第11話

 伊400から射出された無人戦闘機“晴嵐”三機は順調にパナマ運河に向かって飛行していた。

 “おおわし5号”とのリンクのお陰でリアルタイムで位置が分かると共に晴嵐に備え付けられているカメラポッドが三六〇度周囲の景色を捉えていた。

「凄いな、まるで操縦席に座っているような感じだ」

 航海科『籔島勘九郎』曹長が満足そうに晴嵐の無線操作をしている。

 彼自身がこの遠隔操作に立候補しただけあって直ぐにコツを掴んで自由自在に操っていた。

「籔島曹長、そういえば貴様はあの世界にいるとき、暇あれば操縦シュミュレーションをやっていたが早速、役に立ったのだな」

 高倉先任将校が笑いながら言うと籔島も頷いてあれには感動して嵌まりましたと言うと横で聞いていた西島航海長から何事も何かに嵌まるのもいいのかもなと言う。

「籔島曹長、晴嵐は現在、どの位置かな?」

 日下の言葉に籔島は現在、メキシコシティーを通過したとの事を言うと日下は満足そうに頷いて二機は大西洋方面、もう一機は太平洋方面に向かわすように命令を出すと籔島は返答をして晴嵐に情報を入力していく。

「そう言えば……朝霧さんのいる時代へ行く前にこの付近で海底火山が噴火した筈なのだがもう収まったのかな?」

 日下の疑問に高倉がいえ、不思議なことにそんな形跡がないという事を話すと日下は増々、分からなくなった。

「有泉司令達の行方が気になるが今はパナマ運河に専念する時だな」

 日下達が大型モニターにて晴嵐を示す光点を見つめていると籔島が後、五分でパナマ上空に達しますとの報告を受けた時、日下が命令する。

「ガツン関門、ミゲール関門、ミラフロレス関門の三つは必ず木っ端微塵に破壊するのだ! そうなれば大洪水を引き起こして数百隻の船が犇めき合っているから一気に被害を増大させる事が出来るはずだ」

 籔島が元気な声で任せて下さい、やってやりますと自信ある言葉を発すると日下は笑みを浮かべながら頷く。

 晴嵐三機が分散してそれぞれの目標の関門に向かって行く。

「吉田技術長、あの晴嵐はステルスモードと光学迷彩シールドを展開していますので目視もレーダー探知も出来ないのですね?」

 日下の言葉に吉田は頷き攻撃した後も何処から来たかも敵は分りませんので完全に奇襲攻撃ですと答える。

「艦長、パナマ運河上空です! 三機同時に爆弾を投下します!」

 籔島が操縦桿を操作しながら答えると日下がよろしく頼むという。

 各関門に展開した晴嵐は高度五千メートルまで急上昇すると一気に急降下態勢に入る。

 真剣な表情をした籔島が器用に操縦桿を動かしていく。

 大型モニターには三分割された景色が映っていた。

「……投下!! 投下!! 投下!!」

 籔島が爆弾投下装置を押すと晴嵐から放たれた八百キロ爆弾が唸りを上げて落下していく。

 爆弾を落とした晴嵐は再び急上昇して伊400の下へと針路を取る。

 三つのそれぞれの関門の中心に八百キロ爆弾が命中して関門の鉄扉を破壊してそのままコンクリートを砕いて数メートル地下で爆発する。

 地響きと共に直下型地震が起きたかのような振動がパナマ運河周囲に巻き起こり次々と施設が崩壊に巻き込まれていった。

 高低差二十六メートルもある運河を関門で制御していたがそれが破壊されたと同時に未曽有な大津波が襲いかかり下流にいた船舶に滝のように降り注いでいく。

 濁流に流れる船舶同士が衝突してそのまま転覆したり巨大な滝のような水圧で駆逐艦が圧壊されて沈没していく。

 人工衛星“おおわし五号”から送られてくる映像を見ながら“さがみ”や伊400の乗員達は息を呑んで眺めていた。

 何百隻も運河を渡るために停泊していた船が次々と衝突したり座礁したりして地獄絵図が繰り広げられていた。

 それは駆逐艦や巡洋艦も同じで巨大な水流に逆らうことが出来ずにバランスを失って転覆していく艦船もあり文字通りパナマ運河は壊滅したのである。

「……想像以上の破壊力で被害も甚大だな、しかし米国は直ぐに復旧すると思う。物質も無尽蔵と言っていい程だからな」

 モニターを見つめながら日下は大戦果に大喜びする事もなくこの攻撃でどれだけの軍に関係ない人命が失われたのだろうと思うと手放しで喜べなかった。

「(……インド洋でしでかした過ちを何処で償えることが出来るのだろうか?)」

 歓喜の嵐に沸く艦内の中で日下だけが艦長席に座って大パニックになっているパナマ運河を見ながら心の中で呟く。

 その様子を高倉先任将校が首を横に振りながら見ていた。

「(艦長は優しすぎるのだ、あれは上層部の命令で逆らうことが出来なかったのだ! 宮仕えの辛い所だな)」

 高倉は日下に次の行動を聞くために艦長席に向かって行った。

 “さがみ”は勿論、伊400の全乗員も知らなかったことだが、このパナマ運河攻撃時で米国輸送船“カスター”が巨大な滝のような水流に押しつぶされてそのまま沈没したがそこには原子爆弾が三個入っていたのだ。

 本土決戦時に援護で使用する為だったのだが湖底奥深くに原子爆弾は封印されたのである。


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