【悲報】ビビリの俺、ホラー漫画に転生してしまう
青ヤギ
プロローグ
転生した先は怪異だらけ
ホラーというジャンルがとにかく苦手だ。
怖い物見たさで、刺激を求めてそれらを嗜好とする人々がいることは理解できる。
でも自分の心臓は彼らのように頑強にできていない。
ホラー映画なんて見たら絶対に失神するし、お化け屋敷なんて入り口に立っただけで膝がガクガクと震えて、腰を抜かしてしまう。
夏休みになると必ず放送される怪談スペシャルとか、心霊写真の特集とかも勘弁願いたかった。
自分と違ってそういうのが大好きな兄妹たちがテレビで見ている間、自室でタオルケットを被って震える夏を幾度も過ごしてきた。
それくらい俺はビビリな性格だった。
それをネタによく同級生にからかわれたり、イタズラでよく驚かされたものだが……こちらにとっては笑い事じゃない。
本当に笑い事じゃない。
いや、だってさ……。
まさか、そのビビリな性格のせいで死因がショック死になるだなんて、ちっとも笑えないだろ?
念のため同級生たちの名誉のために言っておくと、べつに彼らのタチの悪いドッキリで心臓停止したわけではないので、あしからず。
頻繁にからかってくるとはいえ、決して悪人とはいえない彼らが俺の死を引きずって罪悪感を募らせるのは、それはそれで寝覚めが悪い。
では、赤の他人に悪質な精神的ブラクラを送られたのか? それでもない。
では、ビビリな性格を矯正するためホラー映画に挑戦したか? もちろんありえない。
正直……アレは何だったのか? というのが本音だ。
お化けなんて、いるはずがない。
もちろん、誰もが本当はそう理解している。
霊感を持つ人々の話も、実際のところ霊を認識できない我々一般人では真相の判別などできない。
でも、もし……。
もしも、あの日に目にしたものが、学園の帰り道に遭遇したものが……噂どおりの本物だったとしたら?
──ねえ、知ってる? 『赤い服の女』の話?
──ああ、知ってる知ってる。気に入った男に付きまとうってヤツでしょ?
──何ソレ? そんなのただのストーカーじゃん。
──まあね。でもさ……それがどうやら、ヒトじゃないらしいんだよね。
──男に捨てられた女の怨念の集合体とか、死んだ恋人の後追いをしてずっとその面影を探して
──ドれダけ逃げテも……どコまデも、本当に……。
ド コ マ デ モ
よくある都市伝説のひとつだ。
もちろん信じていなかった。信じるワケがなかった。
ただ……どれだけ信じていなくても恐怖や不安は心に沈殿するものだ。
特に、ただでさえ明かりの少ない田舎の暗い暗い帰り道では、いろいろ不穏な空想を働かせてしまう。
だから……。
アレが俺の恐怖心が見せた幻だったのか。
それとも、ただの不審者だったのか。
死んだいまとなっては、確かめる術はない。
もちろん確かめたくもない。
幻だろうと、不審者だろうと、あんなものとは二度と遭遇したくない。
あんな……。
──
現実に存在して、いいはずがないんだ。
あんなモノが。
あんな、姿も、声も、色も、ありえないモノが。
ともかく。
俺は、死んだ。
死んで……第二の生を得た。
転生というやつだ。
まさか自分がネットで流行している小説のように前世の記憶を持って転生するとは夢にも思わなかった。
そして現在進行形で、俺は全力で神様を恨んでいる。
ビビリな俺を過酷な異世界ファンタジー世界に転生させたからか?
それなら、まだマシだった。
恐ろしいモンスターだろうと物理で倒せる相手ならまだ強気でいられた。
でも、俺が転生した世界は全然そういう世界じゃない。
舞台は現代。
俺が生きた前世の世界とまったく変わらない。
そう、表面上は……。
なぜだ神様?
なぜよりにもよって、極度のビビリである俺をこんな世界に転生させた?
だって、この世界は……。
「こっくりさんこっくりさん♪ どうかお帰りください♪ ……ああ、やっぱり五円玉動かないや。ちょっと由美、わざと力入れてない? 脅かさないでよ~」
「違うわよ~。やだ、本当に動かないわよコレ。どうしよう、このままじゃこっくりさん終わらせられないじゃない……」
「……べつにいいんじゃない? 『こっくりさんが帰るまで五円玉を離しちゃいけない』なんて、どうせ脅し文句でしょ? もう遅いし、このまま離しちゃおうよ?」
「それはそうだけど……」
「なあに由美? もしかして怖いの~?」
「そ、そんなことないわよ!」
「ならいいじゃない。じゃあ『せーの』で指離そう?」
「う、うん……」
「じゃあ、いくよ? せーの……」
「っ!? おい、そこの女子たち!
この世界でそんなことしたらマジで洒落にならないから!!
「ちょっと何よあなた急に? ……って、え? ……きゃああああ!? なになに!? 窓ガラスが急に割れて……」
「いやあああああ! 何よコレ!? 化け物!? た、助けてぇえええ!」
「しまった! ちょっ、ヤメロ! こっち来んな!」
こっくりさん。
一般人でも容易にできてしまう、メジャーな降霊術のひとつ。
こっくりさんをやっている間は、決して五円玉から指を離してはならない。
その禁を破ったことで……ソレは出現した。
ギョロリと血のように赤い目玉を向け、恐怖に怯える俺たちを嘲笑うかのように、異形の牙を剥く。
もちろん、合成映像などではない。演出でもない。
ソレは、確かに、現実に、目の前に存在している。
日常を侵蝕する、闇の住人。
俺が転生した世界。
そう、ここは……。
本物の怪異が
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