第6話 東の大国

「ね、レイ旅行って楽しいわね?」

「……うん。わくわくするよ」

「でね、私たちって、グレポートから逃げるわけじゃない?……管理人の脅威があるから」

「……管理人。思い出したくもない……」

「キミは帝国に降伏したわけだけど……。もう一つ帝国と呼ばれる存在があるわよね……我々帝国は東の大国と呼んでいるけどね」

東の大国とは、東に存在する帝国のことだ。

「東の大国は我々の帝国のことを西の大国と呼び、自らを帝国と呼んでいるそうね……」

そう……帝国とは唯一無二の存在でなくてはならない。帝国に固有名詞はなく、ただ「帝国」といえば自分を指す……と東の大国も西の大国も主張しているのだった。

ちょっとわかりにくいが……エリー様が所属するのは西の大国である。

「僕たちは実のところ陰では東、西とだけ呼んでいるよ……当事者の前では言えないけどね……」

「とにかく東の大国は黙っていないはずよ……。グレポートの武器の利権を独占されることに我慢せず、干渉してくると思うわ……」

「そうなったとき、グレポートはどうなるんだろうね……」

「……いま、あなたの国は、あなたの元の体である人形が支配しているわけだけど……あなた、たぶん東に宣戦布告されたらすぐ降伏するでしょ……レイは意思弱いものね」

「……なんだよ!馬鹿にして!」

……しかし、たしかにありそうだった。もしルーチンワーク、惰性としてボクが宣戦布告にたいして取りそうな態度は……、間違いなく降伏だろう。

「でも、当たっているでしょ?本当は政治家としてはあくまで我々の帝国につくのが正しい身の振り方でしょうけど……。レイン王子は政治家として未熟……だったものね?」

……どっちつかずで、身を滅ぼす。それは内政の派閥争いでも同じだった。

結果ボクは誰の信用も得られなくなった……。情けないことに。

「くやしいな。アンはなんでもお見通しなんだね」

「別にあなたをバカにすることが目的ではないのごめんね。あなたの人形がどう動くかの予測は大事よ……」

「そっか、東が宣戦布告どころか示威行為を取るだけで、ボク、降伏しそうだものね……。ごめんね、ふがいなくて」

「ともあれ、はやく、グレポートを離れる必要があるわ。ここはまたすぐ戦地になるし、きっと帝国領ではなくなってしまうから……」

「それじゃあ、愛の逃避行というか、ただの戦争難民だね……。ロマンチックじゃないなぁ……もう」

「そういうわけだから、できるだけ早く馬車を見つけましょう……聖地行きの馬車をね」

……僕たちは街の広場へと向かった、そこにはたくさんの乗り合い馬車が待っている。


「ねぇねぇ、君たち新婚さんでしょ?」

と軽い男が話しかけてくる……。

「ん?そうだけど……何?」

「オレの馬車に乗らないか?定員6人でさ、キミ達が乗れば満員」

……つまり、三組のカップルが聖地に行くツアーのようなものなのだろう。


「あら、おいくらぐらい?」

「安くするよ、すぐにでも出たいからね。でも他のカップルには秘密だぜ?」

「よし!のった!」

「そうこなくっちゃ。じゃ、こっち来なよ」

……男に連れられると、なかなか、可愛らしい感じのいかにも新婚さんカップルが好みそうな馬車があった。

「おまたせ−」

「へー、なんか……エリー様とレイン王子に似てるわね?あなたたち」

と女の子が話しかけてくる……。良かった……やはり別人にみえるのか。

「ふふ、よく言われます!」

とアンが応える。

「ねえ、あなたはレイン王子に何を誓わせたの?」

「……それは……」

ボクが言おうとすると……。アンは

「絶対服従ですね!ね、レイ」

「……絶対服従!まあ素敵!ねえあなた聞いてよ!私もそれにすれば良かった」

「おいおい、カンベンしてくれよ……。オレは真面目に働いてキミを幸せにする。その誓いで十分だって、言ってたじゃないか……」

「ね?キミは絶対服従なんて誓って良かったの?……その、まるでうちの王子様がエリー様に誓った降伏文書みたいじゃないの?ね、どうなのよ?そこ」

と女の子はさらにツッコんできた。

「……うん。ボクは嬉しかったよ……。そのぐらい愛されているんだなって」

「あら、いいお婿さんじゃない!ふふ、お互い幸せになろう」

とアンに彼女は言った。

「そうでしょ?私もなかなかみどころがある男の子だと思っているんだ!」

……なんか、アンさんいつもとノリ違うな……。こんな表情もできるんだ。

「……ありがとう。アンさん」

「もう、レイったら……妙に素直になっちゃって……」

……ボクは嘘でもうれしかったんだ。ボクにみどころがある、なんて言葉をアンさんの口から聞けるなんて思ってもいなかったから。

「旅行たのしいな……」

とボクは言う。本心から……そう思った。

「お婿さん、なんか、カワイイね!」

とツッコんできた女の子は笑った。

「バカ……。何照れてんのよ……レイ」

……そんな他愛ない会話をしつつ、僕たちは馬車の旅を楽しんだ。

聖都は思ったよりもここから近く、2週間ほど馬車を走らせればたどり着けるはずだった。とはいえ、長旅だ。アンさんと、大好きな女性との長旅。

そう、実のところボクはもう、エリー様とアンの区別がつかなくなっていた。

アンはただのメイドとは思えないほど聡明な女性だったし、あまりにエリー様と似ていたのだから……。

































































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闇の姫君にボクはお人形さんになるように言われました。 広田こお @hirota_koo

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