第4話 人形部屋

「では……、旅にでましょう」

「はい……ボク、長旅は初めてです……」

「私とキミは新婚カップル……ということにします」

「アンさんとボクが新婚……」

「まず、この国の王ということがわからない程度には変装しないとね……」

「アンさんも……、どっからどうみてもエリー様ですが……」

「どうすればいいと思う?」

「うーん、正直変装に自信は持てないです……」

「私も同じよ……だから、変装ではなくて、全くの別人になることにするわ」

……彼女は良くわからないことを言った。変装ではなく、全くの別人とは……どういうことだろう……

「……あの、まったく別人って……」

「説明するのが難しいから、この街の聖院に向かいます。そこで……きっとあなたは驚くと思う……」

「……この街の聖院なら、場所良く知っています……。そんな特別なところには思えませんが……」

「……ふふ。じゃ、案内してもらおうかしら……」


……ボクはアンをつれて、城下町の聖院まで向かった、そこで待っていたのは、もちろん、この国の聖者である。このおじいさんには子供の頃から何度も説教されたっけ……。


「じいさん、こんばんは」

「おお……レイン王子。そちらは……エリー様ですね」

「おじいさん、『この世の理を知りに来た』わ」

とアンはボクの顔なじみのじいさんに言った。

「レイン王子に見せて……いいのですな?」

「もちろん……」

え……どういうこと?


「レイン様、まさか、こんな日が来るとは思いませんでしたよ……」

「じい、一体何を見せてくれるのかい?」

「ひとことでいえば、そう『人形』ですな……」

「人形……、それは今のボクのことかい?」

「いろいろと説明するより人形部屋に案内した方が……はやいでしょうな……」

「人形部屋?」


じいは、ボクとアンを手招きし、聖院の奥の部屋に連れて行ってくれた。

何度隠し扉を通ったことだろう……。方向もわからない。

そこは地下の一室で、そこにあったものは……。


「ええと、確かにココには人形がたくさんあるね……。特別なものとは思えないけど……。でもすごい精巧にできている。まるで、いまにも歩き出しそうだ」

「はい……。この人形は、実のところ、生きております……」

「生きている??」

「はい、しかし、意思を持たない人工物です。人形ですから、もとは無機質なものですよ……」

アンはボクの手を握っていう。

「怖い……かしら?」

そしてたずねた。

「怖い……ね。これは一体どういうこと。この人形が生きているって?」

「この人形は人工物よ……。そうね、ひとことで言えば、あなたの今の体の代りになる体でもあるわ……」

「ボクがもし、この中の人形の誰かになったら、ボクの体はどうなるの?」

「良い質問ね。あなた……ルーチンワークあるでしょ。寝ぼけていてもしてしまう行動のことよ……。あなたの体は、本能というか、いつもの惰性にしたがって、いつもやっていることを、やり続けるわ……。話かければ応える。ただ、そこには『意思』はない……」

……ひょっとしてだが……

「アンさんも……、人形なの……」

質問するのにすごい勇気が必要だった。この質問をすることで、アンとボクの関係が壊れかねない、恐ろしい質問。

「人形と、人形じゃないものの差は『意思』があるかよ……。わたしが意思がないように見えるかしら……」

……アンのいままでの行動を振り返る。それは決してルーチンワークではなかった。

だから、彼女は自分には意思がある、と主張したいのだろう。

「……そっか。そうだよね。アンさんは……ボクに色々してくれたし……ね」

「コラ……、いまエッチな事考えたでしょ?でも正解よ。もし私が人形だとしたら……その人物はあなたにしたようなことを日常的に行っている人物だった……ということになるわね」

……そんなことはありえない……という主張なわけだろう。

「ともあれ……、これから、ボクとアンさんの新しい体をこの中から探すわけだよね……」

「……飲み込みが早くてよろしい……」

……ボクはカッコイイ騎士に憧れていた……。ボクは軟弱で男らしさとは無縁な、なさけない王であったから……。

「……この人形とかどうかな?」

「ん……。格好よすぎない?目立ち過ぎるのも問題なのよね……」

「うーん……。じゃ、この男の人は?」

……それはガタイのいい兄ちゃんだった。

「あ……。うん、なんかイメージと違う……」

「……ボクのイメージって……」

「こっちの子……可愛くない?」

「それ……女の子にしかみえないんだけど……」

「いいじゃん……、この際、女の子デビューしちゃおうよ?」

「や、やだよ……そんなの」

じいさんは黙って僕らの様子を見ていたが……

「なるほど……確かに性別まで変えれば、怪しむモノもおりますまい」

「……で、私がこっちの人」

……それはボクが選んだ騎士じゃないか……。

「ずるいよ……」

「ふふ、ごめんね……、からかっただけ……。かわいいね。レイン君は」

「……もう。アンさんはひどいな……」

……結局僕らは、今の自分と似てはいるが、顔立ちが美化された人形を選んだ。

「……これ意味あるかな……」

「……実は、じいが、あなた方が人形だったらどうなるかなと思って長年つくっていたもので……」

……とじいが告白する。どおりで似ている。だが別人だ。

「良く知っているひとは別人だってわかるわね、これは。そっくりさんだと思うはず……」

アンはしばらく思案していたが……。


「ありがとう、コレにしましょ?レイン」

……なんか、もっと別人になれるのかとおもって、少しドキドキしてたんだけど……

意外な着地地点だな……。

「そうだね。これだったら、体が替わってもあまり違和感はないし、まさかボクがこの国の王だとも思われないはずだしね……」

「では、寝室でお眠りください……寝ている間にじいが、取り計らっておきますので……」

……次の朝起きると僕らは似てはいるが、全くの別人に生まれ替わっていた。























































































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