値踏み
* * *
ソレは、街中で吟味をしている。
次は、どうしようか?
行き交う人々をよく見渡せる喫茶店のテラス席に腰かけ、ソレはずっと笑顔で人々を見ている。
好きでもないお茶やケーキを食べるフリをして、本当の好物を値踏みしている。
あの太り気味の子は……ボリュームがあって良さそうだ。
でもつい最近、似たようなのを味わったばかりだ。
少し趣向を変えよう。
肌が綺麗なあの子は……ダメだ。整形をしすぎていて、素材の味は失われているだろう。
あちらの幼い子どもは……ああ、なんて芳醇な香り。きっととても柔らかく、たっぷりと甘みが出ることだろう。……でも、さすがに小さすぎて物足りない。
やはり、大物がいい。
できることなら、まだ口にしていない珍味を……。
「おい、キリカ! 待てって! もう皆気にしてないって言ってるだろ!?」
「うっさい! ついてこないで! どうせアタシはオカ研のお荷物なのよ! 役立たずは潔く去るわよ!」
「だ~か~ら~、この間の件は誰も気にしてないっての! 俺もスズナちゃんもこの通り無事だったんだからさ! なっ? 意地張らず戻ろうぜ?」
「……なによ、何であんたたちそんなに優しいのよ? グスッ……気にしすぎなアタシが、バカみたいじゃないの……」
「実際お前は気にしすぎなんだよ。ほら、一緒にスイーツでも買って部室に戻ろうぜ? それで今回のことはチャラだ」
「黒野……」
「だいたい注意役のキリカがいないとさ、オカ研は一気に無秩序な場所になっちまうんだからさ。そこんとこ頼むぜ、委員長」
「……ふんっ! しょうがないわね! 戻ってあげるわよ! その代わり、アタシがいる以上、校則違反は許さないんだからね!」
「おうおう。らしくなってきたな。それでこそキリカだ」
「か、勘違いするんじゃないわよ! アタシはあくまで委員長として問題児のあんたたちを監視するためにオカ研に戻るんだからね! 特に黒野大輝! ハレンチなことばかりするあんたは学園の秩序を乱す要注意人物なんだからね! アタシの目が黒い内は女子生徒や女教師相手にふしだらな真似をすることは許さないわ!」
「ちょっ!? 街中でそんなこと言うな! 変な目で見られるだろうが! いや、違うんですよお姉さん? そんなに警戒なさらずに……」
高校生らしき男女二人が何やら言い合いをしている。
もっとも不仲という感じはしない。むしろお互い気を許しているからこそ、容赦のない言い合いをしているようだ。
「……」
その二人組の内の一人から、目を離せなかった。
ジッと、その全身を舐め回すように見る。
ゴクリ、と喉が鳴った。
思わず舌舐めずりをする。
何だ?
何だアレは?
初めてだ。
あんな、あんな珍しいものを見るのは。
ああ、気になる。
気になってしょうがない。
いったい、いったいアレからは、どんな味が……。
ソレの口元が、三日月型に歪む。
……見ツケタ。
次は、あの子だ。
絶対に、逃がさない。
必ず、必ずモノにしてやる。
じっくり、じっくりと熟成させよう。
自分の舌が最も喜ぶ、極上の味になる、その瞬間まで……。
支払いを済ませ、店を出る。
とりあえず、いまはこの衝動を抑えるために、程良い獲物を探しに行こう。
楽しみは最後に取っておく。いつものやり方だ。
コツン。コツン。コツン。
足音を立てて、ソレは街中に消えていく。
その内に、おぞましい衝動を滾らせながら。
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