組み合わせが俺に幸福感を与えてくれるのだろうか。
体の隅々にまで栄養が行き渡り、気付けば俺たちは黙々と肉と白飯のコンビネーションに酔いしれていた。
「ふう、美味かった……」
背もたれに体重を預ける。
あれだけあった料理が全てなくなり、お皿は空になっていた。
「やっぱ、ここの料理は美味しいわね。ライラもいるし、こうしていると《極光》が復活したんだなあってあらためて思うわ」
「そうだな。しかしまだ完全復活はしていない。メリッサのことを忘れるなよ」
「もちろん、忘れてないわ。でもあの子、そもそも一緒に卓を囲もうとしなかったじゃない」
「自分勝手なお人でした」
それはお前らもだろ……と言いそうになるが、すんでのところで言葉を飲み込む。
「まあお腹もいっぱいになったし、部屋に戻ろうか。そこで二人には話をしよう」
俺がそう言うと、二人は真剣な面持ちをして頷いたのであった。
俺の泊まっている部屋にフィオナとライラを招き入れると。
「ああ、ここがノア様とフィオナ様が爛れた生活を送っていた部屋なのですね……心なしか、そこに置かれている花も嫌らしく見えます」
「そうよ。可哀想だから、ライラに愛人ポジションなら譲ってあげてもいいわよ」
「だからその話はフィオナの嘘だっただろうが! さっき話したことを、もう忘れたのか!?」
「そうでした」
胸を撫で下ろすライラ。
全く……今から真剣な話をしようというのになんだこの、コメディーちっくな空気は。
だが、これも二人が俺のことを気遣ってくれているからだろう。
わざと軽い空気にして、俺に負担をかけないようにしてくれているに違いない。
そんな優しい二人に感謝しつつ、ベッドに腰掛けた。
「……二年前、お前らも俺と同じ場所にいた。だが、ここはあえて一から説明させてもらおう。俺と彼女──イルザの話をな」
そう語り始めると、二人は口を一文字に結んで、俺の顔を真っ直ぐ見つめた。
「あの日……俺はみんなを救うヒーローから、ただの人殺しに成り下がった」
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