第4話

 どれぐらいの時間が経過したのか分からないが日下が眼を醒ますと非常灯が点灯していたのである。

 体中の節々が痛む中、日下は発令所に行くと意識が戻った乗員達がよろよろと起きて来たところであった。

「全員、無事か? 被害状況を各部署に伝えて報告してくれ」

 日下の命令が伝えられるとよろよろと高倉先任将校がやってきて今時点では船体の損傷は見当たらない事を言うと日下は頷いて礼を言う。

 艦長席に座った日下の下に次々と報告が入るが幸いに機関室も無事で船体の損傷も見当たらなかったが次の言葉に言葉を失う。

「操舵が故障していますので一旦、浮上すれば二度と潜航が出来ません!」

 日下は暫くどうしようかと考えていたが中々何も思い浮かばなかった為、暫くの間は海底に潜んでいた方がいいと決断する。

「空気の残量はどれぐらいだ?」

「後、六時間です! どっちみち六時間後には浮上しなければいけません。捕虜となるかそのまま自沈してこの艦と共に……」

 西島航海長は最後まで言葉を言うことが出来なかったが日下には分かる。

「……降伏するか、恐らく海上は米国の船や航空機がうじゃうじゃいるだろうが無駄死にさせるのは心もとない」

 日下の言葉に他の乗員は艦長の決定に従いますと言ってくる。

「しかし、有泉司令達はどうなったのだろうか? あの凄まじい規模の海底爆発に巻き込まれたら無事ではすまないと思うが?」

 それから六時間後、遂に艦内の空気が無くなろうとしている時に日下は決断する。

「よし、浮上しよう! 俺の勘だが大丈夫なような気がする」

 日下の言葉に開戦時から付き合いのある西島や在塚等の古株が日下の言葉に追従するように答える。

「艦長の勘は神がかりだぞ? 大丈夫と言えば大丈夫だ」

 日下はそれを聞いて頭を掻きながら命令する。

「メインタンクブロー! 浮上開始」

 伊400は海底からゆっくりと海面に向かって浮上していく。

「このまま一気に海上に出る! それと同時に全乗員の脱出を開始して全員の脱出が終わればこの艦を爆破させて自沈させる」

 苦渋の決断だがこの最新鋭の潜水艦を敵の手に渡すのは絶対に忍びないので木端微塵に破壊するつもりである。

 潜望鏡深度まで浮上した伊400は潜望鏡をだして周囲を見渡す。

「……何なのだ? 俺は夢を見ているのか……?」

 日下の唖然とした言葉に高倉がどうしましたか? と尋ねると日下は君の目で確認してくれと言い潜望鏡を譲る。

 高倉が潜望鏡で周囲を除くと日下と同じ反応をする。

「そんな馬鹿な!? この景色は……呉軍港だぞ?」

 他の乗員達も潜望鏡を覗くと息を呑んで沈黙する。

 再び日下が潜望鏡で周囲を見渡すと所々、見覚えある景色があるがそれは昭和二十年代でも平成時代でもなくもっと未来の呉軍港の景色だった。

「……間違いない、ここは遥か未来の呉軍港だ! よし、浮上開始! 海面に出るぞ」 

 日下の命令で伊400はそのまま一気に浮上していく。

 海面が盛り上がり伊400独特の艦橋が出現して浮上が終わる。

「これで二度と潜航は出来ないのだが……うん?」

 日下を始めとする手の空いている乗員が甲板上に出ると港の方から一隻の艦がやってくるのを確認する。

「あれは……海上自衛隊の艦だが見たこともない形状だが……? “しらね”型に似ているが」

 日下は自分が知っている護衛艦の形状を思い出すが乗員達は不思議そうな表情でここにやってくる艦を見ていると発光信号が発せられて日下はそれを読み解く。

「こちらは海上自衛隊第二護衛隊群呉方面駐留艦“さめぎり”艦長『有泉龍之介』二等海佐です、伊400艦長『日下敏夫』中佐とお見受けします。このまま左手に見える第三埠頭までお越しください……か」

 日下の呟きに高倉が困惑した表情で日下の方を見ると日下はじっと何かを考えていたが決断した感じでこのまま指示に従うとしようといい、機関室に速度三ノットで指定された埠頭まで行くように命じる。

 十分後、指示された場所に行くが前方が島で何処にも行けなかった。

「????」

 日下達がそう思った時、突然に島の一部が横にスライドしてトンネルが出現する。

 不安そうな表情を見せる乗員達だったが日下の動じる様子がない態度を見て安心感を得る。

 伊400は微速でトンネルに進入すると日下達は吃驚する。

 トンネル内は無茶苦茶明るくて人工的に造られたと分かる物であり平成まで生きて来た日下でも見たこともない機械が動いているのを見て驚愕する。

「(断言できるがここは平成の時代ではない未来の時代だろう。しかし、何年後の世界なのだろうか?)」

 そこまで思った時、前方に光が見えてきてそこが出口だと分かる。

「さて、何が出るかな?」

 伊400が出口を潜り抜けるとそこには巨大なドックが存在していた。

 その横にある中規模のドック扉が開かれる。

 伊400はゆっくりとドックに入り日下は機関を停止させる。

 その時、右横の自動ドアが開いて車椅子に座ったかなりの老齢の男性が若い女性と一緒にこちらにやってくる。

「大日本帝国海軍第六艦隊第一潜水隊所属“伊400”艦長『日下敏夫』中佐殿ですね? 私は朝霧商事会長『朝霧翁』と申します、ようこそ西暦二千百年の世界に」

 朝霧翁と名乗った老人の横の女性も自己紹介する。

「初めまして、会長の秘書をしています『内永知美』と言います。どうぞ、ここでは落ち着かないようですのでこちらへ」


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